受付嬢の回1
発端は、たった一言だった。
ギルドの昼。
武闘派がスープを飲みながら言った。
「なあ」
全員が無視する。
いつものことだ。
だが次の一言が世界を壊した。
「受付ってさ……可愛いよな?」
静止。
時間が止まる。
スプーンが落ちる音。
カラン。
魔術師がゆっくり顔を上げる。
「……今なんと言った」
武闘派が言う。
「いや、普通に可愛いよなって」
新人が赤くなる。
荷運び屋が腕を組む。
空気が変わる。
俺は察する。
これは戦争だ。
魔王より厄介なやつだ。
魔術師が立ち上がる。
「可愛い?可愛いだと?」
武闘派が言う。
「何だよ」
魔術師が机を叩く。
「美しい、だろうが」
どっちでもいい。
だが空気は最悪だ。
新人が小声で言う。
「いや、優しい感じが……」
武闘派が指をさす。
「ほら!優しい系だよな!」
魔術師が反論。
「知性だ。あの眼差しは知性だ」
荷運び屋が参戦。
「いや包容力だ」
どこを見ている。
受付は普通に書類を書いている。
何も気づいていない。
俺は静かにスープを飲む。
関わるな。
絶対に関わるな。
だが遅い。
武闘派が俺を見る。
「お前はどう思う?」
終わった。
一番聞かれたくない質問だ。
全員が見る。
逃げ場ゼロ。
俺は慎重に言う。
「受付は受付だろ」
最悪の答えだった。
「どういう意味だ!」
「曖昧すぎる!」
「逃げたな!」
違う。
生き延びただけだ。
そのとき。
誰かが言った。
「多数決だ」
やめろ。
なぜそうなる。
武闘派が叫ぶ。
「よし!可愛い派!」
手が挙がる。
五人。
魔術師が叫ぶ。
「美しい派!」
三人。
新人が震えながら。
「優しい派……」
二人。
荷運び屋。
「包容力派」
一人。
ぐちゃぐちゃだ。
そして問題が発覚する。
「可愛いと美しいは違うのか?」
「違う!」
「同じだろ!」
討論開始。
声が大きくなる。
受付が顔を上げる。
「……何の騒ぎですか?」
全員が黙る。
静寂。
そして武闘派が言う。
「いや、その……」
魔術師が押しのける。
「我々は真理を追求している」
違う。
暇なだけだ。
受付が首をかしげる。
「依頼、受けないんですか?」
全員がハッとする。
依頼はある。
だが今はそれどころではない。
武闘派が叫ぶ。
「よし、決着つけるぞ!」
なぜだ。
「受付に直接聞こう!」
やめろ。
本当にやめろ。
全員がカウンターに殺到。
俺は動かない。
巻き込まれたくない。
武闘派が真顔で聞く。
「俺って、どう思いますか?」
違うだろ。
魔術師が割り込む。
「いや、私は?」
新人が小声で。
「その……」
受付が一瞬固まる。
そして営業スマイル。
「皆さん、大事なお客様です」
完璧な回答。
全員撃沈。
武闘派が崩れ落ちる。
魔術師がメガネを押さえる。
新人が赤面。
荷運び屋がうなずく。
「包容力だ……」
違う。
営業だ。
俺は思う。
平和だ。
これ以上なく平和だ。
だが騒動は終わらない。
なぜなら誰かが言った。
「じゃあ一番人気は誰だ」
やめろ。
それはダメだ。
地獄の第二ラウンドが始まる。
町は今日も平和だ。
だがギルドは戦場だ。
理由は――受付が可愛いかどうか。
魔王よりくだらない。
そして俺は巻き込まれていく。




