水有料の回
朝。
ギルドに異変が起きた。
掲示板の前に、黒山の人だかり。
新しい魔王討伐依頼か?
違う。
もっと深刻だ。
《本日よりギルド内の水は有料です》
終わった。
完全に終わった。
今まで無料だった壺の水が、一杯銅貨一枚。
なぜだ。
受付が説明する。
「水道管が壊れまして」
知らん。
俺は死活問題だ。
依頼前に水をがぶ飲みして空腹をごまかす作戦が封じられた。
武闘派が怒鳴る。
「ふざけるな!」
魔術師が叫ぶ。
「魔法使いは喉が命だぞ!」
荷運び屋が言う。
「汗で三杯は飲む!」
俺は静かに言う。
「俺は五杯飲む」
一番ダメージが大きい。
受付が困った顔。
「修理費が……」
知らん。
俺の財布のほうが壊れている。
そのとき。
一人の新人がひらめいた顔をする。
「井戸から汲めばいいのでは?」
天才か?
全員が外の井戸へ殺到。
だが井戸は深い。
重い。
ロープが足りない。
しかも水は冷たい。
武闘派が言う。
「誰か汲め!」
全員が俺を見る。
なぜだ。
「お前、こういうの得意だろ」
何のイメージだ。
俺は戦闘力ゼロだぞ。
腕力もゼロ寄りだ。
だが押し出される。
ロープを渡される。
重い。
冷たい。
手が痛い。
なんで俺が。
必死に引く。
やっと上がる。
桶いっぱいの水。
達成感ゼロ。
武闘派が横から言う。
「俺が先に飲む」
待て。
俺が汲んだ。
魔術師が言う。
「いや魔法職優先だ」
新人が言う。
「平等では?」
全員が桶を掴む。
嫌な予感。
次の瞬間――
ばしゃん。
全部こぼれた。
沈黙。
俺は言う。
「有料でいいな」
全員がうなずく。
さっきまでの革命気分はどこへ行った。
結局、銅貨を払うことになった。
俺は一杯だけにする。
節約。
だが横で武闘派が三杯飲む。
許せん。
魔術師が四杯飲む。
喉が命らしい。
新人が二杯目を飲もうとしている。
俺は言う。
「お前ら、そんなに飲んで依頼中にトイレどうする」
静止。
空気が止まる。
武闘派が固まる。
魔術師の顔が青くなる。
新人がそっと杯を置く。
受付がぽつりと言う。
「森にトイレはありません」
沈黙。
武闘派が真顔になる。
「……一杯でいい」
魔術師も言う。
「私も」
新人も戻す。
結果。
俺が一番賢かった。
だが――
俺は最初から一杯しか飲んでない。
つまり得もしてない。
ただ他人が減らしただけだ。
ギルドは今日も平和だ。
水は有料。
俺の財布は軽い。
世界は理不尽だ。




