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小物の異世界生活  作者: おこげ


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7/69

7

朝、俺は現実から目を背けるために

三度寝した。

起きたら状況が改善している可能性に賭けたがそんなスキルは習得していなかった。

机の上。

銀貨一枚。

昨日と同じ。

減っていないが

増えてもいない。


「……据え置き地獄」

階下から、

女将の声が聞こえる。


「起きてるよね?」

聞こえないふりをした。


「起きてる音したよ」

床が鳴っただけだ。

俺のせいじゃない。

観念して降りる。

女将は腕を組んでいた。


「今日までだよ」

「はい」

「今日“まで”」

「はい……」

この会話、

昨日と一字一句同じだ。

朝食は、出なかった。

視線だけが、

いつも置かれているパンの位置に行く。


「今日は?」

「ないよ」

異世界、容赦がない(再)。

外に出る。

空は快晴。

小鳥は鳴き

村は平和。

俺の懐事情を除いて。

露店の前を通るたび、

匂いが刺さる。


「匂いだけで生きられたら……」

昨日の無料飯が、

奇跡だったことを噛みしめる。

昼前。

俺は村を一周した。


理由は

考える時間が欲しかったからだ。

考えた結果。

・依頼を受ける → 死の可能性

・乞食 → プライド死亡

・夜逃げ → 地図がない

どれも詰み寄り。

ギルド前。

俺は立ち止まった。

掲示板を、

じっと見る。

【倉庫整理】

【報酬:銅貨五枚】

五枚あれば、

宿一泊とパン一個。

生存ライン。

だが――

初依頼。

俺の中の警報が鳴りっぱなしだ。

「……一回だけ、聞くだけ」

自分に言い訳して、

中に入る。

受付嬢が顔を上げる。

「あ」

この「あ」が怖い。

「依頼ですか?」

「いえ……」

一拍。

「相談です」

小声で聞く。

「あの……

今日泊まるところがなくて」


受付嬢は

一瞬目を瞬かせた。

「……宿代、ですか」

「はい」

「働けば――」

「命が」

「……」

察しが早い。

「ギルドとしては依頼を受けない方に

直接金を渡すことはできません」

「ですよね」

期待していなかったが、

傷つきはした。

外に出る。

ベンチに座る。

空を見上げる。

「……今日、地面デビューか」

草原スタート、

草原エンド。

夕方。

宿に戻る。

荷物は少ない。

というかほぼない。

女将が、

カウンターに立っている。


「決まった?」

「……いいえ」

女将は、

しばらく俺を見た。

長い。

気まずい。

「今日は、泊められない」

「はい」

「規則だからね」

「分かってます」


小物でも、

そこは理解している。

俺は荷物(ほぼない

を持って

扉の前に立つ。

外は夕暮れ。

灯りが一つずつ点く。

「……お世話になりました」

言うと

女将は少しだけ

目を伏せた。

外。

風が冷たい。

昼と夜の温度差が、

じわっと来る。


「……マジで野宿か」

地面を見る。

硬そう。

人生みたいだ。

その時。

後ろから声がした。


「ちょっと」

振り向く。

女将だ。

「これ」

パンを一つ、

差し出された。

「……」

「今夜だけ」

「……ありがとうございます」

「勘違いするんじゃないよ」

「はい」

俺は村の外れに座り

パンをかじった。

硬い。

でも泣くほど美味い。

灯りのある村を

少し遠くから見る。

「……俺何してるんだろうな」

英雄じゃない。

勇者でもない。

ただ生き延びたいだけ。


その夜俺は軒下で寝た。

星はやけに綺麗だった。

「……明日こそ、本当に考えないと」

そう思いながら、

寒さに丸まる。

この世界で初めての野宿。

小物の物語は静かに

一段階

厳しくなった。

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