広場はもはや広場ではなかった回
広場は、もはや広場ではなかった。
石畳はめくれ上がり、噴水は消え、屋台は伝説になり、中央には巨大な黒殻の抜け殻が山のように転がっている。
そしてその前で、町長が膝をついている。
「……これは、広場だ」
現実逃避だ。
レナが小声で言う。
「広場って言い張れば広場らしいよ」
「やめろ」
町長がゆっくり立ち上がる。
震える指で俺たちを指す。
「勝ったのだな?」
「はい」
「町は守られたのだな?」
「はい」
「……広場は?」
レナが即答する。
「経験値になりました!」
違う。
町長のこめかみに血管が浮く。
だが、深く息を吸い、吐く。
「……命があるだけ良しとしよう」
大人だ。
その瞬間、冒険者たちが一斉に拍手する。
誰かが言う。
「参謀の指示がなかったら危なかった!」
別の誰か。
「レナが脚折らなきゃ無理だった!」
レナが胸を張る。
「でしょ?」
俺を見る。
「ほら」
何だその“ほら”は。
町長が咳払いをする。
「報酬だが」
全員が静まる。
空気が金の匂いになる。
「当初の討伐報酬に加え、特別危険手当を支給する」
ざわっ。
レナの目が光る。
「広場修復費は?」
町長がこちらを見る。
静かに。
ゆっくり。
「……それは別問題だ」
嫌な言い方だ。
レナが俺の袖を引く。
「逃げよっか?」
「逃げない」
そのとき。
ギルドの受付嬢が駆け込んでくる。
「大変です!」
全員がビクッとする。
「今度は何だ!」
「南の門の近くで、黒い小さな虫が一匹見つかったと!」
全員が凍る。
レナが真顔になる。
「嘘でしょ」
町長が崩れ落ちる。
俺は即座に言う。
「確認だ!」
全員で南門へ走る。
もう足が重い。
頼むから勘違いであってくれ。
門の近く。
兵士が槍で何かをつついている。
地面にあるのは――
黒い塊。
ピクリ。
全員が一斉に武器を構える。
レナが低く構える。
「光ってる?」
「……光ってない」
俺は近づく。
慎重に。
よく見る。
焦げた木片だ。
さっきの爆発で飛んだ破片。
兵士が言う。
「動いた気がして……」
レナが崩れ落ちる。
「やめてよほんと」
俺も力が抜ける。
町長が遠くで座り込む。
「寿命が縮む……」
静寂。
本当に、今度こそ終わったらしい。
レナが空を見上げる。
夜はもう明けかけている。
「さあ」
レナが立ち上がる。
「報酬の時間だ」
切り替え早いな。
ギルドに戻る途中、レナが言う。
「ねえ参謀」
「なんだ」
「また封印とかあったらどうする?」
俺は少し考える。
壊れた広場。
抜け殻。
小型個体。
そしてあの爆発。
「……まず遺跡を壊す前に調べる」
レナが吹き出す。
「最初からそうしよ?」
正論だ。
朝日が町を照らす。
壊れた広場も、抜け殻も、全部明るくなる。
レナが伸びをする。
「でもさ」
「なんだ」
「でかいの、ちょっと楽しかった」
俺はため息をつく。
「次は小さい依頼にしろ」
レナが笑う。
「どうせ大きくなるよ」
……否定できない。
こうして、町を揺らした黒殻事件は終わった。
広場は消えたが、町は残った。
できれば、次は広場以外でお願いしたい。




