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小物の異世界生活  作者: おこげ


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それは本当にどうでもいい午後だった。

依頼は一枚も貼られておらず、魔物の目撃情報もなく、酒場の昼営業もまだ始まらず、ギルド内には“やることがない大人たち”特有の、妙に落ち着かない静けさが漂っていた。

受付嬢が申し訳なさそうに言う。

「本日は……依頼が、ありません」

その瞬間、数名の冒険者が天井を見上げ、別の数名が椅子を傾け、レナが机に突っ伏した。

「暇すぎる」

知ってる。

そのとき、端のテーブルから小さな声がした。

「……かくれんぼでもするか?」

冗談だった。

はずだった。

レナが顔を上げる。

目が光っている。

「やる」

なぜ即決。

「いや待て、子供か」

「暇な大人のほうが危険」

正論っぽいことを言うな。

五分後。

なぜかギルド総参加のかくれんぼ大会が正式決定していた。

受付嬢がカウンターの前に立ち、なぜか進行役をしている。

「第一回ギルドかくれんぼ大会を開催します」

なぜ第一回前提。

ルール説明が始まる。

・範囲はギルド建物内のみ

・武器、魔法、爆破、斬撃は禁止

・壊したら弁償

最後の一文だけ妙に強く読むな。

鬼はくじ引き。

全員がざわつく。

引いたのは――

レナ。

静まり返る。

「終わった」

誰かが言う。

レナがにやりと笑う。

「十数える」

嫌なカウントダウンだ。

「いーち、にーい、さーん……」

全員が散る。

机の下に滑り込む者。

棚の裏に体を押し込む者。

ロッカーの中で息を殺す者。

カウンター裏に潜り込む者。

俺は考える。

レナは直感型だ。

探し方は雑。

だが破壊力がある。

つまり“普通”に隠れたら終わる。

視線の高さ。

動線。

衝動的に覗きそうな場所。

それを外す。

俺は柱を使い、静かに登る。

梁の上。

埃まみれ。

薄暗い。

最高だ。

人は“上”を意外と見ない。

勝った。

「じゅーう!」

レナが振り向く。

笑っている。

怖い。

最初に犠牲になったのは机の下の新人だった。

「足、見えてる」

即終了。

次、ロッカー。

「呼吸うるさい」

残酷。

三分で五人捕獲。

速い。

本当に速い。

だが俺は動かない。

完璧だ。

静止。

呼吸を浅く。

勝利は目前。

レナが中央で止まる。

腕を組む。

「……いない」

当然だ。

「参謀がいない」

なぜ名指し。

レナがゆっくり天井を見上げる。

やめろ。

その角度やめろ。

「あなた、上でしょ」

心臓が嫌な音を立てる。

なぜだ。

「こういうとき、上に行く顔してた」

顔で判断するな。

レナが柱に手をかける。

登る気だ。

やめろ。

梁は古い。

俺は小声で言う。

「やめろ、壊れる」

「いた」

見つかった。

レナが登る。

梁がミシ、と鳴る。

嫌な音。

非常に嫌な音。

「止まれ!」

「捕まえたら止まる」

意味不明。

次の瞬間。

梁が折れた。

俺とレナ、まとめて落下。

下にいた三人巻き込まれる。

粉塵。

悲鳴。

誰かの「いたぁい!」という間抜けな声。

静寂。

受付嬢が震える声で言う。

「建物の破壊は禁止と……」

知ってる。

レナが埃まみれで親指を立てる。

「見つけた」

勝ち誇るな。

俺は床に転がりながら思う。

なぜ全員本気なのか。

だが終わらない。

次の鬼は俺。

復讐だ。

俺は中央に立つ。

「十数える」

レナが真顔で言う。

「本気で隠れる」

嫌な予感しかしない。

「じゅーう!」

振り向く。

静かすぎる。

机の下、いない。

棚の裏、いない。

ロッカー、空。

カウンター裏、無人。

異常。

五分。

誰も見つからない。

おかしい。

レナがいない。

あいつが隠密?

絶対ない。

そのとき、入口の扉が少し揺れる。

外から声。

「まだー?」

レナがほぼ外にいる。

「建物内だろ!」

「敷居の内側に立ってる」

屁理屈が高度。

確かに足先は内側だがほぼ外だ。

周囲が笑う。

ずるい。

非常にずるい。

さらに十分。

結局、誰も見つけられない。

受付嬢が小声で言う。

「みなさん、さっきの崩落で帰りました」

振り向く。

本当にいない。

レナだけが残っている。

「勝ち?」

違う。

俺は鬼のまま取り残された。

結果。

梁は修理待ち。

机は半壊。

壁にヒビ。

受付嬢が静かに帳簿を開く。

「第二回は……未定です」

やる気だったのか。

レナが椅子に座りながら言う。

「楽しかった」

俺は天井の穴を見る。

戦闘なし。

魔物なし。

剣も抜いていない。

なのに建物が一番の被害者。

俺は静かに結論を出す。

「かくれんぼは禁止」

レナが即答する。

「じゃあ次は鬼ごっこ」

即却下だ。

それだけは本当に、町が消える。

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