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俺はギルドの壁に背中を預けていた。
今日こそ畑以外。
畑はもう生活費枠だ。
心が干上がる。
掲示板を見る。
【畑】
【畑(夜)】
【畑(鳥強化個体)】
強化個体ってなんだ。
視線をずらす。
端っこ。
しわしわの紙。
【用水路の詰まり 簡単】
簡単。
この単語は信用ならない。
だが畑ではない。
「……これだ」
紙を剥がした瞬間、周囲がざわつく。
「参謀が動いたぞ」
「水系か」
「流れを読む気だ」
読まない。
ゴミを取るだけだ。
町外れの用水路。
水は確かに濁っている。
ゴボ……ゴボ……と不穏な音。
依頼主のおっさんが腕を組む。
「最近な、流れが悪い」
「魔物は?」
「出ねえ」
「封印は?」
「ねえ」
「呪いは?」
「ねえ」
「……ゴミ?」
「ゴミだ」
冒険とは。
とりあえず棒を突っ込む。
ズブ。
何か硬い。
「……重いな」
引っ張る。
抜けない。
町人が息をのむ。
「水底に巨大な核が……」
「王都の陰謀か」
やめろ。
俺は踏ん張る。
「せーの」
ズボォォォン!!
水柱。
全員びしょ濡れ。
俺、完全に溺れかける。
「参謀が爆破したぞ!」
してない。
水が引く。
姿を現したのは――
木箱。
大量。
ぎっしり。
刻印。
王都紋章。
全員が一歩下がる。
「来たか……」
「ついに王都が……」
俺は箱を開ける。
中身。
石鹸。
ぎっしり石鹸。
沈黙。
「……」
「……石鹸?」
石鹸だ。
だが問題はここからだった。
割れた石鹸が水に溶ける。
泡。
泡。
泡。
「うわあああああああ!!」
水路が真っ白。
流れに乗って泡が町へ。
広場の噴水。
泡山。
パン屋の前。
泡。
鍛冶屋の前。
泡。
町長の銅像。
完全に雪像。
子どもが突撃。
滑る。
三人まとめて転倒。
ドミノ。
「止めろおおおお!」
だから俺を見るな。
「土嚢だ!」
なぜか俺が叫ぶ。
町人が動く。
統率が取れている。
なぜ。
俺は棒で石鹸をすくう。
目に泡。
痛い。
「参謀が前線で泡を処理している!」
前線って言うな。
三時間後。
町は無事。
だが全員ほのかに良い匂い。
鍛冶屋のおっさんが言う。
「なんか爽やかだな」
町長が言う。
「町が清潔になった」
評価の方向性がおかしい。
安心した瞬間。
ゴゴゴゴ……
用水路の奥から音。
「まだあるのか!?」
俺は嫌な予感しかしない。
次の瞬間。
ドン。
さらに木箱が流れてくる。
十箱。
二十箱。
「第二波だあああ!!」
戦争みたいに言うな。
今度は箱が割れないように受け止める作戦。
なぜか俺が配置を決める。
「そこ三人で受けろ!」
「下流封鎖!」
「子どもをどかせ!」
動きがいい。
町人が完全に軍隊。
俺は中央で指差しているだけ。
泡の王。
どうにか全回収。
用水路、正常化。
おっさんが深くうなずく。
「助かった」
報酬。
銀貨一枚。
畑三回分。
なんでだ。
俺が戻ると拍手。
やめろ。
「水の流れを読み切った男!」
「泡の暴走を制圧!」
「清潔都市の立役者!」
全部違う。
掲示板に新しい紙が貼られる。
【水害対策・参謀指名可】
増やすな。
翌朝。
町がやけにピカピカ。
石畳がつるつる。
滑る人続出。
転倒者七名。
俺のせいになる。
なぜ。
さらに数日後。
王都から商人が来る。
「石鹸が流れたと聞いて」
知るか。
「賠償を」
町人が一斉に俺を見る。
やめろ。
俺は言う。
「流通管理が甘い」
商人が青ざめる。
なぜか俺の勝ち。
やめてくれ。
その夜。
俺は宿で天井を見る。
畑よりマシかと思った。
だが違った。
畑は静かだった。
水は騒ぐ。
泡は増える。
そして町は勝手に英雄を作る。
俺はつぶやく。
「次は絶対、静かな仕事」
翌朝。
掲示板。
【風車停止・高所作業】
嫌な予感しかしない。




