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ミレアが王都へ行ってから三日。
町は、妙に普通だった。
普通に畑が荒れ。
普通にパンが焦げ。
普通に勇者が井戸に落ちた。
「これは訓練だ!」
違う。
その勇者が、珍しく静かだった。
ギルドの中央。
腕を組んでいる。
猫もいない。
井戸にもいない。
珍しい。
「参謀」
やめろ。
「俺、呼ばれた」
どこにだ。
「王都だ」
またか。
封筒を見せられる。
今度は勇者宛。
【王都直属討伐隊 特別招聘】
町がざわつく。
パン屋が言う。
「ついに本職」
八百屋が言う。
「本物案件」
俺を見るな。
勇者は言う。
「俺、本来こういう立場だからな」
井戸の住人が何を言う。
だが確かに。
勇者は勇者だ。
畑ではない。
パンの半分こでもない。
ちゃんと、外だ。
「どうする」
俺が聞くと、勇者は少し笑う。
「行くに決まってるだろ」
珍しく即答。
「この町、平和すぎる」
井戸があるぞ。
「俺がいなくても回る」
……まあ、回る。
たぶん。
騒がしさは減るが。
町がまた勝手に壮行会を始める。
勇者のマントが三枚重ねになる。
重い。
「伝説を作れ!」
「王都を揺らせ!」
揺らすな。
勇者が俺の前に来る。
「参謀」
だからやめろ。
「俺がいないと困るか?」
正直に言う。
「井戸が静かになる」
勇者は笑う。
「寂しいって言えよ」
言わない。
出発前夜。
酒場。
珍しく二人きり。
勇者が言う。
「お前さ」
「なんだ」
「なんで来ないんだ?」
王都のことだ。
俺は壁を見る。
ない。
酒場に壁際がない。
落ち着かない。
「俺は小規模専門だ」
「逃げてるだけだろ」
うるさい。
勇者は笑う。
「まあいい」
「俺はでかい方行く」
「お前はちっちゃい方守れ」
守ってない。
居るだけだ。
翌朝。
町の門。
二度目の見送り。
ミレアの時より騒がしい。
勇者が大声で言う。
「俺がいなくなっても喧嘩するなよ!」
お前が原因だ。
「参謀!」
最後に振り返る。
「町の作戦、任せた!」
任せるな。
だが誰も否定しない。
門が閉まる。
勇者、出発。
静か。
本当に静か。
ギルド。
中央が空いている。
井戸も静か。
誰も落ちない。
怖い。
数時間後。
掲示板前。
町の連中がざわつく。
「参謀」
増えた。
「勇者いない今、どう動く」
「町の士気は?」
知らん。
俺は言う。
「通常営業だ」
一瞬の沈黙。
そして。
「さすがだ……」
何がだ。
夜。
壁にもたれる。
ミレアは王都。
勇者も王都。
町は、少しだけ広くなった。
いや。
静かになっただけか。
そのとき。
ギルドの扉が開く。
知らない冒険者たち。
「勇者と参謀の町ってここか?」
やめろ。
広がるな。
俺はため息をつく。
小規模専門。
なのに。
なぜか舞台だけが大きくなる。




