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昼下がり。
ギルドは平和だった。
平和すぎて、勇者が猫に作戦会議をしているくらいだ。
そこに。
王都の紋章入りの封筒。
職員が震える。
「王都から……正式通達です」
全員が俺を見るな。
俺は関係ない。
封を開ける。
読み上げる。
「王都中央戦術補佐局より。
ミレア殿の分析能力を評価し、王都勤務への招致を――」
沈黙。
俺より先に勇者が叫ぶ。
「引き抜きか!?」
八百屋が叫ぶ。
「ついに王都が本気出した!」
パン屋が言う。
「参謀ルートだな」
俺を見るな。
ミレアは固まっている。
「え……私?」
三秒後。
町が勝手に壮行ムード。
「王都だぞ王都!」
「出世だ!」
「将来は大参謀!」
俺の肩を叩くな。
俺は何も育ててない。
ミレアが小声で言う。
「参謀……どうしましょう」
やめろその呼び方。
だがもう定着している。
俺は言う。
「行きたいのか」
ミレア、少し考える。
「……怖いですけど」
「でも、試してみたいです」
普通に前向きだ。
俺は壁を見る。
いつもの場所。
俺はここだ。
「じゃあ行け」
即答。
ミレアが目を丸くする。
「止めないんですか?」
「止める理由がない」
「町が寂しくなりますよ?」
「スプーンで一時間半使う町だぞ」
少し笑う。
数日後。
町の中央。
やたら大げさな見送り。
勇者が謎のマントを羽織っている。
「王都でも胸を張れ!」
お前が一番胸を張るな。
八百屋が野菜を持たせる。
パン屋がパンを詰める。
重い。
ミレアが俺の前に来る。
「参謀」
だからやめろ。
「私、向こうでも分析続けます」
「うん」
「でも、もし」
少しだけ間。
「向こうで変な評価ついたらどうしましょう」
それはある。
王都は規模が違う。
俺は言う。
「その時は」
「壁際を探せ」
ミレアが笑う。
「参謀らしい助言ですね」
違う。
ただの生存術だ。
馬車が出る。
町の連中が手を振る。
勇者はなぜか号泣している。
「王都を制圧しろー!」
就職だ。
静かになる町。
初めて、少しだけ空気が薄い。
ギルド。
壁際。
俺一人。
静か。
静かすぎる。
五分後。
勇者が来る。
「参謀」
増えた。
「王都との外交はどうする」
知らない。
「報告書の書式は?」
知らない。
「次の小規模案件は?」
それはある。
掲示板を見る。
【畑・カラス再発】
戻ってきた。
俺はため息をつく。
ミレアは王都。
俺は畑。
世界は分業だ。
その夜。
小さな手紙が届く。
王都から。
「参謀、
王都、広いです。
まだ誰もスプーンで会議しません。
少し寂しいです。」
俺は壁にもたれる。
そして一言。
「王都、まともかよ……」




