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小物の異世界生活  作者: おこげ


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42/70

42

始まりは、本当にどうでもよかった。

朝。

パン屋が遅刻した。

理由。

「戦略的二度寝だ」

やめろ。

俺はギルドの隅でパンをかじっていた。

そこへ八百屋が来る。

「今日はな、戦術的に店を半開きにする」

ただ寝坊だろ。

気づけば町じゅうが“それっぽい言葉”を使い始めた。

鍛冶屋。

「この剣はな……いや剣じゃないけど……

 これは攻撃的農具だ」

ただのクワだ。

洗濯中のおばちゃん。

「今日は陽光の配置が完璧」

干しただけだ。

そしてなぜか、俺を見る。

「どうだ、参謀」

知らん。

昼。

広場で事件。

パンの取り合い。

勇者と子どもが同時に最後の一個へ手を伸ばす。

空気が張り詰める。

誰かがささやく。

「参謀はどう見る……?」

見ない。

俺は言う。

「半分こ」

勇者が言う。

「なるほど」

子どもが言う。

「さすが」

さすがじゃない。

普通だ。

しかし町は騒ぐ。

「資源の再分配!」

「争いの回避!」

「最小損失!」

パンだぞ。

夕方。

さらに進化する。

子どもたちが遊んでいる。

鬼ごっこ。

だが言い方が違う。

「今から包囲網を敷く!」

「陽動だ!」

「退路を断て!」

ただ走ってるだけだ。

ミレアが呆れ顔で俺に言う。

「町がちょっとおかしいです」

「前からだろ」

「言葉の使い方がです」

確かに。

全員が“それっぽく”なっている。

夜。

ギルドで飲み会。

鍛冶屋が言う。

「参謀、今日はどう動く」

「帰る」

「撤退か……!」

帰宅だ。

そして翌日。

掲示板に新しい注意書きが増える。

【※戦略的無断欠勤は禁止】

ただの無断欠勤だろ。

なぜこうなったのか。

たぶん。

俺が昔、何気なく言った一言が原因だ。

畑仕事のとき。

「無理に動くな。

 様子を見ろ」

それだけ。

それだけが、町の中で発酵した。

今やパンを食べるのも

「計画的摂取」

寝るのも

「体力温存戦略」

昼寝は

「長期戦構想」

もう全部そうだ。

俺は壁にもたれる。

何もしていない。

なのに町は勝手に“作戦化”していく。

ミレアがぽつり。

「でも、ちょっと楽しいですね」

町を見る。

勇者が真顔で

「これは心理戦だ」

と言いながら犬とにらみ合っている。

犬、寝る。

「勝った……」

何にだ。

そして遠く。

旅人が町に入ってくる。

第一声。

「この町、会話が物騒だな……」

違う。

ただのバカだ。

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