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朝。
パンを買いに行った。
パン屋がつま先立ちしている。
ぷるぷるしている。
「……どうした」
「なんとなく」
なんとなくで足は震えない。
ギルド。
受付嬢がつま先立ち。
書類を渡すたびに上下している。
ぴょこ。
ぴょこ。
「何の訓練だ」
「特に意味はありません」
意味ないのにやってる。
振り返る。
冒険者全員つま先立ち。
重装の男がぷるぷるしている。
鎧がカチャカチャ鳴る。
床に傷が増える。
誰もやめない。
外。
農家が畑でつま先立ち。
収穫のたびに上下。
ぴょん。
ぴょん。
カカシまでなぜか傾いている。
「ミレア」
「はい」
「なぜだ」
「分かりません」
ミレアもつま先立ち。
冷静な顔で震えている。
やめろ。
理由を探す。
どうやら朝一番に通った旅芸人が言ったらしい。
「背が高いと運気が上がる」
それだけ。
町、全採用。
軽すぎる。
昼。
全員疲れている。
しかし誰もやめない。
やめたら負けの空気。
誰と戦っている。
井戸番が水をくもうとして転ぶ。
つま先のまま落ちかける。
二人が支える。
全員つま先。
不安定すぎる。
パン屋が悲鳴。
「もう限界!」
でも下ろさない。
なぜか下ろさない。
俺は普通に立っている。
「参謀殿はやらないのか!」
やらない。
やる理由がない。
「低いままでいいのか!」
何の高さだ。
精神か。
町の空気が変わる。
やっていない俺が浮く。
怖い。
俺はゆっくり、つま先立ちになる。
最悪だ。
夕方。
町全体が静かに震えている。
集団ふくらはぎ破壊イベント。
突然。
子どもが叫ぶ。
「もういいや!」
かかとを下ろす。
ペタ。
その瞬間。
全員が下ろす。
ペタペタペタペタ。
一斉着地。
音がすごい。
沈黙。
誰も何も言わない。
パン屋が言う。
「……何してたんだっけ」
知らん。
ミレアが真顔で言う。
「群集心理の実験でしょうか」
実験するな。
その日以降。
誰もその話をしない。
ただ。
町の人間のふくらはぎだけが異様に発達した。
なぜか筋肉質。
翌日。
旅芸人が戻ってきて言った。
「昨日は“背が高いと運気が上がる”でしたが
今日は“片目を閉じると恋愛運が上がる”です」
町。
全員。
ウインク。
終わり。




