王都は遠い回
その日、ギルドは妙に静かだった。
昼前。
依頼も少なめ。
俺は壁。
ミレアは本。
平穏。
そこへ。
重い扉が開く音。
ギルドに入ってきたのは、明らかに“町の空気じゃない”男だった。
黒い外套。
無駄に整った装備。
背筋が王都。
嫌な予感しかしない。
受付が緊張している。
「本日はどのようなご用件で……」
男は低い声で言った。
「小規模問題解決係」
空気が止まる。
俺、ゆっくり壁に溶け込もうとする。
無理だった。
男の視線が、一直線に刺さる。
「あなたが“参謀”か」
その呼び方やめろ。
ギルド内がざわつく。
「王都の紋章だぞ」 「貴族関係か?」
帰りたい。
男は一枚の書状を差し出した。
封蝋付き。
豪華。
「王都より正式指名」
重い。
重すぎる。
受付が震えながら読む。
「王都南区画にて発生中の連続物品消失事件。
被害は小規模だが、原因不明。
“偶発的解決能力”を持つ者を招聘する」
偶発的って何だ。
俺を何だと思ってる。
ギルド全員が俺を見る。
やめろ。
「王都か……」 「出世だな」
違う。
死亡フラグだ。
男が言う。
「三日以内に出立を」
当然のように。
ミレアが小声で言う。
「成功率、上昇機会」
黙れ。
俺は咳払いをする。
ギルドが静まる。
なんか演説みたいな空気やめろ。
「……行きません」
沈黙。
男が眉を動かす。
「理由を聞こう」
理由?
山ほどある。
「遠い」
ざわ。
「王都は遠い」
男が真顔。
「馬車を用意する」
逃げ道塞ぐな。
「大規模そう」
「被害は小規模だ」
「王都が動いてる時点で大規模です」
正論。
少しだけざわつく。
「俺は小規模専門です」
自分で言ってて悲しい。
「王都の問題は王都で解決してください」
ギルドがどよめく。
勇気じゃない。
ビビりだ。
男が一歩近づく。
圧がある。
「王都の命令だ」
重い言葉。
でも。
俺は壁際の男だ。
英雄じゃない。
「……俺が行ったら」
少し考えて、言う。
「問題が大きくなります」
全員固まる。
男が目を細める。
「どういう意味だ」
「俺は、小さいズレしか直せません」
本音だった。
「大きい場所に行くと、
俺がズレになります」
沈黙。
ミレアが本を閉じる音。
「自己評価が低い」
小声で言うな。
男はしばらく黙っていた。
そして、意外なことを言った。
「……報告にはそう記す」
え?
「“本人は小規模範囲外と判断し辞退”」
判断って何だ。
俺そんな賢い理由で断ってない。
男は踵を返す。
「だが」
振り向く。
「王都はまた呼ぶ」
やめて。
扉が閉まる。
ギルド爆発。
「断った!?」 「王都を!?」
俺は壁に戻る。
心臓バクバク。
受付が駆け寄る。
「本当に良かったんですか?」
「はい」
即答。
ミレアが静かに言う。
「あなたは範囲を守った」
「逃げただけだ」
「範囲を知るのも能力」
哲学やめろ。
その夜。
掲示板が更新された。
【小規模専門(王都辞退実績あり)】
実績にするな。
だが。
町の空気が少し変わった。
派手じゃない。
でも。
「王都を断った男」
という妙な評価が生まれている。
違う。
怖かっただけだ。
宿の部屋。
天井を見つめる。
もし行っていたら。
きっと。
俺は潰れていた。
ここは小さい町。
ズレも小さい。
俺にはそれで十分だ。
翌朝。
いつもの掲示板。
【猫捜索 銅貨三枚】
完璧だ。
俺はそれを剥がす。
ミレアが言う。
「王都規模との差が激しい」
「猫がいい」
即答。
一番怖いのは。
王都が諦めていないことだ。
でも。
今日の俺は。
猫を探す。
それでいい。




