ホラーな回
祭りが終わって三日。
町は落ち着いた。
銅像は鳥に止まられている。
俺はギルドの壁際で、完全に背景に戻っていた。
誰も触らない。
誰も祈らない。
最高。
掲示板を見る。
【倉庫番 半日 銀貨一枚】
戦闘なし。
作戦なし。
圧も不要。
完璧。
「これにする」
ミレアが横で言う。
「静的任務。適性あり」
ほっとけ。
倉庫は南区画の石造りの建物だった。
中は木箱だらけ。
乾燥肉、布、工具、よく分からない樽。
依頼主は商人風の男。
「盗難防止です。最近ちょっと物騒で」
俺はうなずく。
「立ってるだけでいいですか」
「ええ。いてくれるだけで」
またそれか。
午前中。
平和。
ネズミ一匹いない。
俺は入口横の椅子に座る。
ミレアは箱の上で本。
風が吹く。
木箱がきしむ。
普通だ。
昼前。
若い配達員がやってくる。
「荷物です」
中へ入る。
数分後、出てくる。
普通。
そのはずだった。
「……あれ」
商人が首をかしげる。
「樽が一つ足りない」
俺を見るな。
「いや、俺は座ってただけです」
「参謀さん、何か気づきませんでした?」
座ってただけだって。
ミレアが淡々と言う。
「入室者は一名」
「出たのも一名」
「物理的には持ち出し困難」
俺を見るな。
考えてない。
商人が青ざめる。
「じゃあ……消えた?」
やめろホラーにするな。
倉庫内を確認。
樽は確かに一つ減っている。
重いやつだ。
一人で持つのは無理。
俺は心底思う。
関わりたくない。
だが。
商人が真顔で言う。
「参謀さんの目の前で起きた」
責任が飛んできた。
ミレアがぼそり。
「密室消失」
楽しむな。
俺は適当に言う。
「……数え間違いじゃ」
「いえ、朝確認しました!」
強い。
そのとき。
奥の棚が微妙に傾いているのに気づく。
いや、気づいたというか。
ただ視界に入っただけだ。
「……あれ何ですか」
指さす。
棚の裏。
隙間。
商人と一緒に動かす。
ゴロッ。
樽、出てくる。
全員沈黙。
どうやら。
朝、積み直したときに転がって
棚の裏に挟まっていただけらしい。
事故。
完全に事故。
商人が感動する。
「さすがです……」
違う。
偶然見えただけ。
「冷静な観察力……」
ただボーッとしてただけだ。
報酬、上乗せ。
銅貨二枚。
いらない評価がついてくる。
ギルドに戻る。
掲示板に小さな紙。
【倉庫の密室を解いた参謀】
やめろ。
密室じゃない。
棚の裏だ。
その日から。
妙な依頼が増える。
・消えた猫を見つけてほしい
・なくなった指輪の所在
・なぜか減るパンの謎
全部、単純な勘違い。
だが。
俺が指さすと見つかる。
なぜか。
ミレアが言う。
「あなたは“気づかない力”がある」
意味が分からない。
「何も考えないからこそ視界が広い」
褒めてるのか?
俺は理解した。
作戦も圧もいらない。
ただ。
ぼんやりしていると、
世界が勝手にヒントを出してくる。
たぶん。
本当にすごい参謀なら、
理屈で解くんだろう。
俺は。
たまたま目に入っただけだ。
夜。
宿の部屋。
天井を見ながら思う。
俺は強くない。
賢くもない。
でも。
大事件じゃない小さなズレなら、
なんとなく直せるらしい。
それは。
英雄にはなれないけど、
町で生きるにはちょうどいい。
翌朝。
ギルド掲示板。
新しい分類。
【小規模問題解決係】
俺の名前付き。
……まあ。
これならまだ。
目立たない。
だが。
一番下に小さく書いてあった。
※大規模案件にも対応可能(実績あり)
やめろ。
その一文を消せ。




