30
祭りが終わった翌日。
広場は片付けられ、銅像だけが残っていた。
俺はそれを見ないようにギルドへ入る。
壁際。
いつもの位置。
静か。
誰も触ってこない。
誰も祈らない。
最高だ。
ミレアが隣に立つ。
「信仰熱、低下中」
「よかった」
「新しい依頼が出ました」
嫌な予感。
掲示板を見る。
【北門付近 簡易護衛 三時間】
普通。
最高。
普通の依頼だ。
依頼内容は単純だった。
荷馬車三台の付き添い。
魔物は弱め。
報酬も普通。
派手さゼロ。
完璧。
北門の外。
土の道。
春風。
遠くに小さなスライム……じゃない、丸い草玉みたいな魔物。
護衛の冒険者が剣を抜く。
俺は後ろ。
何もしない。
懐かしい。
この感じ。
ミレアが言う。
「今回は静観が妥当」
「だろ?」
護衛たちが普通に倒す。
何も起きない。
誰も俺を見ない。
最高。
荷馬車の御者が話しかけてくる。
「参謀さんは戦わないんですか?」
やめろその呼び方。
「専門外です」
「なるほど、後方支援か」
違う。
本当に何もしてないだけ。
途中、小さなトラブル。
車輪がぬかるみにハマる。
護衛が慌てる。
「どうする?」
俺を見るな。
俺は仕方なく言う。
「……押せば?」
全員で押す。
抜ける。
成功。
なぜか頷かれる。
「無駄がない判断だ」
押しただけだ。
三時間後。
依頼終了。
報酬、銀貨一枚。
普通。
感動。
ギルドへ戻る。
誰も騒がない。
掲示板も静か。
銅像の話題ももう出ない。
流行りは終わったらしい。
ミレアが言う。
「安定期に入りました」
「いいな、それ」
「刺激が減ります」
「それでいい」
壁にもたれる。
考える。
縁起物にもなった。
神扱いもされた。
恋愛相談もされた。
でも。
結局。
俺はこれだ。
後ろで立ってるだけの人間。
ギルドの扉が開く。
新しい冒険者が入ってくる。
キョロキョロしている。
不安そう。
少しだけ、昔のヒルダを思い出す。
俺は一瞬だけ迷って。
声をかけない。
静観。
ミレアが小さく言う。
「成長」
「何が」
「あなたが何もしないことを選んだ」
それを成長と言うな。
外は夕方。
町はいつも通り。
魔物も普通。
依頼も普通。
評価も、まあ普通。
それでいい。
派手じゃない。
伝説もない。
でも。
今日もちゃんと生き延びた。
それで十分だ。




