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三日後。
俺たちは静かにギルドの端で依頼を選んでいた。
命が安くないやつ。
畑じゃないやつ。
地面が割れないやつ。
「川の清掃……平和ですね」
新人が言う。
最高だ。
泥だけが敵。
その瞬間。
ギルドの扉が勢いよく開いた。
鎧。
槍。
大盾。
いかにも“本物”の連中が入ってきた。
空気が変わる。
受付が声を張る。
「地中型大型魔物、緊急討伐隊編成します!」
ざわめき。
俺は壁を見る。
壁は何も言わない。
「そこの君」
嫌な声。
振り向く。
鎧の男。
隊長っぽい。
「畑地帯の初遭遇者だな?」
ミレアが俺を見る。
新人が俺を見る。
お前らやめろ。
「いやあれは偶然で」
「現場を知っている人材は貴重だ」
理論崩壊組が貴重?
「我々に状況を説明してもらおう」
俺は一瞬考えた。
ここで全力で無能を演じるか。
正直に話すか。
命がかかっている。
正直に話した。
「でかいです」
「それは聞いている」
「速いです」
「他に」
「踏まれると消えます」
隊長が黙った。
ミレアが補足する。
「目が弱点の可能性」
新人が続く。
「縄張りからは出ませんでした!」
隊長、真顔で頷く。
「有益だ」
うそだろ。
「よし。補助班として同行してもらう」
「は?」
「前線には出さない」
前線じゃなければ安全だとでも?
二時間後。
森の手前。
討伐隊、二十名。
大盾持ち。
弓兵。
魔術師。
俺たち。
明らかに浮いている。
ミレアが小声で言う。
「理論の実証機会」
やめろ。
新人は震えている。
俺も震えている。
作戦説明。
「前衛が注意を引く」
「弓兵が目を狙う」
「魔術師が殻を削る」
まともだ。
ちゃんとしている。
俺たちの“威圧で立つ”とは違う。
地面が揺れた。
来た。
本物が。
前よりも近くで見る。
でかい。
やっぱりでかい。
隊長が叫ぶ。
「構え!」
盾が並ぶ。
美しい陣形。
ちょっと感動する。
魔物、突進。
盾に衝突。
地面がえぐれる。
でも止まった。
止まった。
すごい。
プロすごい。
弓が放たれる。
目に当たる。
ひるむ。
おお。
理論が通っている。
俺の叫びは正しかったらしい。
なぜか誇らしい。
次の瞬間。
魔物が潜った。
「は?」
地面に消えた。
隊長が叫ぶ。
「散開!」
遅い。
真下から突き上げ。
陣形崩壊。
盾が舞う。
プロが転ぶ。
「理論崩壊再び!」
ミレアが叫ぶな。
地面がぼこぼこ盛り上がる。
完全にフィールドが敵。
隊長が叫ぶ。
「地中移動型か!」
今さら。
新人が泣く。
「先生!」
やめろ。
魔物が再出現。
弓兵を吹き飛ばす。
強い。
本当に強い。
その時。
なぜか。
隊長が俺を見る。
「現場判断!」
やめろおおお。
全員の視線。
討伐隊まで。
なんで。
俺はただの畑係だぞ。
頭が真っ白になる。
でも。
あの時と同じ。
叫ぶしかない。
「潜る前に目を潰せ!」
「動き止めろ!」
「縄張り外に引っ張れ!」
適当だ。
半分勘だ。
魔術師が地面を凍らせる。
魔物、潜れない。
弓兵が集中射。
目に当たる。
ひるむ。
隊長が突撃。
殻に亀裂。
おお。
なんか通ってる。
魔物が暴れる。
最後の突進。
俺の方に来る。
なんでだよ。
俺は転ぶ。
情けなく転ぶ。
鎌が振り下ろされる。
終わった。
ガキン。
盾が割って入る。
隊長。
「補助班を守るのも仕事だ」
かっこいいな。
くそ。
最後は総攻撃。
殻が砕け。
巨体が倒れた。
地面が揺れる。
静寂。
本当に終わった。
討伐成功。
歓声。
俺たちは座り込む。
完全に場違い。
隊長が歩いてくる。
「助言、役立った」
「いや偶然で」
「現場勘も才能だ」
違う。
叫んだだけだ。
ギルドに戻る。
拍手。
なぜか俺にも。
やめろ。
掲示板。
新しい紙。
【地中型討伐作戦 参謀補佐:臨時参加】
俺の名前がある。
なぜ。
ミレアが言う。
「理論+現場勘」
新人が言う。
「やっぱり先生」
違う。
俺は。
逃げ遅れただけだ。
その夜。
宿。
俺は天井を見つめる。
畑は消えた。
威圧は崩壊した。
でもなぜか評価だけが上がる。
理不尽だ。
翌朝。
ギルド前に列。
「参謀さんいます?」
やめろ。
本当にやめろ。
俺の小物人生。
なぜかまた一段、
面倒な方向へ進んでいた。




