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小物冒険者の日常災害  作者: おこげ


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21/87

ほんの少し冒険者の回

その日は最初から空気が違った。

風がない。

鳥も鳴かない。

新人が言う。

「静かすぎません?」

ミレアが本を閉じた。

「……嫌な静寂」

嫌な言い方をするな。

畑の端。

土が、盛り上がった。

ぼこり。

もう一度。

ぼこり。

俺は言った。

「……モグラ?」

違った。

地面が裂けた。

出てきたのは、

巨大な何か。

黒い殻。

赤い目。

鎌のような前脚。

新人が震える。

「な、何ですかあれ」

ミレアが青ざめる。

「資料にない」

終わった。

それは畑を一歩踏んだ。

作物が一列消えた。

消えた。

踏み荒らすとかじゃない。

消えた。

「威圧だ!」

ミレアが叫ぶ。

全員で立つ。

整列。

沈黙。

巨大な魔物、

首をかしげる。

そして、

踏む。

もう一列消えた。

「効いてない!」

「理論上は!」

理論は今踏まれてる。

新人が泣く。

「先生!」

誰が先生だ。

魔物がこちらを見る。

赤い目。

ロックオン。

逃げたい。

非常に逃げたい。

ミレアが震えながら言う。

「撤退……」

「遅い!」

俺が叫んだ瞬間、

魔物が突進した。

畑が裂ける。

新人転倒。

もう理論どころじゃない。

俺は走った。

逃げるためじゃない。

転んだ新人を引っ張るためだ。

自分でも意味が分からない。

「走れ!!」

叫ぶ。

新人が動く。

ミレアも動く。

魔物、追う。

速い。

でかいのに速い。

何なんだ。

畑の柵を越える。

魔物も越える。

越えるな。

俺は石を拾った。

投げた。

当たった。

ノーダメージ。

当たり前だ。

ミレアが息を切らす。

「ごめん……私の理論が……」

「今それ言うな!」

珍しく本気で怒鳴る。

自分でも驚く声量。

魔物が鎌を振り上げた。

新人が固まる。

終わる。

そう思った瞬間。

俺は叫んでいた。

「目だ!目狙え!」

なぜそんなこと言ったのか分からない。

新人の一人が反射で石を投げる。

当たる。

魔物がひるむ。

ほんの一瞬。

「今だ走れ!!」

全員が走る。

全力。

転びながら。

泣きながら。

必死で。

畑から離れ、

森の入口まで逃げた。

魔物は追ってこなかった。

縄張りだったらしい。

畑が壊滅しただけで済んだ。

済んでない。

夕方。

全員無言。

ミレアのノートは泥まみれ。

新人は座り込む。

俺も膝が震えている。

しばらくして、ミレアが言った。

「……威圧は、万能じゃない」

「知ってた」

「私、机上だった」

珍しく弱い声。

俺はため息をついた。

「俺もだ」

「え?」

「たまたま叫んでるだけだ」

本当にそれだけだ。

新人がぽつりと言う。

「でも……助かりました」

見るな。

そんな目で見るな。

ギルド。

報告。

受付が真顔になる。

「それ、畑案件じゃありません」

知ってる。

掲示板に新しい紙が貼られた。

【緊急討伐依頼:畑地帯の地中型大型魔物】

ランク:中堅以上推奨。

俺たちを見るな。

ミレアが言う。

「……参加する?」

即答。

「しない」

新人たちも首を振る。

一致団結。

その夜。

宿。

ミレアがぽつり。

「理論、組み直す」

「好きにしろ」

「でも次は、机上じゃなくて現場から」

少しだけ、目が強い。

俺はパンをちぎりながら言った。

「次は畑じゃないぞ」

「え?」

「もう無理だ」

畑、卒業どころか破壊された。

翌日。

畑地帯、立入禁止。

俺たちは仕事を失った。

完全に。

新人が不安そうに言う。

「これからどうします?」

全員、俺を見る。

やめろ。

本当にやめろ。

俺は言った。

「……まずは、命が安い仕事はやめよう」

ミレアが頷く。

「理論も、命が前提」

新人も頷く。

こうして。

威圧理論は崩壊し、

畑は消え、

俺のツッコミも通用しない敵が現れた。

でも。

少しだけ。

少しだけだけど。

俺たちは、

畑の集団より、

ほんの少しだけ

冒険者に近づいた気がした。

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