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小物の異世界生活  作者: おこげ


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19/74

19

ヒルダが王都へ行ってから三日。

町はいつも通りだった。

驚くほど普通。

世界は個人の感傷を待ってくれない。

畑も待ってくれない。

俺は今日も立っていた。

一人。

後ろで祈る声はない。

代わりに風が強い。

なんかうるさい。

カラスもどきが三羽来た。

増えてる。

ヒルダいなくなったの知ってるのか。

俺は睨む。

カラスもどきが首をかしげる。

なぜか一羽だけ俺の足元に降りた。

近い。

怖い。

そのとき。

「……何やってるの?」

声。

振り向く。

そこにいたのは、

小柄な少女だった。

ボサボサの黒髪。

やや目つきが悪い。

手に分厚い本。

ローブではない。

杖もない。

代わりに、紙束。

嫌な予感しかしない。

「仕事だ」

俺は言う。

「立ってるだけじゃん」

正論やめろ。

少女は畑を見回す。

「これ、戦術?」

「心理戦だ」

言ってから後悔する。

目が光った。

「やっぱり!」

やっぱり、じゃない。

「動かないことで威圧を与える型……」

本をめくり始めた。

「書いてないけど理論上あり得る……」

やめろ。

理論にするな。

「君は?」

俺が聞く。

「研究者」

一番面倒なやつだ。

「名前は?」

「ミレア」

嫌な響きだ。

頭良さそうだ。

ミレアは俺の周囲をぐるぐる回る。

「足幅、一定」

「視線固定」

「無駄な魔力消費なし」

違う。

ただ疲れない立ち方をしているだけだ。

「弟子にしてください」

は?

「この“無為威圧型”を完成させたい」

名前をつけるな。

「断る」

即答。

「報酬出る」

揺れる。

「研究費ある」

かなり揺れる。

「何するんだ」

「あなたの隣に立つ」

最悪だ。

翌日。

畑。

俺の隣にミレア。

分厚い本を持ったまま立っている。

カラスもどきが来る。

二人で無言。

三十秒。

カラスが去る。

ミレアが震える。

「やっぱり効果ある!」

ない。

偶然だ。

ギルド。

掲示板に紙が増えている。

【無為威圧型・実証実験中】

誰だ貼ったの。

ミレアだ。

新人が集まる。

「これが噂の型か……」

噂になるな。

ミレアが説明し始める。

「重要なのは“存在感の希薄さ”です」

俺を見る。

失礼だ。

だが的確だ。

「この人は特に優れている」

どこが。

「自己主張ゼロ」

褒めてるのか。

その日の夕方。

なぜか小規模講習会になった。

俺は前に立たされる。

やめろ。

立つだけなら端でいい。

「まず、何も考えない」

ミレアが言う。

それは得意だ。

「次に、動かない」

それも得意だ。

「最後に、期待しない」

人生論になってきた。

新人が真似する。

畑に五人立つ。

全員無言。

異様。

カラスもどきが来ない。

たまたまだ。

絶対たまたまだ。

翌日。

依頼欄に新枠。

【立ち専門補助】

終わった。

ミレアが満足そうに言う。

「やっぱりあなた、面白い」

面白くない人生だ。

「ヒルダって人、王都行ったんでしょ?」

なぜ知っている。

「その代わり、私がいる」

代わりは求めてない。

「よろしく、先生」

違う。

俺は先生じゃない。

ただ立っているだけだ。

だが気づく。

ヒルダのときと同じだ。

また誰かが、隣に立っている。

今度は祈らない。

代わりに分析している。

うるさい。

畑に夕日が沈む。

俺とミレアが並んで立つ。

カラスもどきが遠くで鳴く。

ミレアが小声で言う。

「……ねえ」

「本当は何も考えてないでしょ?」

ばれた。

「うるさい」

「最高」

何がだ。

こうして。

ヒルダの代わりではない、

まったく別方向に面倒な新キャラが誕生した。

俺の人生は静かにならないらしい。

畑は今日も平和。

俺の周囲だけが、

なぜか賑やかだ。

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