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小物の異世界生活  作者: おこげ


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15/69

15

畑依頼が生活費枠として安定していた頃。

ある日、ヒルダが来なかった。

それだけで畑が広く感じる。

俺は一人で立っていた。

カラスもどきが二羽降りたが、特に何もせず帰った。

俺も何もしていない。

いつも通りだ。

だがヒルダがいない。

後ろで小さく祈る声がない。

なんとなく落ち着かない。

翌日。

ギルドに行く。

ヒルダが掲示板の前にいた。

真剣な顔。

嫌な予感しかしない。

「……どうしました」

俺が聞くと、ヒルダは振り向く。

少し迷ってから言った。

「私、畑……卒業しようと思います」

先を越された。

理由は単純だった。

「私、回復魔法……」

「一回も使ってません」

確かに。

転びそうになった自分に一度かけただけだ。

「このままだと」

「“祈る係”で終わります」

もう終わってる気もする。

ヒルダが指差した依頼。

【初心者パーティー補助・簡易ダンジョン】

安全設計。

罠なし。

魔物弱い。

畑より危険。

「一緒にどうですか?」

目が真剣だ。

畑で見たことのない顔。

俺は反射で言う。

「畑は?」

「……誰かが立ちます」

それはそうだ。

現場。

小さな人工ダンジョン。

観光向けみたいな洞窟。

新人三人が震えている。

俺も震えている。

最初の魔物。

小型スライム。

新人が剣を振る。

空振り。

ヒルダが慌てて回復。

初使用。

本人が一番驚いている。

「で、できました……!」

顔が明るい。

畑では見なかった笑顔。

俺は後ろで見ている。

いつも通りだ。

戦闘はあっさり終わった。

安全設計だからだ。

だがヒルダは違った。

「ちゃんと役に立てました」

小さく拳を握る。

畑では得られなかった達成感。

帰り道。

ヒルダが言う。

「畑、嫌いじゃないです」

「でも」

「ちょっと外に出たくて」

俺は何も言えない。

俺は外に出ていない。

場所が変わるだけで、立っている。

ギルドに戻ると、受付が言った。

「ヒルダさん、次も補助枠ありますよ」

ヒルダは俺を見る。

少しだけ迷う。

「……どうします?」

いつもの言葉。

だが今回は違う。

俺が決める番だ。

俺は考える。

畑は安定。

安全。

金も最低限入る。

でも。

ヒルダは一歩出た。

俺は?

「……次も行きます」

言ってしまった。

口が勝手に。

ヒルダが少し笑う。

畑のときとは違う笑い方。

こうして。

畑卒業は、

俺の意思ではなく

ヒルダに引っ張られて起きた。

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