ヒルダの回
畑依頼が、完全に生活費枠になった頃。
俺はギルドに入った瞬間、壁際に張り付いた。
目立つと畑が増える。
学習済みだ。
「……あの」
声をかけられた。
振り向く。
そこにいたのは、少女だった。
鎧なし。
武器なし。
エプロン。
「すみません」
「冒険者さん、ですよね?」
「一応」
一応、が限界。
「私、ヒルダって言います」
「回復役……希望なんですけど」
希望。
現実じゃない。
「でも」
ヒルダは続ける。
「怖いのは苦手で」
「血も無理で」
「戦闘音を聞くと泣きます」
「……畑向きですね」
彼女の目が輝いた。
「やっぱりそう思います?」
思ってない。
「畑のお仕事」
「安全だって聞いて」
「それで……」
俺を見る。
期待の目。
「俺」
「何もできませんよ」
正直に言う。
「立ってるだけです」
「すごいですね!」
どこが。
その夜。
畑。
俺とヒルダ。
「私、回復魔法使えます」
「使う場面、あります?」
「転んだ時とか」
それは自分用だ。
ガサガサ。
音。
「来ました……?」
「たぶん……」
出てきたのは、カラスもどき
大量。
畑に降りる。
「無理です!」
ヒルダ、泣きそう。
「逃げますか」
「でも評価が……」
小物の会話。
俺は、何もしない。
ただ立つ。
ヒルダ、後ろで祈る。
カラスもどきはしばらくして去った。
理由は不明。
翌朝。
農家、大感激。
「回復役までつけてくれて!」
「回復してないです」
「備えが大事!」
基準が畑。
報酬。
銅貨三枚。
俺が二枚。
ヒルダが一枚。
なぜか俺が多い。
ギルド。
掲示板。
【畑の見張り(回復役同行推奨)】
進化している。
ヒルダが言う。
「私、役に立ちました?」
「立ってました」
「それって役立ちます?」
「この世界では」
俺は思った。
俺がやっているのは
冒険じゃない。
配置だ。
「……なあヒルダ」
「はい」
「俺たち」
「何と戦ってるんだと思う?」
ヒルダは少し考えて言った。
「評価……ですか?」
深すぎる答えを出すな。




