そばに立つ回
翌日。
俺はギルドに来ていた。
理由は簡単で、昨日の銅貨四枚はもう消えていた。
使い道は覚えている。
宿代。
飯。
なぜか余計な酒。
計画性?
この世界に来た時に置いてきた。
掲示板を見る。
嫌な予感は、だいたい当たる。
【畑の見張り】
【畑の見張り】
【畑の見張り】
増えている。
明らかに増えている。
「……増殖してない?」
畑が。
依頼が。
受付嬢が声をかけてくる。
「昨日の方ですよね」
覚えられている。
最悪だ。
「最近、畑が荒らされていて」
「そうみたいですね」
「ですが、あなたが入った畑だけは被害が軽微で」
軽微。
半壊だったはずだ。
「経験者ということで、こちらはいかがですか」
差し出される紙。
【畑の見張り(別の畑)】
【夜間】
【危険度 低】
「……同じ仕事ですよね」
「はい」
即答。
逃げ道を探す。
ない。
銅貨三枚。
昨日より減っているのが、地味に腹立たしい。
夜。
別の畑。
昨日より広い。
昨日より暗い。
昨日より虫が多い。
「……報酬、逆じゃない?」
一時間経過。
何も起きない。
二時間経過。
「……今日は平和だな」
その油断が、命取りにならない世界で本当によかった。
ガサガサ。
来た。
今度は……
カボチャ。
いや、動いている。
足がある。
「……野菜じゃん」
カボチャが跳ねる。
畑を荒らす。
俺は動かない。
「……俺、見張りだよな?」
しばらくすると、カボチャは満足したのか去っていった。
被害。
中規模。
翌朝。
農家。
「いやー、被害抑えてくれてありがとう」
「抑えては、いません」
「でも全滅はしてない」
基準が低い。
銅貨三枚。
渡される。
ギルドに戻る。
掲示板。
さらに増えている。
【畑の見張り(南区画)】
【畑の見張り(北区画)】
【畑の見張り(果樹園)】
「……畑、囲まれてない?」
受付嬢が満面の笑みで言う。
「畑専門の冒険者さん、助かります」
専門にするな。
俺は思った。
この世界では
魔物を倒すより
畑のそばに立っている方が
評価されることもある。
それはそれで、どうなんだ。
宿に戻ると、女将が言った。
「畑の人」
呼び名が固定され始めていた。
俺は布団に倒れ込む。
「……俺、剣も魔法も持ってないのに」
なぜか、畑だけは守っている扱いになっていた。




