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俺はまず、自分が死んだことを認めたくなかった。
理由は簡単だ。
死ぬほどの理由じゃなかったから。
「……カップ麺で?」
白い空間で、俺は三回聞いた。
「はい、カップ麺で」
答える女は、さっきから一ミリも悪びれていない。
地味なローブ。
だらしない座り方。
神々しさゼロ。
「もっとこう……トラックとか、階段とか……」
「期待しすぎ」
「死因ガチャ外れすぎでは?」
女は書類をめくりながら言った。
「君、運悪いから」
「雑に人格否定しないでもらえます?」
「で、俺は今どこに?」
「死後の待合室」
「待合室多機能すぎない?」
「最近混んでて」
「死者増えてるんですか」
「だいたい君みたいなの」
失礼極まりない。
俺は周囲を見回した。
本当に何もない。
椅子と机と、女神(仮)だけ。
「ちなみに俺、
善行とか徳とか、ほぼ積んでないんですが」
「知ってる」
「即答やめて?」
女はペンをくるくる回しながら言った。
「じゃあ説明するね。
君はこれから異世界行き」
「はいはい」
「勇者じゃない」
「でしょうね」
「チートもない」
「知ってました」
「努力前提」
「やめてください」
女は顔を上げた。
「でも一つだけ、救いがある」
「その言い方、信用ならない」
「君、小物でしょ」
「自己申告する前に言わないで」
「小物はね、案外しぶとい」
……褒めてる?
「異世界って危険ですよね」
「うん」
「命懸けですよね」
「うん」
「俺、無理なんですけど」
「でも行く」
「拒否権は」
「ない」
即答だった。
女は立ち上がり、指を一本立てた。
「ただし、君の世界設定は“低難易度寄り”」
「それ、どういう……」
「魔王はいるけど、遠い」
「遠いなら安心」
「近づかなければ」
「近づきません!絶対!」
「あと、村は平和」
「最高」
「税金重い」
「現実じゃん」
「ちなみに、
異世界での目標とかある?」
俺は即答した。
「安全第一」
「小物だねえ」
「生き延びた人が勝ちです」
女は少しだけ笑った。
「いいね。
そういう人、意外と長生きする」
「じゃ、行ってらっしゃい」
「ちょっと待って。
あなたの名前は?」
女は一瞬考えてから答えた。
「リーネ」
「女神?」
「元・調整係」
夢がない。
リーネが言った。
「無理しなくていいから」
「それ死亡フラグですよね」
「君の場合、
無理した瞬間が死亡フラグ」
ひどい。
目を開けたら、草の上だった。
空が青い。
俺はゆっくり起き上がり、
第一声をこう決めた。
「……まず、働かない方向で考えよう」
この異世界で、
一番小さい志を胸に。
物語は、
ものすごく情けなく始まった。




