私が適当に陰毛剃ったせいで
男のパイパンには需要がない。こんな戯言を耳にしたことはないだろうか。私はそれにハッキリと異を唱える。そもそも男の陰毛、それ自体に需要がないのだ。だから煩わしいソレを、私は週に2回程剃っていた。あまり放置していると一番煩わしい時期(中途半端に生え揃い、カミソリだけでは済まずハサミまで必要になる状態)に突入し始める。だから週2で剃る。
しかし、事件は起こる。会社の同僚2人に誘われ、スパに行ったときの事だ。そう、私は確固たる信念を持ってパイパンにしている訳だが、銭湯などに行く際はそのイチモツを隠している。決して恥ずかしいからではない。何故ならこの考えに至っている男が世に浸透していないからだ。世の中の男の大半は男のパイパンを恥ずべきものとして捉えている。銭湯で自らのモノを堂々と晒して闊歩している輩などまさにそれであろう。そんな矮小な輩の冷ややかな目線や、子どもからの無用なトラブルを避けるため、敢えて隠しているのだ。私のような崇高な考えが広まれば堂々と日の下に晒せる日が来る、そう信じて生きてきた。
そんなことはどうでもいい。スパにて浴槽に浸かる前に体を洗っていた折、同僚の内の一人(以降Aと呼ぶ)に堂々と魔羅を見られたのだ。四角四面の新田と呼ばれている程堅物であるこの私にも普通に話しかけてくる程気さくな男だ。見られている自覚はあったが、わざわざ咎めることでもあるまい。そう思っていた矢先、Aがこんな小言を放ちやがった。
「新田のチン毛、なんか福井県みたいな形してるなw」
そう、確かに私の剃り残した陰毛は福井県のような形をしていたのだ。私は動揺で言葉を失った。おとなしいはずのもう一人の同僚(以降Bと呼ぶ)は私の気も知らず思わず吹き出していた。私は恥ずかしさで浴槽につかってもいないのに体が火照り始めていた。同僚は陰毛を剃っている事自体を指摘したのではなく、適当に剃っていた事を指摘したのだ。
これが私にとってどういう意味を成すか。一応忠告しておくが私は今賢者タイムでこの手記を書いているのではない。寧ろ冷静過ぎると言ってもいい。話を戻す。私はパイパンではない男を奥底で蔑んでいた。
だがAはどうであろうか。Aはパイパンでないにも関わらず私がパイパンで有ることを咎めず、ごく自然に受け入れていたのだ。この時点で私の敗北はわかりきっていた。だがトドメを刺すかのようにAは私の陰毛を福井県に例えたのだ。パッと見でそれに的確な例えを出す技量。そこにすら敗北感を覚える。
だが問題はそこではない。Aは私の信念の甘さを指摘したのだ。ノブレス・オブリージュ——高貴なる者の責務。私は男においてはパイパンこそが上であると信じてやまなかった。だからその責務を果たすため、常に毛を完全に処理しておかなくてはならなかったのだ。お前は上に立つべき人間ではない。Aはそんな大きな意味を孕んだ一言を、数秒で私に放ったのである。
その日は無力感に苛まれながら帰宅した。「男のパイパンには需要はない」——これを戯言と言い放った私も、結局は戯言を放っていたのだ。なんと愚かであろうか。私は気づけば怒りで、福井県を毟っていた。
後日。私は3日間の謹慎処分を食らった。理由は簡単である。Bが私の福井県を社内の世間話で話題に出したからである。私は社内でも四角四面の新田、なんてあだ名が付く程顔が通っている。そんな男の陰毛が福井県みたいだった、などというニュースが社内の同期や後輩には面白かったらしく、瞬く間にその話題が広まる始末。話は拗れて私は社内で陰毛を見せつける男という話にまで発展した。そして私を少ししか知らない女性の新人社員が私をセクハラで上に報告したそうだ。
結果、謹慎。
因果応報、いや、陰毛応報、とでも言うべきか。どうやら私にはこんな冗談を言える余力はあるらしい。さて、今から何をしようか。そうだな。戒めとして陰毛を伸ばしてやろう。それが私に出来るせめてもの贖罪であろうから。
... ... 新田の手記はここで途切れている。
その手記の傍らには、かつて福井県だった陰毛の一部が、今も床の隙間に落ちていた。
決して賢者タイムでこの作品を書いたワケではないです。
近い内にもう一つの作品の方も更新したいと思っています。待っていただいている方には大変申し訳ないです。




