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2-2 この世界は『ゲームの世界』特有のご都合主義は起こらない

「そこだ! ファイヤーボール!」

「ピイ!」



それから10日ほどが経過した。

俺は村の周りに現れる小さな害獣系のモンスターを退治する仕事を引き受けていた。



「ふう……こいつらなら、レベル1の俺でも倒せるか……」



この村を訪れてすぐに、俺たちが「レベル1に落とされたこと」を素直にカミングアウトしたことが功を奏し、厄介なモンスター退治の仕事は与えられなかった。

そのため、俺が行うのは害獣退治のような簡単な仕事が中心だった。



(まあ、その方がお互いにとってもいいけどな……)



この世界はモンスターを「倒したもの」が経験値を得られる。

また、彼我のレベル差によって得られる経験値が変わるため、ある程度レベルをあげると、高位のモンスターを倒さないと能力が上がらない仕組みだ。



村人たちが俺に小型モンスターの退治をお願いしたのも、彼らのレベルではもう彼らを倒すメリットがないというのも大きい。



(それにしても……本当に強くならないんだな、俺は……)



また、彼らモンスターを退治する中で気が付いたことがあった。

いくら俺が退治するモンスターが弱い奴ばかりとは言え『経験値5倍』のスキルを持つ俺は、レベル1であれば2~3体も倒せばレベルが上がるはずだ。



……だが、俺はすでに40体近いモンスターを退治しているにも関わらず、一行にレベルが上昇しないのだ。



(レベル……というより、能力そのものが固定されているんだな……)



また、村はずれでドーピングアイテムを見つけて口にしてみたが、まったく筋力が上がる感じはしなかった。


恐らくマルティナも同様だろう。

……俺たちは、どんなに頑張っても能力値そのものが上がらないのだ。



(まあ……弱者を傷つけて強くなるっていうシステムは嫌いだったから、ちょうどいいのかもな……)



だが、そのくらいのことは想定内だ。

俺がこういう小型モンスター退治の仕事をするのは、単に人助けのためだけじゃない。



「さて、戦利品は、と……」



彼らモンスターのドロップアイテムが目当てだ。

俺は今倒した子リス型のモンスター『ファット・スクイラー』の死骸を漁ると、口の中に薄緑の草が咥えられているのを見つけた。



「よし、あったあった」



そう呟きながら、ファット・スクイラーが落としたアイテム『眠りの草』を荷物袋にしまった。



(こんな『補助アイテム』なんて……レベルでごり押ししてた頃には全然気にも留めなかったけどな……)



このアイテムは名前の通り、使うとモンスターを確率で睡眠状態にできる。

だが先日まで俺は『そんなまだるっこしいことしてる暇があれば、攻撃魔法で吹き飛ばせばいいじゃんか』と思っており、まるで使ってこなかった。



そもそも、どうしても状態異常をかける必要があるときも、スリープ系の魔法を使えばいいのだから猶更だ。わずかなMPを惜しんでケチな状態異常魔法をかける奴の気が知れなかった。



……だが『低レベルクリア』のためなら、こういう状態異常を付加できるアイテムは命綱になるのは、俺は前世で十分理解している。




(けど、これだけじゃ多分、強力なボスは倒せないな……先手を取られてワンパンされるのが落ちだ……)




この10日で報酬を随分得てきたことで、とりあえず旅に必要な品々は一通り取り揃えており、回復薬の類も今度こそ大量に用意した。



……だが、これだけでは必要な装備品が足りない。



(低レベルクリアで大事なのは……防具のパラメータじゃない。特殊効果だからな……なんとか、いい装備が手に入るといいんだけど……)



そう思いながら、俺はモンスターの死骸を籠に入れて村に戻った。






「おーい、シイルさん、モンスターの解体は終わったかい?」

「あ、はい! 今終わりました!」


俺は村の解体場で、ファットスクイラーをナイフで切り分けていた。

あらかた肉と内臓を訳終えた段階で、横から村人がやってきた。


彼の名前はファルスおじさん。

この村では一番若い……といっても50歳くらいだが……男性で、何かと俺に世話を焼いてくれる。


彼は俺が解体した肉を見ながら、嬉しそうな顔を見せる。


「おお、随分手際がいいじゃんか! ……じゃあ、後はこいつをいぶしておいてくれ。やり方は分かるか?」

「はい。昔両親から教わったので」



そういいながら、俺はモンスターをフックにかけてスモーク用のチップを下に置く。



「ありがとな、シイルさん。……この村は若者がいないからありがたいよ」

「え? ……アハハ……」


俺は愛想笑いをしながらも、そのことを疑問に思った。



……一般的に『若い男性が少ない村』というのは、珍しくない。

出稼ぎや戦争で男手が取られることで、村には女性や子ども、老人が残されることなど普通のことだからだ。


だが、この村は若い男性だけでなく、若い女性も異様なほど少ない。

この時代の文明水準であれば、まだ都会に若者が集中する段階じゃないはずだ。



そのため俺は疑問に思って尋ねた。


「なんで、この村は成人がいないんでしょうか?」



尋ねると、ファルスは少し暗い表情で答える。



「ああ……実はさ、あんたが来る1カ月くらい前に……若い女たちがまとめて失踪する事件があってな……」

「そんなことが?」

「ああ。多分魔族の仕業なんだろうけどな……。それで山の中を探したら……全員が遺体で発見されたんだ。……恐らく魔族のせいだろうな」

「そうですか……」



この世界の魔族は全て現在は、ロナの部下だ。

それを思うと俺は、やるせない気持ちになりながらもうなづいた。



「それで、この村の男たちは、女……よく言えば結婚相手だな……を求めて、旅に出ちまったんだよな。そんで残ってんのは、俺たちみたいな老人だけってことさ」

「そうだったんですね……」



俺がそう神妙な表情でうなづいていると、空気が悪くなったのを察したのか、申し訳なさそうにファルスは俺の肩を叩く。



「おっと、悪いな。変な話しちまって!」

「あ、いえ!」

「けどさ、だからこそあんたみたいな若い奴が来てくれて助かるよ! それに、マルティナさんもすっかり溶け込んでるみたいだな」

「え?」



そういうと、ファルスおじさんは解体場から少し離れたところにいるマルティナを指さした。

そこでは、マルティナが村の女性陣と楽しそうに談笑しているのが見えた。

ニコニコと楽しそうにパンを焼いている姿を見て、俺も思わずほほえましい気持ちになる。


「本当にいい子だよな、あの子は。来てくれて本当に良かったよ」

「ええ、マルティナは本当にいい子ですから」

「うちの女房もさ、娘が出来たみたいで喜んでたくらいだからな」

「アハハ! それなら俺も嬉しいですよ!」



当初は彼女のことを恐れていた村人たちも、明るくて素直で勤勉な彼女と話をするうちに、すっかり村の一員として迎えてくれるようになった。まあ、彼女の『自称ドM』な本性は知られていないようだが。



そしてファルスおじさんは、不思議そうに呟く。


「けどよ。あんな優しいマルティナさんが、村を滅ぼすなんて信じられねえな……。それ以前に俺だったら、絶対にあいつを生贄になんてしねえよ」

「そうですよね……」



俺もそれには同意した。




……前から俺は、マルティナに関する『竜殺し』の逸話には疑問に思っていた。

漫画やゲームなどでは、生贄候補に選ばれた少女と、それを助けてあげたものとのラブロマンスは腐るほどある。



だが、現実的に考えれば、これはおかしい。



そういう『可愛くて、素直で、従順な美少女』が通常生贄に選ばれるわけがない。誰だってそういう女の子は手元に置いておきたいものだ。



(この世界が『ゲームの世界』なら、それでも納得したけど……どうやら、ゲームの世界じゃないみたいだしな……)



そう考える根拠として、俺は以前訪れた街の図書館に書かれていた『生贄の公式』という内容を思い出した。



その論文曰く、この世界で村人は、



・容姿レベル

・過去1カ月で『ありがとう』を言った回数

・過去1カ月で『ごめんなさい』を言った回数

・過去1カ月で笑顔を見せた回数



この4点の合計値が一番低い子どもを無意識に、生贄として選んでいるという内容だった。

つまり、この世界ではフィクションに出るような『読者(大人)が助けたくなるような幼女』は生贄にはならないことになる。



家事を手伝わない上に仕事もやらず、他責的。

何をしてもらっても『当たり前』としか感じない。

そして容姿が悪い上に不愛想。



そういう『こいつは生贄になってもしょうがない』ってやつばかり、選ばれるようだ。

逆に言えば、容姿も愛想も性格も、全てが『大人受け』するマルティナを村人たちが犠牲にするとは思えない。



そう考えていると、ファルスおじさんは日が傾くのを見て、思い出したように立ち上がる。



「……おっと、もうこんな時間か。俺は行くけど、もしもマルティナさんが困ってたら力になるからな。シイルさんも何か困ったら、いつでも言ってくれよな?」

「ありがとうございます」


どうやら、俺も彼には気に入られているようで少し安心した。

そしてファルスおじさんは農作業に戻るべく解体場を後にした。




(ふう……)


それから1時間後。

俺はファットスクイラーをあらかたいぶし終えると、もう一度村の炊事場のほうを見つめた。



(あいつも、楽しそうだな……)



相変わらず、マルティナは楽しそうに談笑しているのを見て、俺は思わず安心した。



(……ん?)


だがそんな中、一人だけ木の物陰でマルティナをじっと見ている少女の姿があった。

……まあ、大体想像はつく。



(多分、マルティナに声をかけられなくて悩んでんだな……)



そう思いながら、俺はその少女に近づいた。

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