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二度目の冒険は『低レベル縛り』でいきましょう~『自称』ドMの女勇者ちゃんと一緒に、魔王になったヤンデレ妹を討伐します~  作者: フーラー
第1章

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1-4 胸糞イベントも、マルティナにとっては「ご褒美」だ

「……ふう……終わりか……けがはないか、マルティナ?」

「う、うん……。ゴメンね、シイル? 助けてもらって……」



マルティナは申し訳なさそうに頭を下げてきた。

……マルティナは何かをしてもらったときに「ありがとう」ということは、あまりない。



自称ドMの彼女の口から出る言葉は基本的に「ごめんね」であり、そもそも『人に何かをしてもらう』ということを極度に嫌う。

そのことにいつも俺は、違和感を感じていた。



(そもそもドMって寧ろ、『サービスを受ける側』だったと思うけどな……。たいがい、Sを自称する奴のほうが尽くすけど……マルティナは尽くされるのを嫌うんだよな……)



そう思いながらも、俺は荷物袋を見せて笑みを浮かべる。



「それにしても危なかったな。死蔵していた攻撃アイテムが役に立ったな」



基本的にこの世界では「攻撃アイテム」は非売品だ。

そのこともまた、アイテムを使うことも売ることも出来なかった所以でもある。


だが、そうマルティナに笑いかけてる俺に対して、横からドカッとグリモアは突き飛ばしてきた。


「いて!」

「おい、シイル! 薬草よこせよ」

「え?」

「どうせ、前の戦いでは使ってないんだろ? ほら、早く!」

「あ、おい!」



薬草も同様に、すでに回復量が俺たちのレベルに追いつかなくなったにも関わらず、売ることが出来ずに残していた。

だが、今の俺たちなら十分な回復量になるだろう。


「ったくよ……。今更こんなクソアイテムで回復するなんてな……」



そういいながらグリモアは強引に俺から荷物袋を奪うと、薬草をがつがつと口に含む。




しばらくして体力が回復したのか、彼は一息つきながら俺に尋ねてきた。


「ふう、何とか回復したか……それでシイル、どうなんだ?」

「え?」

「分かんねえのかよ? さっきのサイクロプス倒して、レベルが上がったんじゃないのかよ?」

「……あ……」

「お前のスキルなら、5ぐらいは上がってもおかしくないだろ? どうなんだよ!」



俺の固有スキルは『経験値5倍』だ。



前世で俺はロナに対して、何も結果を出してあげられなかったことを強く悔やんでいた。

だからこそ、今世でこそ強くなって力になりたいという思いが、このスキルを与えてくれたのだろう。


この力があったからこそ、天才的な才能を持つグリモアやマルティナ達と一緒に旅が出来たのだ。まあ、この力を妹に向かって振るうことになることは皮肉だったが。



……だが、俺は『査定の宝珠』を握りしめながら呟く。



「いや……力が全然湧いてこないな……。査定の宝珠の光りかたも変わらない……」


やはり、どんなに経験値をため込んでもレベルが上がらないようだった。

これにより、俺のスキルは『強力なチートスキル』から『完全な死にスキル』になり下がったことが分かった。


それを見たグリモアとアリーナは、失望したようにマルティナに対して叫ぶ。



「んだよ! ったく、マルティナ! てめえと一緒に魔王を倒しゃ、一生遊んで暮らせるって思ったのによ! 当てが外れたっての!」

「そうよ! どう責任取ってくれるの? 今までため込んだレベルも魔法も全部パーじゃない! それもこれも、全部あんたのせいよ!」



なんて言い草だ。

そもそも、魔王討伐の旅に出る以上、命を落とすくらいのリスクは当然見越していたはずだ。


あれだけロナにコテンパンにやられて、命があるのはマルティナが最後まで抵抗を続けたからのはずだ。……そんなことも分からないのだろうか。



「ご、ごめんなさい……」


だが、マルティナはそう素直に頭を下げた。



「ったくよ……。俺はもう冒険なんて辞めだ! 王都に戻って、道具屋でも開くことにするよ。行こうぜ、アリーナ?」

「ええ。……まったく、あんたらと旅なんてするんじゃなかったわ! じゃあね!」



そして二人は、俺の持っていた荷物袋を抱き上げ、俺たちに背を向けて街道のほうに足を進めた。



「あ、ちょっと待てよ! アイテムを全部持っていく気か!?」



今の俺たちにとって攻撃アイテムは最後の生命線だ。

先ほどもついケチって中級レベルの攻撃アイテムを使ってしまったが、本当はもっと攻撃力の高いアイテムだってまだ残っている。



だが、グリモアはこちらを睨みつけながら答える。



「うるせえよ! 俺たちのレベルを1にしやがったお前らが偉そうなこと言えんのか?」

「そうよ! ……ていうかさ。文句があるなら、グリモアと戦う?」

「はは、いいなそれ! ……勝てると思うなら、かかって来いよ? あん?」



アリーナはグリモアの影に隠れながらニヤニヤと笑ってきた。

……全員のレベルが1であるなら、一番重装備が出来るグリモアに勝ち目はない。

俺は思わず押し黙るが、グリモアは更に俺の胸倉を掴みあげてきた。



「けど、まだ気がおさまんねえ……! そうだ、お前らの金もよこせよ!」

「うわ!」



さらにグリモアは、俺たちが腰に括りつけていたお金も全て奪い取ってきた。



「マルティナ、てめえもだよ! もうお前は勇者じゃねえ、ただの女のガキだろ?」

「きゃあ!」


俺だけじゃなく、マルティナのこともドカッと突き飛ばしてきた。

彼女の小さな体を突き飛ばして、腰についていた金貨が入った袋を奪う。



「あん? 文句あんのか?」



怒りと嘲りが混じったような表情で、グリモアはマルティナを睨みつけた。

グリモアは以前の冒険でも、素行の悪さをよくマルティナに注意されていた。

……そのことに対する逆恨みもあるのだろう。


だが、マルティナは、首を振る。



「う、ううん……? そうだよね、二人が弱くなっちゃったのはあたしのせいだから、いいよ……あげるね、お金……」

「聞き分けがいいじゃねえか。それじゃ、精々頑張れよ、勇者さん?」



そういうと、アリーナとグリモアは去っていった。





「二人っきりになっちゃったね、結局……」

「ああ……」


魔王ロナと戦っていた時の同じようなことをつぶやきながら、俺はマルティナのほうを向いた。



「ゴメンね、グリモアに殴られたの……あたしのせいだよね?」

「何言ってんだよ。悪いのはロナ……いや、魔王ロナだ。……俺の妹が、お前たちに呪いをかけたのが原因なんだからな」

「そ、そうかな……けど……今だから言っちゃうけどさ……」



そういうと、マルティナはまた興奮したような表情を浮かべた。




「あの、グリモア達の失望交じりに突き飛ばした時にあたしに見せたあの目、良かったなあ……」




「はあ?」


出たよ、と思いながらも俺は少し呆れた。



「だってさ! 今までグリモアはさ、あたしのこと『強くて怖い勇者』だと思って、遠慮してたじゃん!」

「ま、まあな……」

「それがさ! あたしをあんな風に『弱者を見る目』でさげすんで来て、しかもゴミみたいに突き飛ばしてくるんだよ? 最高に興奮したんだけど!」



彼女は決して皮肉や強がりで言っているわけじゃない。

自称『ドM』の彼女は、肉体的な苦痛だけでなく、ああやって誰かにさげすまれたり、見下されたりすることを好む。



……だが、彼女のその歪んだ性癖は恐らく先天的なものではないのだろうと俺は勘ぐっているのだが。


そんな俺の気持ちを知らないマルティナは、ニコニコと笑いながら答えた。



「これからさ! 『力を失った勇者』として、あんな風に周りからバカにされて、失望されて、見下されて……そんな最下層な人生を楽しめるんでしょ? 正直、楽しみなんだよね!」

「……やれやれ……」



だが、それとなく詮索しても彼女は過去を話したがらなかった。

……恐らくは、よほどトラウマになるような出来事があったのだろうが、今はそれについて言及する気は起きない。



「とりあえず、あそこの村に行こう。腹も減ったしな」

「うん! けど……お金はあるの?」

「ああ、今夜の宿代くらいはな」



そういって、俺は靴の中に隠していた紙幣を取り出した。

これは、万一の時に残しておいた路銀だ。……まさか、仲間に有り金を奪われて使うことになるとは思わなかったが。


グリモアたちは王城に向かったが、今の俺たちの装備では恐らくは王城までたどり着くことは難しいだろうし、あいつらと一緒に街道を歩くのはもうごめんだ。


いずれにせよ、村でしばらく休養は必要だろう。



「今日はこの金で宿を取ってさ。これからのことは明日考えるとしよう」

「そうだね。……ゴメンね、シイル?」

「気にすんなって」




だが俺は、魔王ロナを止めることを諦めたわけじゃない。



……俺はあいつに前世で、何もしてやれなかった。

実際、先の戦いでも、ロナは俺に対して、恨みごとをずっと呟いていた。



正直、俺はロナに恨まれて当然の兄だったのだろう。



だが、それでも俺は魔王となったロナが人間を傷つけ、苦しめるのを止めないといけない。

そのためなら命だって捨てる覚悟だ。



それに、希望がまったくついえた訳じゃない。

先ほども、本来ははるかに格上なはずのレッサー・サイクロプスをアイテムの力で退けることが出来たんだ。



(たとえレベル1になったとしても……! アイテムを失ったとしても……! 元の世界でさんざん『低レベルクリア』をやってきた俺なら、きっと戦えるはずだ……!)



そう胸に誓いながら、俺は村に向けて歩を進めた。

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