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二度目の冒険は『低レベル縛り』でいきましょう~『自称』ドMの女勇者ちゃんと一緒に、魔王になったヤンデレ妹を討伐します~  作者: フーラー
第4章

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4-9 レールの上での戦いは……ロマンだ

「熱いな、このバトルステージは……」



暗闇の中をトロッコがとんでもない勢いで疾走しながら、俺達を乗せている。

鉄の車輪はキーキーと凄まじい唸りとともに火花を飛ばしている。

凄まじい風が頬を叩くように吹き付けてくる。


俺たちは立っているのもやっとな状況で、四天王の一人であるキング・ゴーレムの『フロア・デック』と対峙していた。



セドナは彼から目線をそらさないまま、俺に叫ぶ。



「ゴメン、シイル! あの護符、どこかに落としちまったんだ!」

「なに?」


あのチートアイテムである『野生の護符』を落としてしまったのは、少し痛い。

恐らく、俺が起こしてしまった爆風に巻き込まれた際に吹き飛んだのだろう。こんなことなら、護符をセドナの服に縫い付けておくべきだった。



「悪い、俺のせいだ……けど、作戦に支障はないはずだ! マルティナ、頼むぞ!」

「うん!」



そういうとマルティナはフロア・デックの前に立って笑みを浮かべる。




「まったく、こんな鉄くずがまだ動いているなんて……。見た目もダサいし、力しか能がなさそうだし……。本当に無能の集まりなんだね、キミを作った人はさあ!」

『ホウ……ソレハ主ヘノ侮辱ト判断スル……』

「へえ、分かるんだ? そうだよ、バカにしてるんだよ、キミたちを作った三流魔導士をね!」

『主ヲ侮辱スルノデアレバ、死ヲ与エヨト、我ラハ命ヲ受ケテイル……。故二貴様ヲ最優先デ排除スル……』



そういうと、フロア・デックは攻撃対象をマルティナに移した。



(流石だな……)



マルティナの固有スキルの挑発タウントは、無生物であるゴーレムにも有効なのだ。だが、マルティナに向けて拳を振り上げた瞬間。



「そこだ!」


セドナの技『足払い』が命中した。

見た目よりもかなり※体重の重いセドナの一撃は、寧ろこういう崩し技の時にこそ威力を発揮する。



(※本編に出るセドナの体重は、120キロくらいです)



『ム……何故……!?』



外見から想定もできないほどの重い蹴りに、フロア・デックは思わず身体をぐらつかせる。



「よし、やっぱりこの状態異常は効くな……」


俺は心の中でガッツポーズをした。

眠り攻撃が効かないゴーレムであっても、こういう『スタン』は効果がある。奴は大きな隙を作った。



そしてちょうど、トロッコ坂道に差し掛かった。ここからは日光の『いろは坂』のような折り返しが何度も続いている。

これは絶好のチャンスだ。


「よし、今だ!」

「うん、行くよシイル!」


俺たちはセドナにトロッコの操縦を任せて、身体を後傾させているフロア・デックにとびかかる。



『ム……!』


フロア・デックは身体を起こせず、そのままトロッコから落下した。

がりがりと坂を滑り落ちるフロア・デックの上に俺たちはサーフィンの要領で飛び乗る。



「うおおおおお!」

「シイル、気を付けて!」


サーフィンというより、斜面を滑り落ちるその様は、まるで草ぞりだ。

マルティナも奴に飛び乗るが、やはりゴーレムはでこぼこした体ということもあり、態勢を崩す。



……ここでソリ代わりのフロア・デックから落下したら、最期だ。

俺はマルティナに手を伸ばす。


「危ない、マルティナ!」

「うわ! ……ありがと、シイル!」


そしてマルティナは少し安堵したような表情を見せた後、俺にアイテムを渡してくれた。



「はい、シイル! 少し壊れたけど、数は十分あるよ!」

「ありがとな、マルティナ! 行くぞ!」

「うん!」



そういって、俺たちはありったけの補助アイテム『詐欺師の目明し』をゴーレムに投げつける。


これは、試金石とともに金の真贋判定に使われる薬品であり、金属を溶かす効果がある。鉱山の街ミーヌには、あって当たり前の道具だ。



フロア・デックのように金属ゴーレムの場合には特効になると踏んで、前日のうちに買っておいたものだ。



「手を貸してくれ、マルティナ!」

「勿論! ……ここだよね、急所は!」



ゴーレムの顔面、手足、そして何よりEmethの札が隠されていると思しき心臓部に薬品を次々にぶつけていく。




『グオ……ヨセ……機能ガ……止マル……!』

「まだまだ、こいつも喰らえ! 低レベルクリアの必携品だ!」



そして俺は、ゴーレムの足元に『蝸牛かたつむりの足跡』を投げつけた。これは先日王都周辺のモンスターを倒している中で入手したアイテムだ。


いわゆる粘着のりのような代物で、使うと対象の素早さを下げられる効果がある。

正直、先制を取る必要性はレベル差でごり押しするようなプレイの中では意味は薄い。


だが、低レベルクリアの場合は先制攻撃は必須だ。

セドナのスタン技は、こいつよりも素早くないと効果がないため、今のうちにデバフをかけておかなくては勝ち目がない。


また、この『蝸牛の足跡』を使ったのは、猛烈な勢いで坂を滑り落ちる俺たちのブレーキにするためでもある。



『貴様ラ……! 足ヲ封ジルか……ダガ損害ハ軽微……覚悟スルコトダ……」


速度が減衰したこともあるのだろう、フロア・デックは身を起こそうとしてきた。

ここで一撃でも貰ったら俺たちに勝ち目はない。セドナと合流が必要だ。



「そろそろだな……。飛ぶぞ、マルティナ!」

「うん!」



そして俺たちはスラロームを走っていたトロッコに向けて飛び上がる。



「よっと……。どうだい、うまくいったかい?」

「ああ! だけど、まだ倒し切れてない……来るぞ!」

『参ル……報復ヲ敢行スル……』



坂を利用して相当に身体を削り取ったにも関わらず、フロア・デックはまだ動作する。

……やはり、Emethの札を何とかしないとダメか。だが、すでにその弱点は先ほどの攻撃で露出している。



フロア・デックは大きくジャンプして、こちらのトロッコに飛び乗ってきた。



『フン……!』



そして全身から凄まじい蒸気を噴き出した。……なるほど、原始的ながら蒸気機関を補助動力に用いているのか。



『ドウヤラ、過小評価ヲシテイタヨウダ……。全力デ排除スル……』


そういうとともにフロア・デックはこちらに襲い掛かってくる。

……だが、すでに素早さのデバフの効果でセドナのほうが速さは上だ。



「そこ!」


二度目の足払いがフロア・デックにさく裂した。



『ヌウ……』


通常の地面で戦っているのであれば、この程度の足払いは難なく耐えられるだろう。

だが、今は不安定なトロッコの上だ。フロア・デックは態勢を戻せずにズシンと身体を倒す。


「今だね!」


そういうと、マルティナはフロア・デックの懐に飛び込むと、強引にゴーレムの心臓部をひっつかんで素手でこじ開ける。


「く……!」

『何……貴様……正気カ……!?』


フロア・デックが驚くのも無理はない。

まだ、その心臓部には俺がかけた『詐欺師の目明し』が残っている。


ジュウ……と自身の皮膚が焼けるのも気にせず、マルティナは弱点を露出させてくれた。

さらにマルティナはフロア・デックの顔を隠すように飛びつく。



(くそ……!)


……先ほどまでの俺だったら、彼女に『危ないから戻れ!』と叫ぶところだっただろう。

だが、それをマルティナが望むわけではない。……不本意だが、マルティナを『モノ』として使いつぶすことこそ、彼女の意思を大事にしているということなのだから。



「よし、シイル、お願い!」

「……分かった!」



そういうと、俺は詠唱を始めた。

俺の唯一使える魔法であり、もはや共通言語。そしてファンタジーの代名詞。



「神より堕天したものルシファー、そのものより与えられし力、我がもとに集え……!」



……幸い、このあたりは開けた場所だ。

ガスのにおいもしない。



俺はセドナの方を見やる。彼女も俺の意図を察したらしく、ダッと駆け出す。


「喰らえ、ファイヤーボール!」

『何……!』



レベル1の俺が使うこれは所詮チンケな火球だが、ゴーレムの札を燃やすには十分だ。

だが、フロア・デックはそれをかき消そうと両腕を構える。



『コンナモノ……弾キ飛バセバイイ……』

「させないよ!」



だが、それは想定内だ。

セドナが大きく両足を開脚させると、その両腕を強引にこじ開けさせる。セドナはロボット故、180度の開脚はお手の物なのだろう。



『ム……腕ガ閉ジヌ……! 貴様……!』

「身体が金属なのは、あんただけじゃないんでね!」


身体が重く固いセドナだからこそ、フロア・デックの押しつぶしにも耐えることが出来る。


そして俺の放った火球はゴーレムの心臓に直撃し、ゴオオオオ……と、凄まじく燃えあがる。マルティナが事前に油をかけていたのだろう。



「よし、やったあ!」


そうマルティナは喜びの声を上げてフロア・デックから飛び降りる。



「ふう……」



また、俺の目でも奴の心臓の札が燃えあがるのを確信した。

……だが今度は油断しない。奴が最期に何をするのかを見届けようと俺は身構えた。


すると、フロア・デックは俺たちにではなく、半ば注意喚起をするような事務的な口調でこうつぶやいた。




『中枢二甚大ナダメージ……。機能……停止寸前……鹵獲防止のため……自爆シマス……』

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