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二度目の冒険は『低レベル縛り』でいきましょう~『自称』ドMの女勇者ちゃんと一緒に、魔王になったヤンデレ妹を討伐します~  作者: フーラー
第3章

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3-2 勇者は魔王がいなくならないほうが都合が 

「その一撃は波風のごとし、閃光よ敵を穿て! 連波閃空撃!」

「ギイイイ!」



翌日、俺たちはディラックに先導されながら……とはいうが、実際には俺たちが道案内をしながらだが……王都への道を歩いていた。



「よし、瀕死に追い込んだぞ! さあ、二人とも! この好機を見逃すな!」

「ああ! マルティナはあっちを! 俺はあっちを倒す!」

「うん! ……やあ!」



彼は昨日の提案通り、俺たちの護衛をしてくれる。

また、経験値を俺たちに渡すためにわざと敵にとどめを刺さずに、瀕死の状態にしたら俺たちに指示を出す。……その際、妙にかっこつけた言い回しをするのが気になるが。



「ふう……なんとか倒せたようだね、シイル君にマルティナちゃん」

「ああ……ありがとな、ディラック」



俺たちはディラックが弱らせた敵にとどめを刺し、マナを体内に取り込んでいく。



(ふう……やっぱり、ダメか……)


……だが、俺たちのレベルは一向に上がらなかった。やはり、ロナにかけられた『レベルが上がらない呪い』は相当強固なものだということだろう。

その様子を見ながらディラックは不思議そうに尋ねる。



「ふむ……やっぱり君たちの呪いは強固のようだね。君たちの体は、呪いでマナが溜まらない体質になってしまったのかな?」



戦闘が終わったあと、ディラックは不思議そうに首を傾げる。

だが、俺はその質問には首を振った。



「いや……。マナ自体は体内に取り込まれているのを感じるんだ。けど……」

「うん。それが力に変わらない感じだね。なんていうか、蛇口が閉められてマナが体内に流れないっていえば分かるかな?」



ゲームの世界は現実世界と異なり「経験値が一定に溜まると突然能力が上がる」ものが多い。


この世界でも基本的にこれと同様であり、体内に取り込んだマナが一定になると、突然堰を切ったように体内に力が溢れ、筋力や魔力が上昇する仕組みになっている。

……だが『堰が切れる感覚』がいつまでたってもないのだ。


マルティナの発言に納得したようにディラックもうなづく。



「なるほど……。そういうことか。体内に取り込んだマナ自体はずっと残ってるってことだね?」

「ああ。……まあ、いつかこのマナを何かに使えるといいんだけどな」



とはいえ、現状では使い道が思いつかない。

そう聞いて、ディラックは不思議そうに尋ねてきた。



「ところでさ。君達はそんな体にされたのに、まだ旅を続けるの?」

「ああ。……俺は……ロナに会わないといけない。絶対にな」

「ふうん。……よっぽど妹のことが好きなんだね、君は……」

「そりゃ、当たり前だろ? 俺にとっては本当に、大切なんだ……たとえ魔王になっても、それは変わらない」



因みに、魔王ロナが俺の妹であることはすでに周知の事実になっている。

ディラックは少しうらやむような表情で尋ねる。



「ふうん……。僕の兄妹は、皆幼少期に病気で死んじゃったから、羨ましいな。妹と同じ時を過ごした日々がどれほど素敵だったか、教えてくれないかい?」

「え? ああ、そうだな……」



俺はどんなエピソードを離そうかと少し考えをめぐらせたが、ロナは少し不機嫌そうにぐい、と俺を押しのけてディラックとの間に入り込んできた。



「あたしは前、その話聞いたからつまんない! それより、ディラックのこと教えてよ!」

「僕のこと?」

「そう! ディラックはそもそもさ。なんで王都に行きたいの?」

「え? ああ……それは、それさ」



そういってディラックはマルティナの胸元に輝いている宝石を指さした。

これは『勇者の証』という王様から賜った貴重品だ。



「僕はさ。『勇者の証』を貰うために王都に行くつもりなんだよ」

「へえ。キミも勇者として戦いたいの?」

「アハハ、まさか!」



マルティナの質問に対してディラックは首を振った。



「その証があったらさ! 宿屋も安くいつでも泊まれるし、船だっていつでも乗り放題になるじゃないか! そんな美味しいアイテム、貰わないわけには行かないだろ?」



やっぱりか、と俺は少し心の中で呆れた。


この『勇者の証』を持つものは、町で特別な待遇を受けられる。

具体的には、本来高価なはずの宿屋が『薬草程度の値段』で利用できたり、本来何日も待たないといけない船舶の利用もいつでも行える。



勿論『勇者の証』を持つにはある一定以上の水準の実力必要になるため、おいそれと持てるものではないが、彼のように『勇者の証』目当てに勇者を目指すものも多い。



(まあ、RPGのお約束である『異常に安い宿代』『なぜかいつでも乗れる船』を利用できるんだ。そりゃ、欲しいよな……)



俺は少し呆れながらも尋ねる。



「じゃあ、あんたはロナを倒す気はないのか?」

「勿論さ! 僕の人生のモットーは『美味しいとこどり』だからね! そこそこのモンスターを倒して、村人たちにチヤホヤされたいのさ!」



やっぱりか。

どこまでも、予想通りの反応をするんだな、こいつは。



「正直に言うと、魔王様は今のまま『女の子たちが僕らに守ってもらわないと、外も歩けない世界』を作っていてほしいんだよ」

「女の子に?」

「モンスターを斬り殺すだけで『ああ、素敵な方! なんて力なんでしょう!』って言われるだろ? そんな今の時代って最高じゃないか!」



つまり彼は『暴力の強さがそのまま異性獲得の優位性に繋がる世界』を好むのだろう。

……正直モテない男がよく妄想する、その考えは好きにはなれない。そう思って反論の言葉を考えていると、突然マルティナは叫んだ。



「ディラック! それ、間違ってる! キミはおかしいよ!」




少しムッとした表情のマルティナは、ディラックの前に立って不満そうな表情で答える。



「へえ……おかしい?」



ディラック自身、今の発言には自虐も含まれていることが分かっていたのだろう。反論しようと口を開く。



「……まあ、この世界が『まとも』なら、そうだろうね。けど、僕はさ……」

「だってさ! 世界が平和になったら、勇者は用済みになってさ! それで周りから、ゴミみたいに捨てて『もらえる』んだよ? 最高じゃないの、それ?」

「そう、用済みに……え?」



だが、この反論は想定外だったのだろう。

彼は驚いたように目を見開いた。……マルティナはいつもの恍惚とした表情で呟く。



「フヒヒ……だってさ! 最高のご褒美じゃない? 『お前のような異常な者は、もう必要ない』『怖いから出て行って!』って周りから蔑まれて、罵倒されて、迫害してもらえるんでしょ?」

「いや、それが嫌だから僕は……」



ディラックが口を挟もうとするが、ロナは興奮した様子で止まらない。



「それでさ! 『お前はもう魔王の魂が宿ってる』みたいに冤罪着せられてさ! 最後は処刑なんかもされちゃったりしてさ! ……ああ、考えただけで興奮しちゃうよお……ディラックは違うの?」

「え? あ、その……いや……」



その彼女の訳の分からない発言に、ディラックは困惑の表情を浮かべていた。

……流石にこれ以上は可哀そうか。そう思った俺は二人の間に割って入った。



「ま、まあさ。こいつはちょっと特殊なんだよ。……だから、気にしないでくれ、な?」

「あ、うん……」



そういいながらも、まだ引いているのが分かる。

話題を変えようと焦ったのか、ディラックは尋ねてきた。



「そ、そうだ。今度は君たちに質問だ。……君たちは王都に行くんだよね? 通り道っていうのもあると思うけど、他に何か用があるのかい?」

「え? ああ。私たちは逆」

「逆? まさか……」

「うん! この『勇者の証』を返しに行くためだよ」

「ええ!?」



ディラックは、またしても驚いた表情を見せた。

まあ、この『勇者の証』は誰もがうらやむアイテムだから当然か。



「なんで? それってすごい便利なアイテムじゃんか!」

「うん。……けどさ、私たちはロナちゃんに負けちゃって、レベルも1に戻ったから……もう、勇者を名乗る資格がないでしょ? だから返さなきゃと思って」



当然だが、今まで勇者の証を賜って返したものなどいない。

そのためディラックは俺のほうを見て尋ねてくる。



「シイル君はそれでいいのかい?」

「まあな。……宿代だって、元々出所は誰かの税金だろ? 『勇者の資格もない奴』がさ。いつまでもこの勇者の証を使って、皆に迷惑をかけるわけにもいかないからな」

「そ、そうか……」



少し表情が曇ったディラックの肩をマルティナはポンと叩いて笑みを浮かべた。



「だからさ、ディラック! 王様への謁見は午後にするといいよ!」

「どうして?」

「午前中に私たちが証を返すつもりだからさ、ディラックはそれを午後に王様から貰えばいいでしょ?」



当然だがこの『勇者の証』は所有者の印が刻まれているため、他人の物を奪っても意味がない。また勇者の証の数は限られているため、先に俺たちが返せば当然ディラックにこれを受け取れる可能性は上がるはずだ。



「ディラックは『美味しいとこどり』がしたいんでしょ? だったら、あたしたちが『美味しいところ』をあげるね? 嬉しいでしょ? もっと喜んでよ、ディラック?」

「あ、ああ……そうだね……」



だが、そんなマルティナを見て、ディラックは少し複雑そうな表情を見せて答えた。

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