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二度目の冒険は『低レベル縛り』でいきましょう~『自称』ドMの女勇者ちゃんと一緒に、魔王になったヤンデレ妹を討伐します~  作者: フーラー
第2章

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2-9 次敵に遭ったら終わり、という緊張感も楽しいですよね

しばらくしてドラゴンの体からあふれ出るマナが止まり、それを取り込んだディラックの筋肉が盛り上がるのが、鎧の上からでも分かった。



「また強くなれたみたいだね……」



……恐らくちょうど今のホワイトドラゴンのマナによってレベルアップしたのだろう。

キザな口調とともに、よく手入れされていると思われる髪をかき上げながら、ディラックは俺に尋ねてきた。



「……フフフ、どうだい、シイル君? 経験値を横取りされた今の気分は?」

「……えっと、いや……」

「ふふん。ま、言いたいことは分かるけどね。けど、こういうのは早い者勝ちだからさ。文句は言いっこなしだよ?」

「いや、そうじゃなくて……」


ダメだ、まるで人の話を聞く気がなさそうだ。

ディラックはドラゴンの亡骸から出てきたゴールドも横取りしながら鯉口を切って挑発的に尋ねる。



「それとも僕と戦う気かい? ……レベル1に落ちた君たちが、僕と戦って勝てると思うのかい?」

「別に戦う気はないけどさ……だから俺はあんたに……」

「ふふん、まあ僕を憎む気持ちは分かるけどね。それじゃ、経験値とお金、ご馳走様。僕は一足先に王城に向かわせてもらうよ」



そう一方的にまくしたてると、ディラックはそのまま去っていった。




「なんだったんだ、あいつは……」

「変な人だったね……」



そう俺はマルティナと顔を合わせて不思議そうな顔をした。



「俺は、礼を言おうと思ったんだけどな……気の早い奴だ……」



正直、レベルが1から上がらない俺たちにとって経験値は無用の長物だ。無駄に俺たちが取得するくらいなら、別の人間にくれてやる方がいい。



それより、あの最後の戦いの際、俺たちが勝てるかは運だった。

下手すれば全滅すらありえたあの状況を考えれば、横取りされたゴールドと経験値を差し引いても、感謝こそすれど恨むつもりはない。



……それに、本当に欲しいのは奴の経験値でもゴールドでもなく、ホワイトドラゴンのドロップアイテムのほうだったからだ。



俺はホワイトドラゴンの逆鱗をひっぺがした。


「よし、無事でよかった……」

「それは何に使うの、シイル?」

「ああ、こいつも強力な消費アイテムだからな。低レベルクリアには欠かせない効果があるんだ」

「へえ……った……!」



だが、俺がアイテムをちょうど道具袋にしまったタイミングでマルティナは膝を着いた。

先ほどのホワイトドラゴンとの戦いで、深手を追っていたのを思い出した俺は慌ててマルティナに駆け寄る。



「大丈夫か、マルティナ!」

「う、うん……なんとか……けど……」

「けど?」

「ごめん、ちょっと歩けなそうだからさ……。あたしのことはさ、置いてって先に行って? ……後で追いつくからさ……」



あいにく回復アイテムは先ほどの戦いで切らしてしまっている。

一応応急処置はしたが『瀕死』状態なことに変わりはない。この状態ではマルティナはどんな雑魚と戦っても命を落とすことはすぐに分かった。



……一人旅の時に「死亡」したら30秒での蘇生は絶望的だ。

俺は思わず叫ぶ。



「何言ってんだよ! 置いていけるわけないだろ?」

「けど、あたしと二人じゃ、足で惑いになっちゃうでしょ! ……シイルがあたしのせいで死ぬなんて、絶対いやだから!」

「それは俺だって……!」


だが、マルティナは涙ながらに首を振る。


「あたしはシイルの『もの』だって言ったでしょ? だから『邪魔な荷物』はここに置いて行って? ……お願いだから……あたしを大切にしないで?」



……なんでこいつは、こんなに自分を蔑ろにするんだろう。

奴隷だった過去と関係があるのか? いや、今はそんなことはどうでもいい。

そう思いながらも、俺はマルティナを黙って背負う。



「ふえ……ち、ちょっと、シイル! あたしは置いてってば!」

「勘違いすんなよ? マルティナは俺の『もの』なんだろ? だったら今は『リュック』になってもらうだけだからな」

「リュック?」


俺は精一杯、悪そうな顔をして呟く。



「まだ、マルティナには利用価値があるからな。……ロナに会うためには……お前が絶対に必要なんだ。今失いたくない」

「あたしが、必要……?」

「そうだ。だからかついでくだけだ。別にお前が大切だからじゃないからな」

「けど、もしここでモンスターに襲われたら……」

「そん時は、お前を囮にして逃げるから安心しろ」



勿論これは嘘だ。

正直、そこで襲われたら最期までマルティナを庇って戦う。

それで勝てなきゃそこで潔く死ぬ。



……マルティナのような優しい少女を置いてまで生きていたくない。

その本音を知らないマルティナは、俺の発言にようやく納得したのか、



「ごめんね、シイル……」



そういって、俺に体重を預けてくれたのを見て、俺は少し安心して一息つく。

俺はドラゴンの亡骸に手を合わせた後、その場を後にした。





それから5時間ほど歩いただろうか、正午を感じさせる日差しが頭上に輝いている。

とはいえこのあたりは比較的寒冷な土地であり、日本のような蒸し暑さはなかった。



(つーか、大抵のファンタジーって大体主人公は寒冷地の出身だよな……。ヤシの木が生えた熱帯地方が故郷になることって、割と珍しいよな)


そう、どうでもいいことを考えながら背中に背負っているマルティナに尋ねる。



「……平気か、マルティナ?」

「うん。……ねえ、シイル?」

「なんだ?」

「……あったかくて気持ちいいね、シイルの背中……」

「冷えるのか? なら、俺のコートも貸すけど……」

「ううん。大丈夫……こうやって、もっとギュっとしてたいから……」

「ならいいけど……」

「ロナちゃんって不思議だよね……? こんなに優しいシイルのことを大嫌いになるなんて……あたしは、ロナみたいにシイルを嫌ったりしない。あんな風に、自分勝手に裏切ってシイルを傷つけたりなんてしないから安心して?」

「ああ……」



そうマルティナは微笑んだ。

エンカウント=死という極限状態で、こうやって笑いかけてくれるマルティナは、本当に優しい少女だ。……絶対に死なせるわけにはいかない。



「にしても……もう5時間も歩いているのに、魔物が出ないのは幸いだな」

「うん……ちょっと、不思議だね……お香の力かな?」

「それにしても、ここまで敵に出くわさないのは、ちょっと異様だな……」



俺は低レベルクリアのための必携品『魔よけの香』を焚いている。

これはよくある『魔物との遭遇率を下げるアイテム』だ。


だが、それの効果を差し引いてもモンスターの気配を感じない。

まあ一度でもモンスターに遭遇したら、その時こそ俺たちの最期になるが。



だが、そんな風に話していた、その時。

急に遠くから誰かの声のような音が森の中に響いた。


「なあ、マルティナ……なんか、変な声が聞こえないか?」

「え? ……そういえば……」



マルティナも俺から体を少し話して耳をすませる。



「泣いている、声……かな?」

「だな。恐らく人間のな……」



これに対して、俺はどう行動するか。

それについて一瞬ためらったが、覚悟を決めてマルティナに尋ねる。



「なあ、マルティナ? 今、俺たちは体力がほぼない」

「うん。もしもモンスターにあったら……」

「全滅して、殺される。……そこまでは分かるな?」

「うん。……シイルが言いたいことも分かるよ」

「……じゃあ、その答えは?」

「フフフ。あたしは『ドM』だよ? それで殺されるなら本望だって!」

「ありがとうな……」



やっぱり、困っている奴を放っておくわけには行かない。

そう思うと俺はその声のもとに歩いて行った。




数分後、俺たちは声の聞こえる場所まで近づいた。



「ここか……って、なんだこれは!」



周辺には、夥しい量のモンスターの死体が転がっていた。

正直モンスターに襲われた人間の死体が大量に散逸していると思っていたこともあり俺は少し意外な気になった。


「凄い……レッサー・サイクロプスの死体まで……誰かが倒したのかな?」

「みたいだな……だとしたら、ホワイトドラゴンみたいな奴がいるのか? ……気をつけろよ、マルティナ」

「うん、シイルも……」



そう思いながら俺は周囲を警戒しながら先に進んだ。

……すると、



「ああああああ! もう嫌だ! 帰りたい帰りたい帰りたい!」



そんな声が聞こえてきた。



「あれ、この声って……あいつだよな」

「だよね……」



そういいながら、俺はその林から顔を出した。



「なんでまたここに戻ってきちゃうんだよ~! 絶対、僕の考えだともう王城についてるのに!」



……間違いない。持ち逃げのディラックだ。

彼は涙目になりながら、地図をクルクルとまわしながら周囲を見回している。



(なるほど、そういうことか……)



見ただけでわかる、彼の目は子どものときに迷子になったときのロナのそれと同じだった。

彼は八つ当たりとばかりに近くにいたモンスターに大して思いっきり剣を振るう。



「くっそ~! このやろ! 街道はどっちだよ、この大芋虫が!」

「グピ!」

「グピじゃなくって答えを教えろっての!」



あのレベルの下等モンスターがしゃべれるわけないことは分かるだろうに。

そんな彼の愚行を見て、合点が行った。


そもそもディラックの『素早さ』なら、通常であればもう王城についているはずだ。

にも関わらずこんな場所をうろうろしているということは、相当長い時間このあたりをうろついていたことになる。



道に迷ったイライラをこの辺のモンスターたちにぶつけて倒しまくっていたため、俺たちはエンカウントしなかったのだ。



(期せずして、俺たちは2回も助けられたってわけだな……)



やれやれと思いながら、俺は持ち逃げのディラックに近づいた。

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