2-7 低レベルクリアの常套手段は、状態異常でハメる行為だ
「この!」
「喰らえ!」
それから数ターンの間、俺とマルティナはドラゴンの急所になる翼への攻撃を続けた。
確定で先手を取れるマルティナが『眠り草』を投げつけて動きを止め、効果が切れるまでひたすらバシバシと叩く攻撃だ。
「これで……逃げられねえぞ! 喰らえ、ファイヤーボール!」
『なに……! 小癪な……』
そして何度目かに放った俺のファイヤーボールがドラゴンの翼に直撃しめらめらと翼が燃えだした。
これで奴は逃げることが出来ない。だが、ホワイトドラゴンはニヤリと笑みを浮かべてきた。
『やるな……だが、これで貴様の魔法はもう打ち止めだろう?」
「……よくわかるじゃないか……!」
悔しいが、奴のいうとおり、レベル1の俺は今の一撃で魔力が完全に尽きた。
あいにく俺のいた村にMP回復のアイテムはなかった。
「けどな……ガス欠になるのは、最初から分かってたんだよ!」
そして俺は杖を握りしめ、白兵戦の構えを取る。
『ほう? 魔力の失った魔導士に何ができる?』
「であ!」
更に俺に気を取られてる隙に、マルティナが横からとびかかりながら眠り草を投げつける。
……が。
『何度も同じ手が効くか、たわけが!』
ついにその眠り草をかわされてしまった。
そしてホワイトドラゴンは大きな腕を振り上げ、マルティナに切りかかる。
『死ねい!』
「しま……マルティナ!」
ドラゴンの一撃は強烈だ。
その一撃はマルティナの心臓を貫き、
「ぎ……! かは……」
マルティナは絶命した。
だが俺は平静を保ちながらマルティナのもとに駆け寄り、アイテムを取り出す。
「悪い、マルティナ! ……また戦ってくれ!」
この世界における『死亡』は状態異常の1つだ。30秒以内なら蘇生させることが出来る。
俺は使った相手を死亡から回復するアイテム『蘇生の霊薬』をマルティナの貫かれた胸の穴に垂らす。
「う……うう……」
するとその傷はたちまちのうちにふさがり、マルティナは目を覚ます。
「……立てるか?」
「う……うん!」
俺の手を取り、マルティナは立ち上がると再度ホワイトドラゴンの方を見る。
「ふ……フヒヒヒヒ……!」
『ぐ……貴様……狂っているのか……!』
確かに一部のRPGなどでは『死亡』からの復帰は村に帰らないと出来なかったり、そもそも一度死んだら完全にロストするものもある。
だがこの世界では『死亡状態』からの回復アイテムは店売りで簡単に手に入る。
そのため、ホワイトドラゴンが驚いたのは彼女が復帰したことではない。
……勇者マルティナの見せた、不気味な笑い声と、恍惚とした表情に対してだ。
「そうだよ! ……あたしは『ドM』だから! こうやって、暴力で傷つけられるのが大好きなんだもの! 今の一撃も、お礼を言いたいくらいだよ」
『愚かな! 暴力を喜ぶものなど、狂気でしかない!』
「だろうね! けど、あたしは、あたしを傷つけてくれる痛みが欲しいの! ……それに、 シイルに『もの』として、使いつぶされるのが嬉しいの! あたしは『勇者』だから!」
そういうと、ホワイトドラゴンは一瞬だが同情的な目をマルティナに向けてきた。
『……哀れな……勇者、その人類の傀儡たる存在よ! ……その道の先は搾取のみなるぞ!』
「だからなんなの? 人間たちに搾取してもらえるなんて最高じゃん! ……さあ、もっともっと、今みたいな一撃を放ってよ? まだ、いけるんでしょ?」
『無論……! 貴様ら人間どもと同じにするな!』
マルティナの発動したスキル『挑発』に乗ったのだろう、ホワイトドラゴンはマルティナをギロリと睨みつける。
(くそ……マルティナ……すまない……!)
この世界ではどれほど強烈な一撃を受けても、HPは0以下になることはない。
だがレベル1のマルティナが受けた今のダメージは、半端な痛みではなかったはずだ。
それにもかかわらず、嬉しそうに紅潮した表情を見せる。
『今の言葉、取り消そうと思うまで……切り刻んでくれるわ!』
「フヒヒ……嬉しい! さあ、何回でも殺してみなよ! ……シイルはあたしの後ろに隠れて! あたしがシイルの『盾』になるから!」
「あ、ああ……!」
今使っている眠り草と蘇生の霊薬が尽きるまでにホワイトドラゴンの体力を削り切ることができるかは、正直運だ。
……そして何より、この作戦はマルティナの負担があまりに大きい。常人なら3回も蘇生させられたら苦痛で発狂しかねない。
「なあ、マルティナ……無理はするなよ……!」
思わず俺がそう気遣うが、マルティナは逆に怒りを込めた表情で叫ぶ。
「そんな言葉いらない!」
「え?」
「……あたしを『もの』みたいに扱ってって言ったでしょ! ……辛くなるから、優しくなんかしないで!」
「…………」
「シイルはロナちゃんに会いたいんでしょ!? そのためなら何でも利用するって言ったでしょ? ほら、構えて! ……来るよ!」
彼女はそう強い笑みを浮かべながら、壊れかけた自身の剣を振るう。
まだ12歳のマルティナに、これほどの苦痛を与えなければならない自分が憎い。
(ゴメン、マルティナ……! ゴメン……!)
だが、ロナに会うためには、こうやってマルティナを『有効活用』しないといけない。
そう思う自分に嫌悪しながら、俺は杖術の要領で杖を構える。




