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二度目の冒険は『低レベル縛り』でいきましょう~『自称』ドMの女勇者ちゃんと一緒に、魔王になったヤンデレ妹を討伐します~  作者: フーラー
第2章

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2-6 そのハグは友好の証か、それとも嫉妬か

それからあっという間に3日が経過した。

元々昼過ぎに村人に別れを告げて出立する予定だったが、マルティナの強い要望で早朝に村を出ることにした。



「そうか、行くんだな。あんたは……」

「ええ。……ロナを止めるのは、俺の義務ですから……」



朝が早いこともあり見送りをしてくれるのは、ファルスおじさんだけだった。

彼はすでに歩ける程度には回復しており、俺のことを心配そうに見つめてくる。

マルティナは少し寂しそうにファルスに笑いかけた。



「それじゃ、バイバイ!」

「ああ、二人とも元気でな。……おや?」



そう話していると、突然宿屋のドアがちりん、と鳴ってきた。



「こんな時間にお客さんか……誰だ?」

「あ、あの! ……まだ、シイルさんは居ますか?」



どうやら、村の少女だ。

みつあみをほどいて綺麗なソバージュ姿をしており、素朴だが可愛らしいドレスを身にまとっている。


俺が少し驚いた表情を見せていると、マルティナは少し不機嫌そうな顔を見せた。

だがすぐにいつものニコニコした表情を見せて尋ねる。



「あれ、こんな早くにどうしたの?」

「あ、あの、シイルさん……! 今日行っちゃうんですよね?」

「ああ」

「ちょっとかがんでください!」

「?」



そういわれて俺がかがむと、その少女は突然俺の頬にキスをしてきた。



「お、おい……」

「その、こ、これはおまじないです! ……お兄ちゃんが無事に目的を達成できるように……!」

「ハハ、ありがとうな」



まだ幼い彼女にキスをされてドギマギするほど、俺は子どもじゃない。

にっこりと笑顔を見せて、俺はそう答えると、少女は少しだけ顔を赤くして答える。



「い、いつでも帰ってきていいですから! ……その時には、私の、その……おむ」



だが、それを言い切る前に、マルティナは少女にギュっとハグをしてきた。



「ああもう、可愛いんだから~!」

「ふ、ふえ……」



憧れのマルティナにハグをされたせいだろう、少女は少しドギマギしたような表情を見せてきた。



「村では本当にありがとね! ……今度さ。また、一緒に木の実摘みに行こうね?」

「は、はい……!」



少女もそういわれて恥ずかしそうに答える。

そしてマルティナは俺の手をぐい、と引いて宿の出口に向かった。



「ほら、もう行かなきゃね、シイル! ……それじゃ元気でね、ファルスおじさん!」

「え? あ、ああ。マルティナさんも気を付けてな」



そして俺たちは村を後にした。







それからしばらく街道を歩き、空が暗くなり始めてきた頃。

そろそろキャンプかな、と思った時にマルティナは尋ねてきた。



「ねえ、シイル?」

「なんだ?」

「やっぱりさ。ホワイトドラゴンがこのあたりにいるなんておかしいよね?」

「ああ……」



ホワイトドラゴンの強さは例えるなら『ラストダンジョンの要注意雑魚』であり、もし奴がゲーム序盤の通り道に陣取れば、まずレベル1の勇者は太刀打ちできない。



もしも俺が魔王として勇者を封殺するなら、同じことをする。



しかもあの村は『お年寄りだが優しい住民や、可愛い子どもたち』ばかり住んでおり、スローライフを送るのにはうってつけだ。普通は冒険を諦めて村に骨を埋めるだろう。



(ひょっとしてロナが俺……いや、マルティナを村にとどめ置くために仕掛けたのか?)



一瞬そうも考えたが、それは自意識過剰だろう。

「にしても、もう暗いな。そろそろこの辺でキャンプを……下がれ、マルティナ!」




そう言おうとした瞬間、俺は凄まじく嫌な気配を頭上に感じ、思わずマルティナを庇うように前に出た。



「ど、どうしたの、シイル?」

「……まずい、いつのまにか縄張りに入っていたみたいだな……」




俺はそう思いながら周囲を警戒する。

すると、突然凄まじい咆哮が響き渡る。



「……やっぱりか!」

「き、来たの?」



そう俺たちが驚きの声をあげていると、街道から少しそれた崖の上から、バサバサと凄まじい羽音を鳴らしながら、モンスターが現れた。



……ホワイトドラゴンだ。10mはあるであろう巨体を大きくゆるがせながら、俺たちの前に現れてきた。




『ほう、今宵の獲物は……貴様らか……』



ドラゴンは通常、人語を介することが出来る。

まあ、だからといって話が通じるとは限らないが。



「あんたが、この街道を封鎖しているホワイトドラゴンだな?}

『いかにも。魔王ロナ様の命令で、ここを封鎖している』

「なんでロナがそんなことを?」

『それは知らぬ。我らは魔王様に従うのみ。……貴様の名は?』

「魔導士シイルだ」

「あたしは勇者マルティナ」



その名を聞くと、ニヤリとこちらを嘲るような笑みを浮かべてきた。



『ほう……『元』伝説の勇者様と、『元』伝説の魔導士様か……今となっては、凡人にも劣る弱者になり下がったそうだな』

「知ってるんだな、その話」

『無論。魔王様より耳にしておる。それに……貴様の仲間だった奴らもここを通ったからな』



そういうと、ホワイトドラゴンはフン、と鼻息を鳴らした。

よもやと思い、俺は尋ねる。



「ひょっとして……戦士グリモアと僧侶アリーナを……お前は食ったのか?」

『いかにも。……見苦しい命乞いをする姿は、今思い出しても滑稽だったがな。まったく、力というよりどころを失った強者ほど惨めなものはないのだな』

「ね、ねえ……シイル、あれ……!」



よく見ると、ホワイトドラゴンの後ろには良く見知った防具が転がっていた。

……グリモアとアリーナの遺品だということは、それで理解できた。



「そうか……お前が、二人を殺したんだな……?」

『無論。レベル1になり下がったあの愚か者を殺すなど、造作もなかった』



彼らの遺品と思しき装具の中に道具袋は見当たらなかった。……恐らく最初の襲撃で崖に落としてしまったのだろう。



(グリモア……アリーナ……)



俺はあの二人のことを正直なところ嫌っていた。

だが、それでも短い間だが一緒に旅をしてきた仲だ。何より、あの二人が死んだのは俺のせいも同然だ。


正直ここに来る間に合流し、ともに奴を倒せれば、ともわずかに期待していたくらいだ。

そう思いながら歯をきしませていると、ホワイトドラゴンはこちらにぽつりと呟いてきた。



『ロナ様の命により、一度だけチャンスをやる。……貴様ら、今すぐ村に引き返すがいい。そうすれば見逃そう』



ホワイトドラゴンはそういっているが、恐らく本音は別のところにあると俺は感じた。

隣にいるマルティナは『竜殺し』の名がついている。……彼女は、今と大差ないレベルの時に村人もろとも凶悪なブラックドラゴンを屠ったとされる過去がある。



……きっと、そのマルティナのことを恐れているのだろう。

だから、俺がマルティナと『スローライフルート』を選ぶなら、危害を加えてこないだろう。


だが俺は首を振る。

ロナのもとに向かうのは俺の個人的な戦いだ。

……だが、ここで奴を野放しにすると、また人間が傷つけられることになる。



「悪いけど……俺はロナに合わないといけない。それに……」

「あたしの大好きな『人間』を殺すような化け物は、放っておけないもの! ね、シイル!」

「ああ! ……ってわけで……行くぞ!」


そういうとマルティナは剣を、俺は杖を構える。



『愚かな……まだ貴様らは、伝説の勇者だった頃の栄光が忘れられぬのか……!』



ホワイトドラゴンは、怒りというよりはどこか同情するような表情でこちらを見据え、大きく息を吸い始めた。


……あれはブレスの予備動作だ。



『貴様らではこの一撃を止められまい……灰も残らず消え去るがいい!』



なるほど、その通りだ。

俺たちのレベルが1であれば、通常奴の先制による全体攻撃でワンターンキルになる。



……だが。



「遅いよ、ドラゴン! 眠っちゃえ!」

『なに! ……グ……!』



奴が炎を放つその直前にマルティナは奴の懐に飛び込み『眠りの草』を投げつけた。

これは事前に打ち合わせた通りだ。



(やっぱ頼りになるな、この装備は……)



……ファルスから受け取り、今マルティナが装備している『愚か者のブローチ』の効果はゲーム風に言うと、



「防御力が0になる代わりに、必ずターンの最初に先制攻撃が出来る」



というものだ。



通常の冒険者なら、そんなハイリスクな装備は使わない。

だが、どのみちワンパンでやられる『低レベルプレイ』なら、実質デメリットはない。



『グオオ……小癪な……!』



また、ドラゴンはなぜか『よく眠りについている』イメージがある。

その御多分に漏れず、ホワイトドラゴンも眠り攻撃に耐性がない。



ホワイトドラゴンがぐらり、と膝をついた刹那、俺は詠唱していた呪文を放つ。



「喰らえ、ファイヤーボール!」

『ぐ……!』

「いまだ、マルティナ!」

「任せて! やああああ!」


俺がファイヤーボールを当てたうろこに、連続でマルティナが剣で切り付ける。

強力な鱗……即ちドラゴンスケイルに囲まれていることもあり、ダメージは殆どない。……だが、そんなことは当然計算のうちだ。



『ふん……貴様らも、弱者なりに策を用意したようだな……だが、その程度で……我を倒せると思うな! 魔力尽き、剣が折れた時が……貴様らの最期だと思え!』



すぐに眠りから覚めたホワイトドラゴンは、不愉快そうな表情を向けながら叫んできたが、ここでひるむようなことは出来ない。



「だろうな……けどな……!」



正直、あんな化け物とレベル1、しかも一発勝負で戦うなんて怖くてたまらない。

だが、この戦いに勝てないようでは、この先の勝負も絶望的だ。

そう思うと、俺は恐怖を必死で抑え込み、武器を構えた。




「まだまだ、夜はこれからだ!」

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