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二度目の冒険は『低レベル縛り』でいきましょう~『自称』ドMの女勇者ちゃんと一緒に、魔王になったヤンデレ妹を討伐します~  作者: フーラー
第2章

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2-5 マルティナは『利用される側』になりたがっています

俺が宿に戻ると、すでにマルティナは机に夕食を並べていた(この宿は自炊が認められている)。エプロン姿の可愛らしい彼女を見て、俺は少しほっこりした気持ちになった。



「ただいま、マルティナ」

「あ、お疲れ、シイル! ご飯にする? それともお風呂? それとも……」

「それとも?」



マルティナは顔を少し赤らめて答える。



「その……あたし……と、おしゃべりする?」

「そうだな。……ちょっと話したいことがあるから、隣いいか?」

「うん! あ、ちょっと待って? さっきあたし、ドーナツ焼いたんだ!」



そういわれて、俺はマルティナの隣に座るとマルティナは俺にドーナツを出してくれた。

マルティナは、ことあるごとにこうやって俺の面倒を見てくれることに、俺は感謝しつつも少し罪悪感を感じる。



「ありがとな、マルティナ。……ところで今日は何してたんだ?}



俺はあえて経緯を知らないふりをして、そう尋ねるとマルティナは少し笑顔を見せながら答える。



「うん! あのね……一緒に『夜の瞳』の材料を村の子と採りに行ったんだ! それでね? モンスターとかも出たけど、弱かったから何とか追い払えて、それで……」



そういいながら今日の出来事を話すマルティナを見て、俺は少し安心した。

やっぱり、歳の近い女の子と一緒に遊ぶのは彼女にとっても楽しいのだろう。



「へえ……楽しかったか?」

「うん! ……ところでさ、そのドーナツも食べてみて! シイルが喜ぶ味、研究したんだ!」

「へえ……」



あの木の実は酸味が強いのでお菓子の材料にも使うことが出来る。

俺はマルティナが作ってくれたドーナツを手に取り、口にした。



「……どう、美味しい?」



……なるほど、普段食べなれないスパイスが入っている。あの村の少女と一緒に作ったのが分かる味だった。また、この世界では砂糖が貴重品なので、使われていない。そのためよく言えば素朴、悪く言えば薄味だが、俺にはちょうどよかった。



「すげーうまいよ、これ!」



そういうと、まだ幼さの残る笑顔を見せながらマルティナは笑った。



「良かった~! ……ところで、話って何?」

「あ、ああ……」



そういわれて、俺は少し間を置いて、尋ねてみた。




「あのさ……。マルティナは……冒険を辞めて、この村に永住するつもりはないか?」

「え、どうして?」

「実はな……今日ファルスさんが大けがしてさ……それで……」



俺は、今日起きたことと、ホワイトドラゴンが街と王都の中間地点に巣くっていることを説明した。


奴の強さはマルティナもよく知っている。話を聞いた彼女の表情はどこか考え込むような様子に変化していき、口数が減っていった。



「……ってことなんだよ」

「…………」

「……ホワイトドラゴンの強さは知ってるだろ? 正直、あいつを倒すまでに何度も『死亡』状態になるのは間違いないし、それでも勝てるかは運もある」

「…………」

「俺はロナを止めるために行かなきゃいけないけど……。マルティナに、そんな思いをさせるのは嫌なんだ。それに、村人たちもマルティナを歓迎するって言ってる。だから、ここで俺たちは別れて……」




「……フフフ……いいじゃん! 最高でしょ、それ!」




「はあ?」



俺が最後まで言おうとするが、それを遮るようにマルティナが叫ぶ。



「正直さ、この村にいるのは楽しかったけど……『ドM』のあたしには、刺激がなくて物足りなかったんだよ!」

「刺激?」

「そう! 誰かに思いっきり殴られて、叩かれて、ぶった切られて、罵られて、軽蔑されて……そういう『痛みがない生活』なんて、面白くないじゃん!」

「何言ってんだよ……あ、いや……」



彼女が心身の苦痛をやたらと求めるのは、元々だったか。

そう思っているとマルティナは恍惚とした表情を見せた。



「あの、おっそろしいホワイトドラゴンがさ! レベル1になったあたしに、とんでもない一撃を叩き込むんでしょ? 絶対凄い痛みだよね! しかも何度もよみがえっては殺されるなんて……なんか想像しただけでドキドキしてくるんだけど!」

「……本気で言ってるのか?」

「うん! それに……」



そういうとマルティナは、一瞬だけ寂しそうな顔を見せた。



「……それにあたしは……みんなと仲良く幸せに暮らすのは、嫌なんだ。……優しい人から好きになってもらえても……後で辛くなるだけだから……」

「マルティナ……」

「あ……。ゴメン、シイル! 今のは無し!」



いつもニコニコ笑っているが、俺の前では時々そんな表情をするマルティナ。

彼女は、自分を『粗末に扱われる』ことを望む一方で『大事に扱われること』を極端に恐れるのは、昔から気になっていた。



(……多分、これは彼女の過去が原因だろうな……)



マルティナは、元は奴隷として生贄に差し出されたという過去がある。

であれば、これによって『信じていた村人に生贄として差し出されたせいで、他人の愛を信じられなくなった』と考えれば、理屈が通る。




そんな風に考えているとマルティナは、俺の腕にしなだれかかって呟いてきた。



「あたしはさ。大好きな人たちに……モノみたいに扱われて、めちゃくちゃにされて……それで、最後はゴミみたいに捨てられる……そんな人生を送りたいんだ。だからさ……シイル、あたしも連れてって?」

「……それは……」



思わず言い淀むと、マルティナは俺の鼻に指を置いて、にこりと笑う。



「……シイルは、あたしを利用したいんでしょ? ロナちゃんを止めるために、ね? ……『ドM』のあたしは喜んで利用されたげるから……一緒に行こ? ね!」



そう屈託のない笑顔で笑うマルティナ。……その表情は嘘を言っているように聞こえない。

その狂気を帯びた顔を見て、俺は少し怖くなった。



……だが、低レベルクリアは単騎ではまず無理だ。

とにかく頭数が必要なこの状況では、そう言ってくれるのは打算的な意味でもありがたかった。



「ありがとな、マルティナ。……けど俺は……お前を利用しているだけだぞ……?」



そう、これはもはや世界のためというより、俺の個人的な戦いだ。

それでもマルティナは嬉しそうに笑う。



「なにいってんの! 大好きなシイルに利用されるなんて、最高だよ? だからさ。あたしのことなんか……好きにならないでね?」

「…………」

「あたしのこと……骨までしゃぶりつくして、使い潰してね? ……それで、シイルが幸せになるなら嬉しいから!」

「あ、ああ……」



俺はそれを言われて、自分が酷く悪辣な人物であるような気持ちになった。



「……フフ……まったくシイル、そんな暗い顔しないでよ! それ!」



だが、そんな俺を見たマルティナは、いきなり上着を脱ぎ捨ててシャツ姿になると、俺に抱き着いて押し倒してきた。



「うわ!」

「……あたしのこと、モノみたいに使ってって言ったでしょ? だからさ! 今日のシイル、辛そうだし『抱き枕』になったげるから!」

「……え?」

「それでさ! ロナちゃんが戻ってくるまで、あたしを妹と思ってよ? ……そうだ! これからは、お兄ちゃんって呼んであげよっか?」

「妹、か……」



正直、ロナの代わりになる妹なんていない。

……けど、俺は今まで何度もマルティナをロナに重ねてみていた。そのことを見透かされたような気持ちになり、俺は少し恥ずかしくなった。



「ああ……けど、お兄ちゃん呼びは恥ずかしいから辞めてくれるか?」

「ええ? まあ、いいけど……ほら、ギュっとしなよ、シイル?」



そういわれた俺は、ロナ……じゃない、マルティナを抱きしめていた。

柔らかいその肌から体温が伝わり、俺は前世での幼少期の思い出が頭にフラッシュバックした。



(ロナが小さい時は……こんな風に、抱き合って寝てたな……)



「えへへ、シイルの体、暖かいね……」

「ロ……マルティナもな……」

「でしょ? ……それでシイル? 出発はいつにするの?」

「夜の瞳の発酵が終わる……3日後だな。それまでに準備を終えてくれるか?」

「分かった! みんなにお別れの挨拶しておくね!」

「ああ。……けど、ありがとうな、マルティナ」

「え?」

「……正直、一緒に来てくれるのは、本当に嬉しいよ」



そうつぶやくと、マルティナは顔を赤らめながらも、少し意外そうに尋ねる。



「あたしは、もう『勇者』なんて言えない強さになっちゃったのに?」

「ああ。俺は勇者が欲しいんじゃない。マルティナが居てくれるのが嬉しいからな……」



確かに、最初マルティナと旅を始めたのは、彼女の勇者としての実力を買ったからだ。。

だが今は、単に戦力としてだけではなく、マルティナと旅をしたいと思っている。

マルティナもそれを聞いて、にっこり笑ってうなづいてくれた。



「……あたしもそうだよ? 『伝説の魔導士』じゃなくって、シイルとまた旅できるのが、楽しいんだから!」

「ありがとうな、マルティナ……」

「それじゃ、お休み……」



そういうと、マルティナはすぐにスースーと可愛い寝息を立てはじめた。

……こんな可愛くて優しい子を初陣であっさり失うなんて、俺は出来ない。




「……ホワイトドラゴン……あいつを倒せるかが最初のヤマだな……」



対策は万全だが、それでも油断は禁物だ。

そう思いながら俺も、部屋のランプを吹き消すと眠りについた。

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