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二度目の冒険は『低レベル縛り』でいきましょう~『自称』ドMの女勇者ちゃんと一緒に、魔王になったヤンデレ妹を討伐します~  作者: フーラー
第2章

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2-4 これは、低レベルクリアで一番欲しいアクセサリーの一つだ

翌日。



俺は物陰に隠れて、昨日話した少女が勇者マルティナと話している様子を見守っていた。

少女はもじもじしながら、作業が一段落ついたマルティナの横にやってきた。その様子を見て、大人たちもそっと場所をどけた。……いい人ばかりだな。



「ね、ねえ……マルティナお姉ちゃん?」

「なあに?」

「あのさ……実はお母さんが『夜の瞳』が欲しいって言われたんだ」

「夜の瞳? そういえばあたしも、そろそろ用意しないとな……」

「うん。それでさ……悪いんだけど……材料の実を摘むのを手伝ってくれない?」



これは、俺が入れ知恵した。


自称『ドM』のマルティナは『誰かに自分のために奉仕してもらうこと』を極端に嫌う。そのため、誘うのならば寧ろ頼みごとをするような言い方をしたほうが、誘いに乗りやすいと。


案の定、マルティナは表情を明るくして答えた。


「勿論! 喜んで手伝うよ! 今から行けばいい?」

「うん! それと……ドーナツも作ったんだけど……これ、シイルさんに食べて貰いたいんだけど味に自信がないから……後で味見してくれる?」



これも、俺の入れ知恵だ。のマルティナは『あなたのためにご飯を作ったの』というと、マルティナは嫌な顔をするからだ。……まあ『シイルに食べてほしい』というのは少女のアドリブだが。



(けど、その方がマルティナに頼む必然性があるか……)


それを聞くと、マルティナは嬉しそうに笑いかけた。


「へえ……。まあ……シイルはいい男だもんね。よし、ならお姉さんが、シイルの喜ぶ味を教えてあげるよ!」

「ありがとう! それじゃ、行こう? マルティナお姉ちゃん!」

「うん!」



(よし、うまくいったな!)


そう思いながら、二人は出かけていくのを俺はほほえましく見届けた。





そしてしばらくののち。


「フフ、今頃マルティナと仲良くなってくれるといいな……」



今日任された俺の仕事は畑作業だ。

畑のあちこちに生えている雑草を一本ずつ引っこ抜きながら俺は、二人が楽しく木の実を摘みながらおしゃべりをしている状況を想像しながら顔がにやけた。



(これで、マルティナが定住を選ぶなら……。それもいいよな……)



どのゲームでも言えることだが、低レベル縛りの戦闘は、地味な苦行だ。

だから今までのような『心地いいスリルを味わいながら、勝利する』ようなものにはならない。


しかもこの世界はゲームじゃないのでやり直しはきかないため、運の要素も大きい。

そんな戦いにマルティナを巻き込むよりも、そういう平凡な生活を選んでもらうのもいい。



そう思っていると、遠くから人影がゆっくりと、ふらふらした足取りで歩いてくるのを見つけた。


「ん? ……あれはファルスおじさん? 様子が変だな……!」



村人のファルスおじさんだ。だが、彼は全身から血を流しながら足を引きずりながらやってきた。積み荷も馬車も放り出して命からがら戻ってきたのだろうことが見て取れる。



「大丈夫ですか! ……すぐ手当てします!」

「あ、ああ……悪いな……」



幸い、旅支度を続けていたこともあり俺は大量の回復アイテムを用意していた。

その一部を使うのは痛手だが、今はそんなことはどうでもいい。



そう思いながら俺は彼の体に傷薬をかけ、包帯を巻いた。




それから少しして。


「悪いな、シイルさん……まさか伝説の魔導士にこんなことまでしてもらうなんて……」


幸い、大事な血管や内臓には損傷がなかったらしく、何とか出血が止まったファルスおじさんは、ベッドに横たわりながらそう呟く。



「……『元』が付きますけどね……今はただのへなちょこ魔導士ですから……」

「それでも、あんたに助けてもらったのは事実だよ。……いてて……」

「まだ、寝てた方がいいですよ。……けど、どうしてこんなことになったんですか?」

「ああ……。実はな……」



まだ傷が傷むのだろう、顔を歪ませながらもファルスおじさんは答える。




「実はな……この村と王城の間の道に……ホワイトドラゴンが居座っている」




それを聞いて、俺は自分の耳を疑った。



「……嘘ですよね?」

「事実だ……それも、偶然来たって感じじゃない。完全にあそこに居座る気だ。……あいつらの時間間隔なら、何年でも留まるだろうな」



ホワイトドラゴンは、その高い体力と攻撃力で知られており、本来ここにいていいようなモンスターじゃない。レベルを落とされる前の俺たちですら、やっと互角という相手だった。



しかも彼らは人肉しか口にしないため、共存は通常不可能だ。……まあ、生贄でも差し出せば別なのだろうが。



ファルスおじさんは未だに恐怖から冷めないような口調で続ける。




「積み荷も馬車も、全部壊された……それに、道中に多くの戦士や魔導士の死体が転がっていたよ……俺は、年寄りだから見逃されたんだろうな……」

「そんなことが……」

「あいつを倒すのは、まず無理だ……。だから、悪いことは言わない……あんたも、この村から出ないで、ここで暮らしなよ……」

「ですが、俺はよそ者ですし……」



そういうと、彼はフフフ、と少し嬉しそうに笑った。



「実はな。あんたが今朝仲良くしていた少女……あいつはま……村長の孫娘なのは知ってるか?」

「ええ」

「なら話は早い。……実はあんたにも、村に定住してほしいっていうんだ。……あいつ、あんたのことを好きだからな」

「はあ?」


あの子が俺のことを? マルティナだけじゃなく?

そう思いながら、思わず俺は驚いた表情を見せたが、ファルスおじさんは苦笑した。



「あんた、そういうのは鈍感なんだな。まああいつはまだ幼いが……将来、お前をお婿さんにしたいんだとよ。だからさ、あんたがここに永住するつもりなら喜んでくれるぜ? ……勿論、俺も歓迎するよ」

「…………」



あの少女はかなり可愛らしい養子で、将来は凄い美人になるだろう。

そのことを考えると、客観的にはかなり魅力的な提案だろう。

……だが、俺は首を振った。



「すみませんが……俺は……旅を続けます……」



そう、今は妹のロナのことで俺は頭が一杯だ。

ロナを止めないで、恋愛や結婚によって自分だけ幸せになるなんて、浅ましい。


それに、彼女の眷属であるドラゴンが悪さをしているなら、それは全部彼女を魔王にした俺の責任だ。……命に代えても、償わないといけない。

ファルスおじさんは少し驚いた顔をして、警告するような口調で呟く。



「それで……あのバケモンに殺されることになってもか?」

「ええ……きっと、この村で暮らすことは幸せなことでしょうけど……。それでも、俺はロナを止めたいんです……」

「…………」


そういうのを見て、ファルスおじさんは少し呆れた表情をしながらも、箪笥を開けてブローチを取り出した。



「ったく……。ま、あんたのことだからそういうと思ったけどな。……なら、こいつをせめて持ってけ。助けてくれたお礼だ」

「これは……『愚か者のブローチ』!」



……これは俺が探し求めていたアイテムの一つだ。

装備すると防御力が0になる代わりに、『ある特殊な能力』を持つことが出来る。通常プレイではクソアイテムだが、低レベルクリアでは必携のアイテムだ。



これを見た俺の表情を見て、ファルスおじさんはフフ、と笑顔を見せた。



「以前村を訪れた……『ニルバナ』っていう魔導士がくれたんだ。……使いにくすぎるアイテムだから、しまっておいたが……あんたなら、使いこなせるだろ?」

「……ありがとうございます!」

「けどよ……勝てないと思ったら、絶対に『逃げる』選択も残しておけよ? あんたに死なれちゃ、寝覚めが悪いからな」



そしてファルスおじさんは心配そうに俺の顔を見る。まったく、この村の人たちはいい人ばかりだ。

……どこか違和感を感じるほどに。



「ええ……分かっています。俺も……ロナを止めるまでは、絶対に死ねないですから……」


そういうと、俺は深々と頭を下げて家を後にした。





(そろそろマルティナも戻ってくるころだよな……)


旅に必要なアイテムは大体買いなおすことが出来た。

後は、数日かけて夜の瞳を精製すれば準備は整う。



だが、マルティナがもしもこの村に定住するのであれば、俺は尊重したい。

……その場合、ホワイトドラゴンとの戦いは絶望的なものになるだおろう。



(けど……一矢ぐらいは報いて見せるさ……)



仮に殺されることになっても……あの化け物にケガをさせて追い払えれば、本望だ。



そもそも、ロナの気持ちをくみ取れなかった俺が、ロナを凶行に走らせたのだ。

そしてその眷属であるホワイトドラゴンが暴れているのなら、そファルスに重傷を負わせ、旅人に犠牲者が出たのも、全部俺が悪いんだ。



だからこそ、マルティナがいなくとも、俺は戦わないといけない。

そう思いながら、俺は宿屋に向かった。

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