表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
橘の花言葉  作者: 日尾灯
1/8

プロローグ

「今日のラッキーフラワーは、ラナンキュラス。花言葉は“とても魅力的”」


 大学の中庭に、彼女の声が響いた。昼休みのざわついたキャンパスの片隅で、毎日ひとり、花の名前と花言葉を発表している女の子がいる。彼女の名前は、橘 さくら(たちばな さくら)。教育学部3年。明るくて、優しくて、おせっかいで、ちょっと頑固。そして、やたら花に詳しい。


「へえ、今日の俺にぴったりじゃん」


 その日、さくらの花占いを聞きながら、ちゃっかり昼寝しようとベンチに座ったのが、佐藤さとう りょう。同じ大学の4年生。遅刻魔、課題未提出常習犯、出席日数ギリギリ。単位は毎年崖っぷち。キャンパス内での通称は「留年候補No.1」。


「……魅力的って言葉、自分で言う?ふつう」

「自覚ないやつが一番めんどくさいんだって、さくらちゃん」

「言い返す相手が違うでしょ。レポートの締切とか、出席表とか、もっと気にしなよ!」


 初めて交わした会話は、そんなやりとりだった。


 その日から、遼の生活に「さくらの花占い」が入り込んだ。


 遅刻しそうな朝に「今日のラッキーフラワーは朝顔!花言葉は“結束”だよ、ちゃんと出席して!」とLINEが来る。講義中に寝そうになると、背後からそっとノートを差し出される。時には、一緒に単位がかかったレポートを徹夜で仕上げてくれたり。


 正直、うっとうしかった。


 でも、不思議と、嬉しかった。


 何より――彼女が笑って「よかった、今日も咲いてたね」って言うたび、なんか、自分まで少しだけマシな人間になれた気がした。


 だから俺は、卒業するまで、彼女と一緒に咲き続けるって、勝手に決めてたんだ。


 ……なのに。


 彼女は、ある日、ふいにいなくなった。


 最後のラッキーフラワーを、残して。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ