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異世界召喚されたけど、ハンバーガーを売ってます  作者: 桃田


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9 テイクアウト、順調です

「もうね、こいつ他所で新たに売り出したハンバーガーとか見つけるとすぐに買って食べているんだぜ」

 ハロルドさんが笑って話してくれた。


「だって、気になるだろう。この店の新作だって全部制覇しているからいいじゃねぇか。それにここで食べている量がいっとう多い」


 少し不貞腐れたようにカイさんがいう。二人とも今日はお仕事をお休みして、私のお店の前に設置してあるベンチでアツアツの肉まんとハンバーガーを食べている。


 クラスメイトが来るようになって、お店の前で食べられる場所をつくったらよいのではって思ったのだ。それで、まずはお店の前にベンチを二つ置いてみた。ちょっとした休憩所みたいになっている。

 カイさん達も冒険者仲間と一緒に大人数で来たときは、このテイクアウトのお店で料理を買っても、隣のジギルさんのお店に行く。もちろん、お酒なんかはお店で注文です。持ち込みにはならんのですよ、ここはジギルさんの食堂の延長みたいな扱いだから。


 でも、カイさん一人だとかハロルドさんと二人ぐらいならば、こうやってベンチでまったりとする時もある。もちろん、話をするのはお店が忙しくないときだけどね。


「なんかさぁ、聞いたところによると魔王の発生した場所っていうのが、陰の気がかなり強い場所らしいんだよね。だから、魔物が増えるのが早いんだって噂だよ」


 ハンバーガーを食べながらのんびりとそんな話をするけれど、そんな暢気な内容じゃあないよね。魔王が発生したという話は、当たり前のように口の端に上るようになったんだ。


「まあ、俺たち冒険者は飯のタネが増える分には構わんけど、城壁外の農村部とかは色々と大変だよな」


 そんな世の中の情勢の話もしてくれる。というか、その農村部での魔物狩りの仕事から昨日二人は帰ってきたところだからかな。


「ほんと、移動時間もあったから一週間もハンバーガーが食えなくてなあ。毎晩ハンバーガーの夢を見ていた。これ、絶対中毒性があるよな」

 カイさんが情けない顔をしている。それ、3つ目ですよね。


「うちの商品には、そんな麻薬みたいな成分は入っていません。営業妨害ですよ」

 ちょっとプンスカしてそう言ってみた。


「あはは、そのくらい旨いってほめているんだよ。だからハンバーガーもう一個ね」


 へにょって笑ったカイさんは、少しずるいと思います。そんなに沢山たべてもまだ入るんですね。


男の子はそういうものだと聞いたことがあります。ちょっと動くとカサって音がして胃の中が空になるんだって。その話を聞いたときはまさかって思ったけれど、カイさんを見ているとなんとなく納得してしまう。


「しょうがないですね。では秘蔵のソースを使ったハンバーガーをお出ししましょう。これ、ソースが手に入れにくいんで内緒ですよ。今回だけの特別です」


 カイさんとハロルドさんは、お土産にお肉と野菜をたくさん持ってきてくれたので、今日はちょっと割引にして大盤振る舞いしている。この頃は食堂でも魔物肉を扱うことが増えている。


 魔物が増えて、魔物肉が安く手に入るようになったからだ。魔物肉はなんでも食べられる訳では無いのだそうだけれど、種類によっては美味しくいただけるのだとか。この頃もっぱら食べているのは魔物肉かもしれない。あんまり気にならない。


 さて、秘蔵のソースとは、先日竜崎さんが見つけてきてくれた醤油に似た調味料で作ったテリヤキソースのハンバーガーなのだ。

 竜崎さんもあれからよく食べに来てくれる。


「テリヤキバーガーもたべたいよね」

「あー、でも醤油を見ないからなぁ。ジギルさんに聞いたけど、それっぽい調味料はないみたい」


 っていう話を前にしたのだ。それで、お城の料理人さんに聞いてくれたのだそうだ。醤油がありませんかって。お城の人だったら、他の国の人と接する機会もあるでしょう。だから、他所の国の調味料とか聞いたことがあるんじゃないかって思ったのだそうだ。そうしたら、別の国の使節団の人達用に作ったっていうものがあったそうで。どちらかというと醤油っていうよりもオイスターソースみたいなやつ。なんでも貝類で作っているって聞いた。多めに作ったために余ってしまっているからってもらってきてくれたのだ。ちょっと風味が違うけど、てりやきソースっぽいものが完成した。もしかしたら探せば魚醤とかならば見つかるかもとか思っている。狙い目は沿岸諸国? かしらね。どこにあるのか知らないけど。地図なんか見たことないし。


 ちょっとお客さんも来ないみたいだし、私の分も追加しよう。フライパンを火にかけて、肉ダネを焼いて取り出す。そこへてりやきソースの元を投入! 今までのソースとは違う、コクのある香ばしいような匂いが立ち込める。匂いを嗅いだだけでちょっとお腹がなりそう。さっき取り出した肉ダネを戻してソースを絡める。お、匂いでつられたのかな?受付窓口から中の厨房の方へカイさんたちが覗き込んでいる。美味しそうな匂いでしょう、そうでしょう。そうして用意してあったバンズと野菜の上に肉ダネを落として、マヨネーズっぽいのをかけてバンズで挟む。このマヨネーズっぽいのは、ジギルさんが作っているドレッシング。


 結論から言おう、てりやきバーガーはカイさんに絶賛された。


「旨い。俺、これ好き。いつでも食べたい、レギュラーメニューに希望する!」

 と言われたのだが、ソースが手に入らない説明をした。


「なんかマーレとかいう国の調味料なんですって。友達がもらってきたやつなんでそんなに量はないんですよ。だから、残念だけど今回だけです」

 と話したらがっかりされてしまった。


「マーレか。あそこは海に面した貿易国で、隣の大陸や南海諸国なんかと取引がある場所だよな。ソースの名前はなんていうんだ。もしかしたら手に入れる機会もあるかもしれない」


 ハロルドさんが落ち込むカイさんを眺めながら、そう言ってくれた。

「えっと、確かコンチャソースだったかな」


 眼鏡をかけた怪力の女の子が右手を上げて挨拶しそうな名前だったよなと思い出す。

「ああ、コンチャってデカめの貝の名前だったかな。それでつくったソースなのかな」


 ハロルドさんは博識だった。そのやり取りを聞いていた落ち込んだカイさんが突然、勢いよく言い出した。


「よぅし、ハロルド。マーレに行く依頼を探すぞ。コンチャソースを大量に買ってこよう」

 ハロルドさんはパコンッとカイさんの頭をひっぱたく。


「お前、隣国の依頼がここに来るはずないだろう。国境付近ならともかく。なに馬鹿なことをいっているんだ」

 カイさんはシオシオになってハロルドさんに引き摺られていった。


 そして一週間後、ハロルドさんが私の前に瓶を置いた。瓶の中には黒い液体が入っている。

「コンチャソースによく似た調味料なんだって。なんでも豆で作ったソースだそうだ。ファバイソースっていうんだ。どうかな、と思って。使えるかな?」


 ハロルドさんが伝手をつかって、幾つかの国に拠点を置く商会で取り扱っている商品を手に入れてきてくれた。

 新しい調味料としてこの国に試しに持ってきたものなのだそうだ。瓶の中身を掌に少し垂らして味見をしてみたら。口の中に広がる、この懐かしい味は。

「え、これ醤油だ」

 こちらにもありました、醤油の様な調味料。ちょっと固まったのは、感動したからだ。これで、ほんまもんのテリヤキソースが作れます。


「ハロルドさん、これ定期的に手に入りますか? 欲しいです。テリヤキソースに使えます」

 前のめりにそう言うと、バチコンとウィンクを一つ。

「話をつけておくから、テリヤキバーガーよろしくね」


 どうやら、ハロルドさんもテリヤキバーガーはお気に召していたようだ。堅く握手が結ばれた。

「というわけで」

 竜崎さんがやってきた。彼女にテリヤキバーガーを恭しく差し出す。


「竜崎さんがコンチャソースを手に入れてくれたおかげで、醤油が手に入りました。なんかオチディンス国というところの調味料なんだって」

「うわ、コンチャソースよりもテリヤキっぽい」

 彼女もとても喜んでくれた。一緒に来ていた如月さんや向田さんも美味しいって顔をほころばしている。


「帰ったら皆に知らせなくちゃ」

 と言ってくれたので、皆の分はお土産にして渡した。それから、ファバイソースも一瓶渡す。あれからファバイソースを追加で手に入れているのですよ、フッフッフ。テリヤキバーガーのレギュラー化が確定しておりまする。


「これ、醤油みたいな味がするの。コンチャソースを融通してくれた料理人さんに渡してくれてもいいし、何か醤油をかけて食べたいものがあれば使って」


「今度、魚料理の時にソース付けずに焼くだけにしてもらう。焼き魚、塩とか醤油だけでいいよね。味のこってりしたソース、ちょっと飽きてきたんだ」

 いい顔でファバイソースを受け取ってくれた。帰り道はスキップしていたかもしれない。


 うん、わかる。ジギルさんの魚料理はクリームソースとかガーリックオイルみたいなので出てくる。トマトソースの時もあったな。美味しいんだけど、本当に美味しんだけれども。魚の味がなんか隠れんぼしているみたいな感じがするんだよね。そのせいか、時々無性にただ焼いた魚を醤油で食べたくなる。


 餃子やシュウマイも醤油をつけて食べる方法も提供してみた。カイさんにも勧めたら、ハマってしまったようだ。あ、辛子はあるから焼売はそれもつけてねって添えた。


「あいつ、なんでもかんでも醤油を試すようになったんだよ」

 呆れたようにハロルドさんがぼやいている。それは、良い事です。

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