7 マゼコゼは、できる奴です
「隣のお店、たたむことにしたんだって」
ある日、マーサさんがそんな話をもってきた。お隣さんは、ちょっと小さめの立地で、小間物屋さんだった。
「あそこは、確かディケンズ商会の次男坊が独立して出していた店だろう。何かあったのか」
ジギルさんは、ちょっと心配そうだ。
「それがね、実家の商会を継いだお兄さんが亡くなったんですって。取引のために出かけた先で、ね。魔物と遭遇したとか。それで商会を引き継ぐために急遽呼び戻されるっていう話なのよ」
腕組みしていたジギルさんが眉間にシワを寄せてため息を吐いた。
「ああ、この頃は街道も危なくなってきたっていうからな。あの商会は北方の国とも取引していたな。あちらは魔物の数が増えているって噂だ」
私はカイさん達がそんな話していたのを思い出した。
「そういえば、カイさん達も言っていましたね。魔物討伐の仕事が増えたって」
だから、魔物を狩る仕事を引き受けている冒険者の人たちも忙しいのだそうだ。まあ、そんな状況だから私達が召喚されたんだろうけど。お役に立てそうもない私がとやかく言うようなもんでもないよなぁ、なんて思う。
ちょっと暗い話ではあったのだけれど、その後なんだかんだありまして隣のお店を買うことになりました。隣ということもあって、ジギルさんとマーサさんにこの敷地を買いませんか的な話が、商業ギルドから振られたのだそうです。ちょっと他の並んでいる商店と違ってお店が狭いので、拡張部分としてどうかという話が発端だったらしいんですが。
それで、色々と話し合いをした結果、テイクアウト専門のお店をつくるという運びへと。店長は食堂のジギルさん。なんと私は従業員兼共同経営者に昇格しました。実は王城を出る時に支度金とかいうのをもらっていた。それで、そのお金を出資にまわしたのですよ。
王城の誰が決定したのかは知らないけど、それなりに親切な人だったのかなと思う。だって、貰った当初、私はお金の価値なんてよくわからなかったんだけど、出資できるだけの金額があったのだもの。
「マッキーのお店にしてもいいんだぞ」
そうジギルさんが言ってくれたけど、私はこの世界のことはあまり良くわからないし、独立したいとも思えない。だから、お願いした。共同経営者っていう形にしてくださいって。だから半分ずつの出資で、開業しました。
毎日毎日、グチャグチャのバラバラで頑張っています。
(コントンのレベルが上がりました)
次のお知らせが来たのは、前回のレベルアップから半年後の事だった。今度のレベルはマゼコゼ。
グチャグチャときてバラバラだったから、ちょっとレベル名で拍子抜け。だって、グチャグチャのバラバラってどう考えてもスプラッター系じゃない? いや、スプラッターは好きじゃないけど。だからどんな酷いレベル名が次はくるのか、ちょっと戦々恐々としていただけ。
だって、時々兵士長さんが様子見に来てくれていたんだよね。前回のレベルアップの時も、レベル名の話をした。
「君のレベルは少しばかり特殊だけれど、なにか物騒だね」
なんて言われちゃってもいたの! だから気にしていたんだけど、マゼコゼは普通にお料理でも使いそうな表現だから良かった。
でもこれが、すごい。混ぜられるの! お肉とパンとタマネギと調味料と卵をボールに入れて【マゼコゼ】ってやるとハンバーグの具ができあがり! 今まで一種類ずつしか扱えなかったけれど、今度からは分量分の材料をそのままで器に入れれば、ミンチにしてみじん切りにして一緒に混ぜられるの。そう、タマネギは丸のままで大丈夫。やったね。
試しにポテトサラダも作ってみました。茹でたジャガイモ(さすがに茹でるのはムリ)とタマネギ、ニンジン、キュウリ、卵、調味料、それぞれそのまんまで(皮は剥いてから入れているよ)、器に入れて。それらがイメージしたように切れて、潰れて、混ぜ混ぜできました。タマネギは薄切りで、ニンジンはいちょう切り、キュウリは輪切りだよ。でもね、キュウリは水が出ちゃったので、失敗だね。そういう手順は必要なんだな。反省。
でもね、でもね、それでも人間フードプロセッサーは、機械のフードプロセッサーよりも優秀だと思う。だって、いっぺんに別々の形に切り分けられた上に均等に混ざる。
調子に乗って色々な具材を組み合わせて餃子を作りました。お店の新メニューです。ふっふっふっ、皮もマゼコゼでできますぜ、旦那(旦那って誰だよ)。中華まんや餃子の皮ができるのだよ。だけど、パイ生地は駄目でした。層をつくるような作業にマゼコゼさんは向いていませんでした。均等にしちゃうからだろうな。
何種類かの果物を器にいれる。なんということでしょう、スムージーの出来上がり。滑らかな舌触りにウットリ。コップ一杯からつくれます。人間ミキサーに磨きがかかっています、ありがとうございます。
タルタルソースも美味しい。手を汚さずになんでも混ぜられる。そう、何と手を直接つけなくてもよくなった。近づける必要はあるけどね。離すといっても5センチぐらいが限度だけど、いちいち手を洗わなくて次の作業に移れるようになったのは、とても便利。でもね、素手でないと駄目みたい。手袋越しは発動してくれなかった。レベルアップの影響なのか混ぜられる量も多くなったので、マゼコゼ専用に作ってもらった大きな器に材料を入れて、手をかざして【マゼコゼ】って念じると出来上がり。
この世界にはフードプロセッサーもミキサーやジューサーもなかったので、コントンは便利、と一人盛り上がっている。ゴマがあったんで、練りゴマ作って棒々鶏モドキも作ったぜぃ。お料理のレパートリーが広がっていく。
「今日のお弁当は、肉まんとハンバーガー。揚げ餃子も旨いよな。棒々鶏も捨てがたいが、あれはテイクアウトがないのが残念」
カイさんがニコニコと注文の品を受け取る。
「棒々鶏はジギルさんの食堂で食べてね。でも、揚げ餃子とかお昼だと冷めちゃいますよね。温かい方が美味しんだけどな」
私がそう言うと、ニヤリとカイさんが笑う。
「俺は火が扱えるんだよ。加減よく温められるからな」
そうか、そう言えば前に火魔法を使えるっていっていたけど。でも、そういう使い方ってどうだろう。
その加減を体得するために色々と焦がしたとハロルドさんが告げ口をする。
「この頃は、魔物が増えて仕事が増えているんだよ。だから腹が減るし、旨いものも食いたい。俺は旨いものを食うのに努力は惜しまん」
ふんっとカイさんが胸を張る。そんなカイさんをハロルドさんが残念なものを見る目で見ている。そんな顔をしているハロルドさんだってサンドイッチと肉まんと餃子を注文しているし、肉まんはカイさんに温めてもらっているんじゃないのかな。
夢を見た。
両親が亡くなって、叔父夫妻がやってきた。叔父はまだ成人前の僕の代わりに商会を受け継ぐために、僕を引き取った。
僕の生活は一変した。学校は辞めさせられて、朝早くから夜遅くまで細々な仕事におわれている。
「お前は、こんなこともできないのか」
「お前は、役立たずだな」
何を間違えたのかは指摘されなかったので何が正しいのかはわからないが、毎日仕事をするたびに、罵倒されていく。それなりに難しい仕事を任されていたらしい。
「お前には本当に失望した。期待していたのに」
仕事が段々と雑用に近いものになっていく。それでも、罵倒される。
「こんなこともできないのか」
毎日が、つらい。どうしてこうなってしまったのだろう。
目が覚めたけれど、どんな夢かは覚えていない。なんか、ひどく重い感じがする夢だった。なんか、疲れているのかな? いや、私は元気なんだけど。なんかちょっとひっかかるような感じかな。
気にしてもしかたないよね。さて、今日も頑張ろう。




