6 異世界でハンバーガー売ってます
後半部に少し書き足しました。
内容は変わっていないです。
竜崎さん達が旅立っていった。
だけれども、状況は思わしくないようだ。王都でも物が少しずつ足りなくなって物価がどんどん上がってきている。各地からの輸送に滞りがでているとかいうし、王都周辺の農業地帯も魔物の出没頻度が上がっていると聞く。
隣国でもスタンピードが起きたそうな。クラスメイトが派遣されたりして、色々と活躍したらしい。皆元気だといいな。
あれからしばらくして、王城に残っているクラスメイトが食べに来てくれた。
「バラバラに派遣しない方がいいってことで、戦闘系の人達は一つの部隊として、あちこち派遣されたりしてるんだ」
「生産系は、王城で生産を続けるグループと戦闘系の班に付いていくグループに分かれたんだ。薬なんかを調合できるからって、佐藤は戦闘班にくっついていってる。この前は悪かったって言ってたよ」
ポツリポツリと話をしてくれるけれど、皆疲れた顔をしている。私は竜崎さんが来てから、たまに王城の皆に料理を作って差し入れしている。私にできるのって、このくらいだなと思ったので。
よくハンバーガーを買いに来てくれる冒険者の人達は、現状について色んな話をしてくれた。どうも魔王の森の中央に瘴気が発生する場所があって、その瘴気によって魔物たちが発生するのだという話を教えてくれた。魔王って魔物とかじゃなかったんだ。その瘴気発生源が魔王って呼ばれているみたい。
その瘴気発生源を浄化するために、聖女と勇者一行が旅立ったんだとも聞いた。ただ、それだけじゃないらしい。その瘴気に当てられた大型の魔物が何体も出現するようになって、それがあちらこちらの土地を汚染しているのだそうだ。そのせいで、瘴気に汚染された場所に寄っては浄化しながらの旅路らしい。そのままにしておくと、そこから魔物が発生するので放っておけないんだって。だから、まだ竜崎さん達は魔王の森には辿り着いていないだろうということだ。
竜崎たちが失敗しなければ、何も問題はないだろうと思う。でも、レベルが上がってしまったから。レベルがコントンになって(レベルって何! と言いたい)、分かってしまったから。
「ジギルさん、ごめんね。しばらくでかけてきます」
「気をつけていっておいで。戻ってくるのを待ってるよ」
しばらくはテイクアウトはお休みです。仕方ないよね。
「くそ、この瘴気の濃度ではこれ以上進めない」
「ここから、中心に向かって徐々に浄化をかけてみるわ」
聖女一行は、魔王の森と呼ばれる場所近くまで漸く辿り着いていた。だが、そこは森などというのは名ばかりで、荒野となっており魔物たちですらいなかった。ただ黒く薄汚れたような大気がどんよりとあるだけだ。奥に行くほど黒さが増していき、何があるのかは見えない。
聖女による浄化が始まった。だが、瘴気の漂う範囲は多少小さくなったようだが、残念ながら無くなりはしなかった。聖力が枯渇し、倒れ込んだ聖女を勇者が支えた。
「何度かに分けて、浄化を……」
聖女がそう言葉を紡ごうとした時、瘴気が光を放って消えた。
「……何が、起きた?」
ここまで歩いてきた。結局最後は歩きよ、歩き。体力勝負になっるって何、と言いたい。仕方ないか。ここに来る道中、随分と魔物とかち合ったから。もう、人が住める状況でもないし、ここまで馬車が来ても意味が無いもんね。
それでも最初の頃は馬車とか乗り継いだりもできたんだけどさ。さすがにここまでは無理だった。それでも、電車とか自動車とかあればもっと早く来れたのになと思いつつ。
ここまで魔物とかどうしたかって?それは、レベルが上がって自分の周囲に狭い範囲だけど結界みたいなのが張れるようになったから大丈夫。この結界に触れるとグチャグチャのバラバラになるので、魔物が来ても安心設計です。コントンさんのお仕事の範囲は、レベルが上って手で触れるだけで発生するようになったじゃない。んで次は、こうして自分の周囲の狭い範囲に結界みたいなのを張って、その結界に触るだけで発動させられるようになったんよ。
「きょうもハンバーガーが美味しいよ」
独り言が増えた。だって、ずっと一人で歩いてるからさ。今日の野営地を決めて支度をする。テントとか寝袋はジギルさん達が用意してくれた。簡単な竈をしつらえて、火を付ける。ハンバーガーのお肉は道すがら、結界さんに引っ掛かった魔物のお肉だ。全部合わせてグチャグチャにしたりしない。ちゃんと部位毎にバラバラにしているから、美味しい部分だけを取り出している。調味料も持ってきているから、味付けは問題ない。
でもここしばらくは、果物とか野菜とかが採れないんだよね。荒野になっちゃったから。立ち枯れした白い木々が、ぽつりぽつりとあるだけだ。すごくうっすいけど、瘴気が大地を穢しているのかもしれない。向かう方向はなんとなく分かる。だから、ひたすらその方向を目指してここまで来た。向こうの方に黒い地帯を感じる。
コントンの癖して、その能力には先があった。混沌の意味って物事の区別がつかなくて、もやってるって事なんだと思ってた。だから、私のコントンもそれなのかなって。だからグチャグチャにしたりバラバラにしたりマゼコゼにしたり、っていうのだと思っていた。半分は正解。なんでもかんでも一旦は全部を入り交じらせてというか、自分が考えた段階まで分解しちゃえるのだ。おかしくない? どの程度まで散けさせるのかについては、分子とかそんなレベルまでみたい。それは、なんにでも通用する。そう、結界に触れた瘴気も分解できちゃうのだ。笑っちゃうよね。
大気まで黒く染められたその場所をひたすら真っ直ぐと歩く。そうして漸くその場所に辿り着いた。
ここが瘴気の中心部。そこには一人、男の人が倒れていた。随分前に死んだと思うのだけれど朽ちてもいない。どうにもこれが、瘴気の源らしい。そこから瘴気がこんこんと溢れているから。
その人に触ると非業の死を遂げたこの男の人の人生が走馬灯のように感じられる。
最後に自分を不幸にした人達を、自分を殺した人達を、自分を救ってくれなかった世の中に対しての怨みつらみが重なっている。私達にとって運が悪いことは、彼が死んだこの場所が邪気の集まりやすいところだったことなんだろうな。彼の絶望と怨念が絡まって、この瘴気域を形成していったのがみえた。この人が魔王といえば魔王なのかもしれない。
【コントン】
そう唱えると、男の人の体も思いも周辺の瘴気もみんな一気に分解した。偏って凝っていたモノが解きほぐされて、周囲に馴染んで澱みがなくなった。瘴気が失せて晴れ渡ったら、白い立木の遠くに聖女一行の存在を感じる。
慌てて見つからないように彼女達と反対方面から帰ることにした。
私の周囲に張ってある結界を調整して、あちらからは見にくいようにちょっと工夫しました、念の為。だって、彼女達にこんな所で見つかったらえらいこっちゃ。この仕事をやり遂げたのは、聖女様達御一行ということにして頂きたい。私は私の役割があったから仕方ないと思ったから、ここまで来たけれど。
浄化ってさ、綺麗に無くなっちゃうというか消失してしまうみたい。でもね、コントンは違う。世界に戻す。だから示された選択肢は2つだったんだよね。
あの魔王になった男の人、良いことなかったみたいだけどさ、消失してしまうなんて、淋しいと思った。ここ迄来たのは、見極めたかったからかもしれない。魔王になったものが何かを。
消してしまうのならば、竜崎さんの仕事。
こんなヘンテコな力が発現しちゃったって事に、何かの意味を見つけたかったのは私。
帰ってくるのにちょっと時間はかかったけど、無事に王都に戻りました。私が帰ってくる少し前に竜崎さん達は王都へ凱旋してきたそうです。街中お祭り騒ぎだったとか。間に合っていればハンバーガーで大儲けできたのに、とちょっと残念。
今日もお店でハンバーガーや餃子をつくって、看板娘やってます。スムージーも美味しいよ。