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 ハンバーガーを買いに来たお客さん用に、お店の前の開いたスペースにベンチと小さな長テーブルを置いた。この場所で駄弁りながらハンバーガーをぱくつく人のためだ。そんな風にして食べていくのは、クラスメイトが中心かな。そんなに大勢が一遍に来るわけじゃ無かったので、ベンチが二つとテーブル一つで十分だ。そのうち、ベンチが空いていれば他のお客さんもそんな風に楽しんでくれるようになった。


 冒険者さんはお弁当にもっていってくれたり、早めに戻ってきた時に小腹が空いてたりした時に、買いに来てくれる。宿屋さんの方で馴染みになったからか、時間があれば色んな話をしてくれるのだ。


「あれ、ハンバーガーセットも値上がりしちゃったのか」

 馴染の冒険者さんがちょっと眉をひそめて、そんなことを言われた。そうなのだ、このところ野菜全般が値上がりしていて、頑張ってたけれどちょっと値上げしないと赤字がでかいのだ。


「どこの食堂もみんな値上げしているよな」

「すみません。野菜が値上がりでちょっと大変なんです」

 私はそう答えるしかなかったのだ。

「ああ、農業地帯に魔物が出現するようになったからな。収穫が滞ってるのかな。

 でも、この国は魔王の森から離れているから、まだましだっていう話だ」


 冒険者は頭をガシガシ掻きながらそんな事を言う。

「魔王の森っていうのがあるんですね」

「ああ、魔王がいる場所だっていう噂だ」


 そんな会話をしてから一ヵ月ぐらいが経った。

「魔王の森近くのリストア王国が壊滅したそうだ」

「なんでも、王国にスタンピードが発生して王都に魔物たちが溢れたって話だ」

 

 段々と良くない話が口の端に上るようになった。たまに訪れるクラスメイトもいたけれど、なんとも疲れ切ったような雰囲気を纏うようにもなってきている。数人の生産系のクラスメイトがハンバーガーを買いに来てくれた時に、それは起こった。


「お前はいいよな。よくわからねぇ称号で。俺達がこんなに大変なのに、能天気にハンバーガー売ってりゃいいんだから」


 クラスメイトの男の子の一人がカウンターに怒鳴り込んできたのだ。びっくり。来たときからなんとなく機嫌が悪そうだったんだけど。


「佐藤、やめろ。それは八つ当たりだろう」

 別のクラスメイトが彼をカウンターから引き剥がす。その子が佐藤と呼んだ彼を引っ張って連れて行ってくれたんだけど。


 後に他の子が教えてくれた。佐藤くんは錬金術師の称号をもっているのだそうだ。彼は薬品や戦うための魔道具などを作っているらしい。その佐藤くんと仲の良い柳町くんは剣士の称号で、農村地に出没する魔物討伐に出立したのだそうだ。そして、帰ってこなかったのだという。


 生産系の能力をもつクラスメイトは、戦う仲間のために必要なものを作り出しているという。彼らも王城で生活をしているし、戦闘組と違って生産組は安全な場所にいるという自覚もある。でも、戦闘組を自分たちは支えているという自負があったみたい。


 それでも、誰かが戻ってこないという事態に、そう口にはしなかったけれど死んでしまったという事に耐えられなかったのだろう。今までも怪我をした者はいた。だけど帰ってきたし、復帰もしている。


戦うのだから、死ぬことはあるのだということに皆が直面したのだ。今まで、どこかゲーム感覚的なものがあったのかもしれない。だけど、現実としてこの国の人間ではなく自分たちの仲間がいなくなったのだ。それは確かに衝撃的な出来事だったのだろう。


 その混乱した感情の発露として、不安な気持ちに惑っているのかもしれない。それで外に出たとみなされた私にぶつけてきたのかもしれない。一人だけ完全に「戦いの使命」からは抜けているものね。


 そんなことがあったせいだろうか、クラスメイトがあまり来なくなった。それとも魔物が活発化しているので、忙しいだけなのかもしれない。そんな風に思っていたら、久々に竜崎さんが顔を出してくれた。


和里田(わりた)さん、調子はどう? ハンバーガーセットを一つお願いね」

 明るい感じでカウンター内の私に声をかけてくれる。


「はーい、セット1つ承りました。こちらはぼちぼちですよ」


 そう言うと竜崎さんはちょっと微笑む。カウンター近くのベンチに腰掛けて彼女が皆について話を色々としてくれた。私は、お客さんも他にいなかったので、隣りに座って話を聞いたんだ。

休憩ですよ、お昼休憩。だから私も片手にハンバーガーを持ってパクついています。


 訓練が終わってから、戦闘系の称号をもつクラスメイトたちは魔物討伐に明け暮れているのだそうだ。生産系のクラスメイトは戦闘に関わる様々な道具類などを作っているんだって。このところ、魔物の出没が増えたためなかなか忙しいらしい。


「それでね。私は別働隊として魔王の森に行くことになったの。だから、当分ここに来る事はできないと思う。一直線に行くわけでもなくて、あっちこっち回っていくことになっているから時間がかかるんじゃないかな。しばらく顔を出せないけど、元気でね」

 聖女と勇者、剣聖そして賢者の四人がこの別働隊に任命されたのだという。魔王を倒すために、この魔物が溢れる原因になっている存在を打ち倒すために。


少数精鋭になったのは、王国周辺に跋扈する魔物に対応するため、皆を行かせるわけにもいかないからだそうだ。生産系の子たちも王城から各戦地の後背地などへ移動する人たちもでてきたという。


「気を付けてね。またハンバーガーを買いに来てくれるのを待ってるね」

 私は皆へのお土産として山ほどハンバーガーセットを彼女に託した。

「うん。戻ったら、また食べに来るね」

 そう言って、彼女は手を振って去っていった。



(コントンのレベルが上がりました)

 レベルがコントンになった。

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