4 テイクアウト始めました
人気になったハンバーガーとフライドポテト。完全独立でもやっていけるのではという話になった。そんな気は、まだ無いけどね。宿屋の食堂の営業と重ならないように、午前中の早い時間と午後のおやつ時にお店を開く。丁度、隣のお店が空いたのでそこを借りることにして、テイクアウト専門のお店をつくるという話になりました。
店長は食堂のジギルさん。私は従業員兼共同経営者だよ。実は王城を出る時に支度金とかいうのをもらってたのだ。それで、そのお金を出資しました。宰相様はそれなりに親切な人だったのだと思います。だって、私はお金の価値なんてよくわからなかったんだけど、出資できるだけの金額があったのだもの。
いや、料理作る下準備めっちゃ楽。野菜を切るのに1個づつとかじゃなくて、袋ごととかでもできるようになったし。バラバラは優秀で野菜の皮剥きもできるぜ。ジャガイモの芽も取れるのですよ、ほんと優秀だね。食堂とテイクアウト店分、みんな下準備はお任せください状態です。料理は切るだけではないけれど、基本だよね。ジギルさんにも頼りにされてます。
(コントンのレベルが上がりました)
次のお知らせが来たのは、前回のレベルアップから半年後の事だった。今度のレベルはマゼコゼ。グチャグチャときてバラバラだったから、ちょっとレベル名で拍子抜け。
でもこれが、すごい。混ぜられるの! お肉とパンと玉ねぎと調味料と卵をボールに入れて【マゼコゼ】ってやるとハンバーグの具ができあがり! 今まで一種類づつしか扱えなかったけれど、今度からは分量を器に入れれば一緒に混ぜられるの。やったね。
調子に乗って色々な具材を組み合わせて餃子を作りました。お店の新メニューです。スムージーもタルタルソースも美味しいよ。手を汚さずになんでも混ぜられる。そう、現在では手を直接的につけなくてもよくなった。このために作ってもらった大きな器に材料を入れて、手をかざして【マゼコゼ】って念じると出来上がり。
この世界にはフードプロセッサーもミキサーやジューサーもなかったので、コントンて便利と一人盛り上がっている。ゴマがあったんで、練りゴマ作って棒々鶏モドキも作ったぜい。
この世界に連れてこられて1年が経った。そうして、王城の外へでるようになったクラスメイトが様子を見に来た。この城塞都市は中央の小高い場所に王城があって、その周囲に街が形成されている。
で、私がお世話になっている宿屋さんの場所は中央部に割と近めの場所にはあるので、稀に王城の関係者が来てたみたい。それで、心に余裕ができたのかクラスメイトの竜崎さんと向田さんの二人が様子を見に来てくれたのがきっかけだった。
「和里田さん、元気そうで良かった。みんなそれぞれで分かれてたから、貴方がお城から出たってしばらく知らなかったの。ごめんね」
竜崎さんは、加奈子とも仲が良かったから私のことも気にかけてくれてたみたい。でも、聖女さまだから色々と忙しかったんだと思う。
「いやー、謝られるようなことなんてないよ。私の能力って魔物関係ではなんの役にも立ちそうになかったし。だから、お城からとっとと出ちゃった方がいいかなと思って。でもね、料理に向いているって判ったから良かったよ。ごめんね。そちらの役に立ちそうもなくって」
そう答える。だって、本当に気にしてくれていたことが分かったから。
「そんな事、気にしなくてもいいのよ。でも、元気そうで良かった、本当に」
嬉しそうに笑ってくれた。なんとなくそれで、こちらも嬉しくなった。竜崎さんは宰相様に話を聞いたらしい。
「まあ、取りあえず料理食べていって」
そうして、2人にハンバーガーとフライドポテト、スムージーをご馳走した。シェイクでないのは仕方が無いよね。でも、久々のファストフードに二人ともとっても喜んでくれた。んで、宣伝してくれたらしい。話を聞いた他の面々が休みの時などに訪れてくれるようになったのだ。
「すげえ、本当にハンバーガーだ」
「おい、餃子とかシュウマイがあるぞ。ラーメンはないのか」
「おお、ラーメン食いたいな」
「ごめん、ラーメンは無理」
「残念」
入れ替わり立ち代わりやってくるクラスメイト達。一人で来る人はいなくって、大体が3、4人でやってくる。やっぱり、みんなハンバーガーは好きだよね。
でも、ごめん。ラーメンは作り方なんて知らない。麺がなんか違うよね。作り方が分からん。
「そっか、お前の力って料理向きだったんか。でも、良かったじゃん。手に職ついてさ」
なんてことを言ってくるクラスメイトもいた。ちょっと安心したような表情で笑ってくれたので、きっと前向きな意味で言ってくれたんだと思う。
私とあまり話をしたことのないクラスメイトも「コントン」で「グチャグチャ」って出た結果が印象深くて、覚えていたみたい。そうよね、私自身も結果を見た直後は、どう考えていいかも判らなかったもん。
街でも王城でもハンバーガーが噂になっているのだそうだ。クラスメイトとは、お互いちょっと気まずかった雰囲気も最初はあったけど、色々とおしゃべりとかできるようになってすごく楽しい。
私にとっては、穏やかな日常が過ぎていく。このまま緩やかに日々が過ぎて言ってくれるといいな、そう思っていた。