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ここは最前線だとカイさんは言う。
カイさんたちは、森の瘴気溜まりを幾つか焼き払ったのだそうだ。それでもまだ、しばらくはこの街を拠点にして魔物を抑え、残っている瘴気溜まりを焼き払うお仕事を続けている。
最果ての森が近いため、その影響が色濃く、なかなか瘴気が消えないのだと彼は愚痴っていた。
「カイさん、ハロルドさん、頑張ってね」
実はこの街で面白い情報を得た。もう少し進んだ最果ての森の近くには、七色に輝く大変美味しいキノコがあるらしい。
誰の目から見ても明らかな色をしているので、取り間違えることはないそうだ。カイさんは「胡散臭い噂だ、この先は危なすぎる」と止めてきたが。
「マイペンライ、無問題よ」
私はそう言って出かけることにした。地図によれば、この先に小さな集落がある。まずはそれを目印にしよう。
「今、聖女達が最果ての森に取り掛かったっていう情報がある。浄化が済めば、この辺りも落ち着くはずだ。お前、キノコを見つけたらここにちゃんと戻ってこいよ。一緒に、『熊の寝床』に帰ろうぜ」
カイさんの言葉に、私は頷く。
「そうだね。キノコ見つけたら戻ってくるよ。じゃあ、行ってきます」
街に残るカイさんに、ガーベラはカランコロンと鈴を鳴らした。これ、行ってきますの挨拶じゃない気がするのは気のせいだろうか。置いてけぼりを食らうカイさんに対し、連れて行ってもらえる自分の優位さをひけらかしたような感じが、そこはかとなく。カイさんの顔がちょっと歪んでたので、きっと図星なのだろう。
さて、また二人、いや一人と一頭でテクテクと街道を行く。ポヨンと結界が魔物を弾くのをカイさんたちに見せているので、この先私が一人で行くのを認めてもらえたのだ。
ここまで自力で来たのだから、もう少し信用してくれてもいいのに。でも、ちゃんとハンバーガーを無事に届けられたので満足、満足。
街道を進むにつれ、人とも会わなくなった。代わりに、ドンッと襲ってくる魔物とばかりかち合う。でも、魔物は問題ない。コントンさんは無敵なのだよ。美味しそうな魔物さんはバラバラのお肉の部位に早変わりだ。
内臓は、臓側腹膜っていう膜っぽいのに覆われているけれど、それできれいにまとまっています。うん、慣れた。血抜きも完璧だし。バラバラさん有能。
地図をチェックしながら進むんだけど、場所によっては街が消滅していたりもした。街がないと食料調達が死活問題にもなりかねない。でも、私の場合は襲ってくる魔物の美味しそうな部位をチョイスして持ち歩いているんで大丈夫。数が多いので、全部は食べ切れない。残りは分解して、特に良い肉だけ収納鞄に入れているよ。
私としては食料はそれなりの量を確保しているので心配は無用だ。ここに来るまでに魔物肉を売りさばきながら、色んな食材を手に入れてきたもん。収納鞄を手に入れてからは、食材を詰め放題だし。
水に関しては、川とか池とかがあればそこから汲んできて煮沸して使ってきたんだけれど。それだけだと足りないこともある。そんな時、バラバラさんの特技はお肉を分けるだけじゃないと気がついた。血抜きができるってことでしょう。それで、水分だけを抽出して分けられるのだ。動物の体は水分が含まれているのだから、魔物だって同じはず。そう想像したらできてしまった。
バラバラさんは丁寧な仕事ぶりで、抽出した水を中空に球体で浮かべてくださる。
抽出された魔物は、干からびていたけど。うん、気にしたら負けだ。ジャーキーにできないか考えるほうが有意義だ。うん、調整次第でできそう。
レベルがコントンになってからは、こうした細かな分離抽出まで可能になった。それでも最初は調整が難しかったけれどね。旅行きでの必要に迫られた実戦の賜物ですよ。
今日も野宿。とはいってもロバ車の中で寝るから快適。ガーベラは、ほら、ロバだから外でも平気。結界石と私の結界もあるから安全だよ。
夜と朝はキッチンでちゃんと自炊する。朝はパンを焼き、お昼は残り物、基本のおかずは肉とスープ。魔物のお肉は稀に毒があるため、普通は毒抜きの魔法陣などを使うらしいけど、バラバラさんにかかれば毒素の分離などお手の物であ~る。
鍋の中にお肉と食べられる野草とか入れ、マゼコゼさんでタネを作る。昨日はステーキだったから、今日はハンバーグだ。ハーブ入りのハンバーグは、組み合わせ次第で風味が変わって飽きない。試作品を作り続けているような感覚で楽しい。
ガーベラのりんごは収納鞄でたっぷり確保してある。カイさんがあんなにガーベラとやり合いながらも、たくさん見つけてきてくれたのだ。良かったね、ガーベラ。きっとカイさんは君の舎弟希望かもしれないよ。
最果ての森が近いせいなのか、果物とか野草が段々採れなくなってきた。立ち枯れて黒くねじれた立木が目立ち始める。だけど、目当ての七色のキノコは見当たらない。
「森の端にあるって聞いたけど、まだ先なのかな」
私が呟くと、ガーベラがこちらを見た。そのまま街道を進もうとしたのだが、彼女は頑として動こうとしない。
「どうしたの、ガーベラ」
カランコロンと鈴が鳴る。私は黒い立木が並ぶ、森の奥の方を指してみる。
「じゃ、あっちに行く?」
ガーベラがそちらの方へと歩き出す。
「そっか。森の方に行きたかったのか。もしかしたら、君はキノコの在り処が分かるのかな?」
テクテクと森の中を進んでいく。でも、ここはもう森と呼べるような場所じゃなくなってくる。黒く立ち枯れた木々が並び、空気までもが黒ずんでいる。森に近寄る前から見えていた黒い煙のようなもの、瘴気が、だんだん濃くなっている。
ねえ、ガーベラ。向こうの方にひときわ黒い地帯が見えているのだけど。あっちに行きたいの?
結界は張りっぱなしにしているので、実害はない。この結界、触れた瘴気すらバラバラだかグチャグチャで分解しているようで、中に侵入させないのだ。結界の外は淀んでいる雰囲気で視野も悪い感じなんだけど、無問題。
レベルがコントンになって分かったことがある。私の能力には先があったのだ。コントンは混沌の意味だと思っていた。物事の区別をなくし、混ぜ合わせる能力だと思っていた。それは半分正解で、半分は違った。
なんでもかんでも一旦入り混じらせ、自分が考えた段階まで分解できてしまえるんだな、これが。
これ、おかしくない? どの程度まで散らすかは、分子レベル? そこまでいけちゃうの? というレベル。しかもなんにでも通用する。結界に触れた瘴気ですら分解できてしまうわけだ。笑っちゃうようなチート能力よね。
どうせならばもっと頭の良い人が持てばよかったのに。私みたいな一般人レベルの理解じゃあ、この力を本当の意味で使いこなすのは難しいかもしれない。そんな事を思ってみるけれど、それでもこの力をもつのが私なのだからしょうがない。




