20 再会
随分と北まで来た。季節は夏なので、寒くないのはありがたい。あちらこちらに寄り道をしては、その地域で有名な食材や地元の料理を教えてもらいながら進んでいる。山菜やキノコの扱いも教わって、食材の知識も随分と増えた。
「まあ、一つ所にずっといるわけじゃないから、覚えられる量にも限度があるけどね」
クラスメイト達と別れて、北へ進んでいる。この先にカイさん達がいるはずなのだ。西回りに進んでいる理由の一つは、それがあった。いや、別に深い意味はない。カイさんは私のハンバーグを気に入ってくれていたから、ご機嫌伺いも兼ねてお届けに行こうかな、なんてちょっと思っただけ。もっとも、会えるかどうかは分からないし、すれ違うかも知れない。
「あ、街が見えてきたよ」
カランコロンとガーベラが鈴をならす。あの街はカイさん達がいるかもしれない街だ。
街門で入場を待っていたときだ。ドドドッと土煙を上げる勢いで、何かがこちらを目指して駆けてきた。気がつけばギュムッと潰されそうになっている。
「苦しい、離して、潰れちゃうよ!」
「ハンバーガーがやって来たぁ!」
なんと、私を捕まえたのはカイさんだった。外からの帰りだったのか、何日か野営を続けていたに違いない。臭いです、汚いです。逃れようともがいても、ガッチリ掴まれていて離れられない。すると、ガーベラがふんふんと鼻を鳴らしながら、カイさんの腕をカプッと噛んでくれた。
「いてえ! なにしやがる!」
ようやく、カイさんが離れた。ありがとうガーベラ。汚いものを口にさせちゃったけど、あとで口直しのりんごをあげるからね。
一方のカイさんは、後から来たハロルドさんに呆れ顔で眺められていた。
「やあ、久しぶり。マッキーちゃん。噂のキッチンロバ車って、君のことだったんだね」
ハロルドさんには、にこやかに挨拶してくれた。その先では、ガーベラとカイさんが揉めているけど、無視することにする。
ハロルドさんの案内で、二人が泊まっている宿屋に行くことになった。カイさんは上機嫌だ。
「ハンバーガーたら、ハンバーガー」
謎の鼻歌を歌いながら歩く姿は、正直なところ知り合いだと思われたくない。ハロルドさんも他人のふりをしている。そうですよね。分かります。二人共自分たちが汚れている自覚はあるようで、少し離れて歩いてくれた。
「じゃあ、俺達は風呂に行ってくるから」
「ハンバーガー、期待しているからな!」
満面の笑みでカイさんが手を振って出かけていった。野営帰りの人たちのための浴場が別途あるそうだ。私も野営の条件は同じだろう、と突っ込みを入れられるかもしれないが、そんなことはない。私のロバ車にはちっちゃなバスルームがあるのだ。現代日本人の風呂好きを舐めてはいけない。だから、あんなには汚れないのだ。
「さて、まずはガーベラにお礼のりんごをあげないとね」
そうして、私は調理を始めた。今日は商業ギルドで屋台の申請はしていないから、二人のための特別メニューだ。
ハンバーガーを筆頭に、餃子、肉まん、唐揚げ、シチュー。それからでかいステーキ。カイさんの目がキラキラと輝いている。
「これだ、これ。前より旨い気がする!」
エール片手にハンバーガーを貪り食っている。一方、ステーキを見たハロルドさんが少し不思議そうな顔をした。
「これ、なんの肉なのかな。ちょっと普通のステーキとは雰囲気が違うというか」
その言葉に、私はニヤリと笑う。そうでしょう、そうでしょう。見る人が見れば違いが分かるのだ。
「まずはお召し上がりください」
私の言葉に促され、彼が肉を口に運ぶ。
「すごい、旨い。なんだ、この肉。これ、魔力も回復してないか?」
その後は二人共一言も話さず、一心不乱に食べだした。
「で、あのステーキは、結局なんの肉だったんだ?」
テーブルの上の料理は綺麗サッパリと無くなった頃、カイさんが聞いてきた。
実はステーキだけじゃない。ハンバーガーにも餃子にも合いびき肉としてそれは入いっていたんですよ、フッフッフッ。
「あれはね、ドラゴンのお肉」
二人が絶句した。
「ここに来る前に、ドラゴンを倒した人がいてね。それを捌かせてもらったの。お礼にってお肉を貰ったんだ」
私は「人知れず誰かが倒したドラゴンを私が捌いた」という体で、街に肉を持ち込んだ。ドラゴンを倒した人が現れるまではと、しばらく足止めになってしまったが、そのままだとお肉が駄目になってしまう。実はそのために、ドラゴンの皮で収納鞄を作ったんだ。
その収納鞄で肉を保存しながら一週間ほど待ったが、ドラゴンスレイヤーを名乗る人物は現れなかった。自分が倒したと主張する人間は何人かいたけれど、魔力残滓で判別がつくらしくて、ウソは見破られてしまったのだとか。結果、誰も現れなかったので、発見して捌いた私が肉を貰い受けることになり、巨体の半分はその街で振る舞って皆で美味しくいただいた。
皆やカイさんたちに会えるかも知れないと思って、残しておいたのだ。収納鞄は品質保持の魔法もかかるらしく、しばらくは大丈夫だけど。それとは別にジャーキーも作った。
にっこり笑って説明したけれど、二人は相変わらず絶句したままだった。
うん、嘘は言ってないよ。




