19 別視点 カイとハロルド
「ハンバーガーが食いてぇ!」
魔物を一刀両断にしながら叫んだ相棒に、ちょっと顔を顰めた。カイの持つ剣からは炎がほとばしり、襲いかかろうとしていた魔物を一瞬で焼き尽くす。
「レシピを買って、宿で作ってもらっているじゃないか」
自分に向かってきた魔物を氷の刃で切り裂きながら、ハロルドがツッコミを入れる。周囲にはすでに魔物の死骸が山を築いていた。
カイは一振りで辺りの魔物を燃え上がらせる。彼の技の見事な点は、魔物だけを狙いすまして燃き払うところだ。日常の魔物討伐であれば、素材となる部位を確保するためにそんな極端な真似はしない。だが、押し寄せる魔物の群れを抑え込む今、素材を気にするようなゆとりなどなかった。
魔物が溢れて国が一つ滅びかけたのだから、遅きに失したと言われるかもしれないが、その対応のために二人はこの地に来ていた。
それに死骸をそのままにしておけば、最悪の場合ゾンビ化する恐れもある。今の薄い瘴気ならばまだそんな心配はないかもしれないが、先々の状況は不明だ。先手を打っておくに越したことはないだろう。
そうは言っても、自分たちが食べる分として何頭かは確保してある。大概の魔物肉は、簡単な毒抜きの魔法陣を使えば問題なく食べるからだ。
旨いかどうかは種類によるが、保存のためにハロルドが氷漬けにした死骸もいくつか転がっている。
カイはひたすら焼くだけで、細かな調整に無頓着だ。緻密に考えて状況を整えるのはハロルドの役目である。二人はそうやって今までやってきている。
炎の死神の二つ名を持つカイと、氷の貴公子と噂されるハロルド。特級冒険者として知られる二人は、それゆえに依頼を選べる立場にあった。
もともとあの国を拠点にしていたわけでもなかったが、居心地の良い宿屋、『熊の寝床』が気に入り、つい長居してしまった。
それまでは、旅烏を気取ってあちらこちらをふらふらしていたので、そろそろ移動しようかなんていう話も出ていた。加えて、魔王が出現したという情報も入ってきていた。
それを見据え、本格的に拠点を北に移すことも視野に入れていたのだ。カイの焔《ほむら》があれば、最果ての森であっても焼き尽くすことができる、彼らはそう自負していた。
魔王に関する依頼が出れば、打って出るつもりはあった。かといって、タダ働きをするつもりはない。それが彼らの生業だからだ。あくまで仕事の一つとして冷静に判断していた。
出立が伸びたのは、宿屋にやってきた少女の影響もあった。といっても、彼女個人に惹かれたわけではない。依頼がきたのだ。「彼女をそれとなく見ておいてくれ」と。
二人に白羽の矢が立ったのは、彼女が『熊の寝床』で働くことになり、そこがたまたま彼らの拠点だったから、というだけの理由らしかった。
彼女が何者なのか、詳細は明かされなかった。だが当時の状況からして、召喚の関係者ではないかという想像はついていた。召喚の事実は公表こそされていないが、さりとて徹底的に秘匿されているわけでもない。それなりの地位にいれば、自然と耳には入る情報だった。
実際に彼らが接してみた印象は、本当に普通の女の子だった。彼女の料理の腕前というか発想には目を見張るものはあったが、それだけだ。
対象者の少女はほとんど宿屋の周辺でしか行動しなかったため、近場の依頼を受けつつ目を配る程度で事足りた。
どちらかといえば依頼主の意図は、護衛よりも情報収集、あるいは彼女の日常の報告に重きをおいているようだった。
いや、それ以上に、王都側に強力な戦力である二人を留めておきたかっただけなのだろう、とハロルドは分析している。
他にも監視役が派遣されている気配はなんとなく感じていた。本当に、それだけの間柄。ハロルドはそう割り切っていたのだが。
「お前が食べたいのは、マッキーちゃんが作ったハンバーガーなんだろうけどな」
自分の欲求にすら無自覚な相棒は、まったくもって実に救いがたい。そうは言いつつも、ハロルド自身もあのハンバーガーが過っているのだから、人のことは言えない。
「そんなに、ハンバーガーが食いたけりゃ、さっさと溢れた魔物を始末して戻ろうぜ」
そう促されると、カイは一段と気合を入れ直した。
「おうよ!」




