2 コントンでグチャグチャの使い方
スキル名がコントン、今までになかったスキルだと言われた。で、レベルがグチャグチャ。レベルって普通は数字とかじゃないのと突っ込みたかったけど、そうなんだから仕方がない。他の子達は皆数字なのに。
でもグチャグチャってグチャグチャだよね。なんとなく使い方はわかった気がした。それで鑑定鏡の近くにいる神官さんに聞いてみる。
「すみません。壊して良い堅い物があったら頂けますか」
怪訝な顔をして神官さんは少し考えて、控えていた人に伝えてどこからか大きめの穴の空いたバケツを用意してくれた。このバケツ、金属製なのかと変なところに感心しながら。それを両手で挟んで【グチャグチャ】って念じてみた。
そばで見ていた兵士さん、判定するために鑑定鏡の側にいた神官さん、王様達、とにかく皆引いちゃった。私だって引いちゃったよ、自分のことなのに。だって、金属バケツは手の中でグチャグチャの塊になっちゃった。あれ、レベルじゃなくて状態じゃないのと自分で自分に突っ込んだ。ごめんなさい、元には戻せないようです、はい。
聖女だ勇者だと盛り上がっていたのに、私の称号のせいで、なんか周囲がスンっとなってしまった。ごめんなさい。神官長さんと王様がなんとかその場を取りなして、聖女様たちの登場を祝いましょうという方向に切り替えてくれたのは、とってもありがたかった。私のグチャグチャは無かったことになったみたいだ。クラスメイト達もちょっと引いていて、苦笑いをするしかない。
さて、それからはそれぞれ部屋をもらって食事をして就寝となりその日は終わった。
私達が召喚されたのは王城の中にある神殿だそうで。神殿の地下部に私達が召喚された部屋があって、拝殿の間というのが鑑定鏡があった案内された部屋なのだそうだ。通常はこの拝殿の間の鑑定鏡は外されていて、宝物庫にしまわれているらしい。この神殿にある個室に皆がそれぞれ部屋をもらって過ごしていいことになった。
翌日は、色々と説明を受けた。生産系の人達はこの王城内の作業場で技術者の人達に弟子入りして、製造の手伝いを、戦闘系の人達は騎士の人達とともに戦闘訓練を受けて、魔物討伐などを手伝いをしてほしいとの事だった。そして、将来的には魔王討伐へと向かってもらいたいといった内容だ。
ほら、異世界からの召喚って拉致誘拐だって言うじゃない。でもさ、私達の場合は、元の世界に戻れたとしても死んでいるのだ。それが嘘じゃ無いってなんとなく感覚的にわかっている。だから、拒否権ないんだよねという雰囲気。
皆はこの世界で生きていくためにこの仕事を引き受けようという気になったみたいだ。そう思えたのは、神官長をはじめとした神官の人達や、王家の人達、騎士の人達など関わった人達が丁寧に扱ってくれたからというのもあると思う。
そして現在、皆がそれぞれの部署で学んでいる。だけどね、私の場合はそれが問題だった。だって、誰に教えを請えというのか? 前例のない称号であるコントンとレベルのグチャグチャ。それでも神官さんが一人、私に色々と指導してくれることになった。「触って、念じるとグチャグチャになるスキル」ということで、色々と実験してみましょう、ということに。
陶器類や木製の家具なんかは砕けてグチャグチャになった。金属や紙、布みたいなのは割れないけどグチャグチャの塊になった。納屋でやったときには、壁を触った納屋自体はなんともならなかったんだけど、中に入れてあったものがグチャグチャになった。
面白いことに中のものはあんまり壊れてなかった。これはグチャグチャというよりもヒッチャカメッチャカというものではなかろうか。下敷きになったりして壊れたものとかがあったぐらい。
最悪だったのが生き物。死んだ犬をですね、触ったのですよ。スプラッター、ミンチでした。ちょっと油断したら辺り一面、血が飛び散って私はブラッディ……。役に立たないどころじゃないですよね。
魔物を触れば一発でスプラッターにできるんじゃないかと言われましたが、体術も何もできない私なんて魔物に触れる前に自分がスプラッターです。自慢じゃないですが、運動神経は0です。
ちょっと体術訓練したけれど、指導員の人が音を上げる。
「いや、ちょっと彼女を戦闘に連れて行くのは、難しいですね」
戦闘系の称号持ちでもないので、まるっきりだったのだ。
確かに触ることさえ出来れば相手はスプラッター、でも運痴の私が拳で戦うのは無理では無かろうか。それに、一つ間違えば自分がグチャグチャになるかもしれないのに、私に指導したがる人物がいるかどうか。
そうして私は、宙ぶらりんになった。
クラスメイトたちとは、この頃あまり話す機会がない。みんな、自分たちのスキルを伸ばすのに懸命だというのもあるけど、仲が良かった加奈子がこちらには来ていないせいもあるかな。私は彼女を通じて、皆と仲良くしていた感じがあるから。
クラスメイトが取り立てて冷たいわけでもないと思う。だって、私の称号が特異すぎて戦闘系の訓練にも生産系の練習にも付き合うことがないから、話すきっかけも話題もないし。あ、会えば挨拶ぐらいはするよ。
あちらの世界で生き残った人たちは、あんまりひどいことになっていないといいなと思っている。高速道路で後ろから衝撃が来たみたいだし、前方にいた人たちはこちらには来ていない。バスの座席は出席番号順にきまってたから、加奈子は一番前で、私は一番後ろになった。あれが運命の分かれ道だったのだろう。そんなことをボンヤリ思う。
なんでもグチャグチャにする能力しか私にはないので、お城の人たちは引き気味だったりする。メイドさん、色々とお世話になっているけど昨日ちょっと触っちゃっただけで腰抜かされた。
「申し訳ございません」って真っ青な顔で謝られたけど、仕方ないと思う。そこで相談役になっている神官さんに話を持ちかけてみた。
「私の能力は戦いにも、バックアップするための生産にも向きません。このままでは何の役にも立たちません。だから、ここでお世話になり続けるのも申し訳ないので、街で生活したいと思います。できればどこか、仕事を紹介してもらえませんか? 」
仕事を紹介してもらうにあたり、何ができるのかという話になった。色々と考えたけれども、私は高校生に過ぎなくて、手に職なんてない。何ができるだろうかと考えて、一つ思いついた。
「食堂とか、料理を作るお店などは可能でしょうか」