18 フィッシュバーガー
その街は、魚料理が有名だと先に寄った街で聞いていた。だから、魚料理が食べられるかと期待していたんだけど。
「ああ、以前の貯水池は魚が豊富だったんだけどね。魔魚が棲みついちゃったんだ」
え、それでは今、水はどうしているんですかと尋ねてみると。
「イヴォカーレ国の勇者隊の人達が新しい貯水池を作ってくれたんだよ。その御蔭で、水の問題は表面上、解決したんだけどね」
教えてくれた食堂のウエイトレスさんが、ちょっと困ったような笑顔で教えてくれた。クラスメイトはここでも活躍してたんだね。ちょっとその話を聞いて口元がムズムズしてくる。
「新しい貯水池には魚がいないからね。それに前の貯水池は瘴気溜まりとまではいかないけれど、瘴気まみれになっているんだ。聖女様にお願いして浄化してもらうと、水も中にいるものも全部消失しちゃうっていう話でさ、皆、二の足を踏んでるんだよ」
瘴気に侵食されてしまったら、瘴気そのものとみなされて消滅しちゃうってことかな。すごいな聖女の浄化、池全体が消滅するってことでしょう。
「え、その魔魚っていうのは、食べられないんですか?」
ちょっと食い意地が張った質問だなとは思ったんだけど、この街では魚料理を食べるぞ! と意気込んできたので、聞かない理由なぞ存在しない。
「さあ、食べた話は聞かないわ。毒が強いなんて噂だし、大きくて仕留めるのも大変みたい。それだけじゃなくて、貯水池周辺も魔物がふえているからね」
ちょっと考え込みながら、ウエイトレスさんが答えてくれた。
「毒、ですか。元の魚は美味しかったんですよね」
「そうなのよ、淡白だけど泥臭さも無くて、美味しい魚だったわ。 水が良かったんだろうって言われていたから、残念でね」
すこし、遠くをみて彼女は懐かしそうに話してくれた。美味しいお魚、美味しい……。
「その元の貯水池って、どうやったら行けますか?」
ちょっと前のめりで、貯水池に行くことを目標に設定。その前に、宿屋をとってそこでも色々と情報を収集する。
「さて、ガーベラ。君は魚は食べないよね。でも、貯水池周辺によい食草があるといいね」
商業ギルドに顔を出して、屋台を開く許可申請などの手続きとともに情報収集も忘れない。
「え、前の貯水池までの地図ならあるけれど。あそこは魔物も多いから危ないわよ」
商業ギルドの受付のお姉さんは、色々と教えてくれる。
「私、貯水池の魚のフライが好きだったわ。あそこにはフナやモツゴとかいたわね。それにドジョウとかもね」
私が魚についての名前が分かるように聞こえるのは、多分、異世界言語通訳能力の賜物、なのかな。そういえば、ガーベラはロバじゃなくてローバンって言ってたな。ということは、ガーベラはただのロバじゃないのかもしれない。なんてことがちょっと頭の隅に過ったけれど。
貯水池へと向かう。ガーベラが一緒に行きたそうだったので、車だけを置いて一人と一頭でてくてくと歩いて進む。ガーベラはまるで行き先を知っているかのように先導してくれる。その道は瘴気が濃くなっているのだろうか、ちょっとだけ空気が黒い気がする。ま、結界内は問題ない。
ボンッと魔物が結界にぶつかって、お肉になる。この頃はぶつかったのはすべて、肉にして収納鞄に入れている。お店をするのに、お肉はあるのに越したことはないからね。
「ねえ、ガーベラ。なんで君はそんなに確信をもって進めるのかな?」
ホント、彼女は地図が読めているんじゃないかと思う。
貯水池に着いた。あちこち見回ったせいかなんとなくこの辺りの瘴気の中心がここなんだなあと思う。池の水は黒く濁っているような色をしている。
「それでは、始めましょう」
私は結界で大きな網をイメージして作り上げる。今までお肉を運ぶために結界を使ってきた。それの応用だね。
「ほい」
掛け声とともに貯水池全体に底まで網を張り、大きな魚だけが引っかかるように引き上げる。ザッパーンと大きな音とともに、結界の中は豊漁! 結界が貯水池全体に広がったせいだろうか、水が結界に触れたことで浄化され、透明な水に変わっている。結界はコントンでできている。コントンの力って瘴気も分解するんだなあ、と感心してしまった。でも、考えてみれば結界内に入れば草とかも色が戻って、ガーベラが問題なく食べられるものになってたから、今更か。
魔魚は色々なサイズがあるけれど、一番デカいのは4メートルぐらいの大物。すごいね、こういう時は魚拓を取るべき? やり方知らんけど。引き上げる際の下処理は、内臓を抜く程度に留めた。だってお魚がどんな状態なのかを知りたかし、サイズによっては、やっぱり姿のまま焼き魚にしたいじゃない。さて、宿に戻って車を回収したら、お店の準備をしなくちゃね。
「さあ、さあ。フィッシュバーガーだよ」
キッチンロバ車、本日開店。魔魚は元の魚とは味が濃くなっているので、唐揚げとかじゃなくてフィッシュバーガーにしてみました。卵もあったのでタルタルソースは準備万端。魔物肉も充実しているので、ハンバーガーももちろんあります。それ以外に肉まん、餃子、串焼きも揃い踏みです。
「さあ、それからドジョウ鍋もあるよ」
ドジョウ鍋はここの地元料理だという事で、食堂の女将さんに教えてもらったのだ。ドジョウは魔物化してたんで、1メートルぐらいデカくなっちゃっているので切り身にして調理してみた。
「どうやって貯水池の魚を獲ってきたんだ」
冒険者の人とかにものすごい勢いで聞かれたんだけど、先の街で出会った勇者隊の人達に魔道具を譲り受けた、という話にしてある。この街の貯水池のことを気にかけていて、彼らが工夫をして別の街で作り上げたんだって。この街に行くという話をしたら、試してみてねって渡されたっていう話をした。
「それで貯水池の話を色々聞いてたんだね」
と一部の人は納得してくれたみたい。
「ごめんなさい。魔道具は調子に乗って使いすぎて壊しちゃった」
試作品だったせいか魔道具は砕けてしまいました、ということで。でも、その魔道具を使いまくったせいでどうも水が浄化されたみたいです、という話にしてみた。錬金術士も鍛冶師もいるから、大丈夫、だよね。大丈夫であって欲しい。皆、だしにしてごめんね。まあ、多少のやり取りはあったけど、大きな問題にはならなかった。
「そうか。あの人達は新しい貯水池を作ってくれただけじゃなくて、ここを案じていてくれたんだ」
街の人達は、クラスメイトの勇者隊について感謝してくれる方向にいってくれて良かった、良かった。




