幕間
「行ってしまったな」
食堂に戻ってきて、マーサはそんな夫のつぶやきを聞いていた。食堂はどこかガランとしてしまって、静かだ。マッキーが来てから、この食堂も宿屋もとても騒がしくなったような気がする。その彼女が旅立ってしまったからこんなにも静かなのだろうか、ふとそんな事を考える。
ジギルとマーサはドミニクからマッキーが召喚された人間だということを聞いていた。それは彼女の庇護と監視のためにも必要だったからだ。だから、もし彼女が魔王との戦いを望むならば旅立たせて欲しいとも言われていたのだ。
「彼女の力が、どんなものか誰にもわからないんだよ。もしかしたら魔王討伐に必要なものなのかもしれないと国王はお考えでな。でも、全く使えない能力なのかも知れない」
だから、必要であれば彼女自身が動くのではないかと思っているのだという。それもあって、定期的にドミニクが彼女の元を訪れていたのだ。
「召喚された者というのは、必要だからこそ喚ばれたと考えられているんだ。まあ、ココだけの話だが、今回の喚ばれた者達は気の毒だとも思うがな。みんな成人前の子どもたちだ」
ドミニクは、杯を酌み交わしながらジギルにそう語ったことがあった。その表情は苦かった。
彼女を預かって。真面目に仕事をこなしていく姿を見ていて。いつの間にか家族のように思っていた。
「だけど、マッキーは戦うために旅に出たわけじゃない。みんなに旨い飯を食べさせるために、旅立ったんだ」
そんな言葉がジギルの口から漏れた。マーサはそんな夫を優しげに見つめている。
「大丈夫よ。きっと無事で帰ってくるわ。マッキーが帰ってきたらあなたの料理でお腹いっぱいご馳走しましょう。よく頑張ったねって」
妻の言葉に大きく頷く。
「そうだな。俺も腕を磨かないとな」
そんな会話をして笑った。
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噂のキッチンロバ車!
魔物の死骸が累々と積み重なる。兵士達の疲労の色は濃い。市壁の所々は壊れているものの、どうやらようやく守りきったようだ。疲れてその場にしゃがみ込む者もいれば、負傷した者も多い。死骸を放置すれば、また別の魔物を呼び寄せかねない。処理をしなければならないと、兵士たちは疲れた身体にムチを打ち、なんとか立ち上がった。
そこへ、場違いなほど軽快なカランカランと鈴の音が響く。
「はい。魔物の肉を引き受けます。美味しい料理にしますよ」
悲惨な状況を打ち消すような、明るい女の子の声だった。
香ばしく肉が焼ける匂い、温かいシチュー、そしてハンバーガー。大量の魔物たちをあっという間に捌ききり、食材へと変えられていくその手際は、まさに見事と言うほかなかった。
周囲の人々が呆気にとられる中、彼女はテキパキとお肉を仕上げていく。やがて、広場はそのまま賑やかな食事会の会場となった。
残った肉は市街の家々や倉庫の魔導冷蔵庫に収められた。不思議なことに、本来ならば毒抜きしなければならないはずの毒持ちの肉すら、一切見当たらなかった。こうして彼女は、代わりに材料や調味料などを譲り受けると、次の街へと去っていった。
魔物を捌き、絶品の料理を振る舞う「キッチンロバ車」の噂は、瞬く間に街から街へと広がっていった。




