14 結界、やばいです
さて、王都で冒険者さんの数が減ったような気がする。カイさん達がいなくなったからそう感じるのかも知れないけれど、魔物肉とかの供給も明らかに減っている。正確には、値段が高騰してきているのだ。
「採取依頼の値段も上がったよね」
物価高が止まらない。まだ、王都のすぐ近くに魔物が出没する話は出ていなけど、軍も警戒はしているって聞いている。
久々にドミニクさんが私の様子見にやって来た。クラスメイト達はあちこちで活躍しているらしい。みんな、頑張っているんだ、元気だといいなと思う。
「それで、俺の隊で今度、王都外周の哨戒に出ることになったんだ」
そんなに近くに魔物が出るのだろうか。
「ああ、今のところは大丈夫だと思うけどね。この頃はあちこちで魔物の出現が取り沙汰されているだろう? だから、念の為の見回りだよ」
とのこと。そっか、魔物はこちらにはまだ出ていないんだ。そこで、私は考えた。王都周辺ならば、自分で採取に行ってもいいのではなかろうか。そう提案したら、ジギルさんにもマーサさんにもめちゃくちゃ反対されたけれど。
「でも、ほら、私のグチャグチャは手をかざせば相手にダメージを与えられるようになっているから、自衛はできます。イノシシぐらいならば大丈夫です」
そうして、色々と準備を整えた。ジギルさんからもアドバイスをもらう。なんでも彼は、昔は冒険者だったそうだ。足を怪我して引退したけど、その縁でドミニクさんと知り合ったらしい。ドミニクさんも兵士になる前は冒険者だったとかかな?
「いいか、決して無茶をするんじゃないぞ。森の周辺はいいけど、奥には行くなよ」
「はい。無茶はしません。大丈夫です」
実は今回、外に出たいと言い出したのには他にも理由がある。レベルが上がったコントンを試してみたいと思ったのだ。使い方については感覚的にはわかったけれど、調整がどうなるか未知数だったから。どうも結界のようなものがつくれそうなんだけれど、街の中だと使いどころがない。だから、外なら試せると思ったのだ。
「行ってきます!」
王都の城門から外へ出る。王都の北側は森が隣接している。兵士や冒険者が立ち入るため、なんとなくルートができている。今回は少し進んだ場所にある野営地で一泊する予定。結界石もジギルさんが用意してくれた。
目に付く使えそうな植物を採取していく。ハーブや食べられる果実などはジギルさんから教わった。店の裏にある野菜畑にないものも勉強済みだ。依頼して採取してきてもらったものは乾燥させる前に本と照らし合わせて確認もしている。
少しずつ場所を移動しながら採取を続ける。キノコ、発見。けれどキノコは素人には危険物だ。
「鑑定があったら良かったのに」
と思いながらスルーした。
結界を張りながら道をゆく。最初は周囲1mぐらいを想定し、徐々に広げていく。イメージは「植物や小さいものは通すけど、子犬ぐらいのサイズの動物は通さないという感じで。結果、10mほどまで範囲を広げることは可能だと確認できた。意識していないと範囲が不安定になって、2mから5mぐらいの間を変動してしまうのが玉に瑕。
「練習が必要、かな」
なんて独り言を言いながら進むと、ドン、と結界に何かがぶつかってきた感覚があった。この結界、優秀。ぶつかったものの側に行くと当たりどころが悪かったのか、キジがお亡くなりになっていた。さっそくバラバラで解体。今晩のご飯、ゲット。
今日の野営地に到着し、調理の準備をする。
持ってきていた干し肉と乾燥キノコ、加えて採取したハーブなどで簡単なスープを作る。それからキジの新鮮なお肉は、やはり唐揚げでしょう。油、多めに持ってきて良かった。タレに漬け込んでいたのを取り出して、美味しくいただきました。全部は食べきれないので、残りはお土産にしよう。
次の日、結界石を片付けて帰り支度をする。来た道を戻りながら、採取しながら帰る予定だ。
すると、背後からガサガサという音がして、獣の咆哮が響いた。奥からこちらの方へ逃げてくる動物たち。さらにその奥に見えるのは、遠近感が狂ったかのような巨大な熊。その剛毛は真っ赤だった。
「これって、魔物じゃないのかな。魔物、いないって言っていたのに」
どこか他人事のようにそんなことを思う自分がいる。運が悪いことに、デカ熊と目があってしまった。熊はこちらをまっすぐ目指してかけてくる。ドンッ、と結界にその熊がぶつかった。思わず目を瞑ってしまい、その刹那に【バラバラ】が発動した。
静かだ。とても静か。恐る恐る目を開けると、真っ赤な熊はきれいに部位ごとのお肉になっていた。ご丁寧に毛皮の上に積み重なっている。
「なに、これ」
しばらく呆然とお肉の山を見つめてしまった。魔物が食材になってしまったのだ。ジギルさんに教えてもらった魔物肉の見分け方、毒の有無を確認すると、この肉は大丈夫そうだった。血抜きもすんでいる。現実逃避をするように肉の品定めなんかをしていたが、ふと我に返る。
「この力、やばい……」
王城では「触らなければ発動しない」から、市井に出ることを許された。でも、今回はこの熊に触れてはいない。熊が触れたのは結界だ。グチャグチャの事を知っていた王城のメイドさんは、私が触れたら腰を抜かしていた。触れずにこれだけのことができると知られたら、どうなるか。
「もし、この事が知れ渡ったら?」
皆の力にはなれるだろう。即戦力だ。魔物たちをバンバンにお肉に変えられるんだから。でも、皆が私を怖がって近づかなくなるんじゃないか。だって、多分これは《《何に対しても》》可能な事だって思うよね。誰も近寄ってこなくなるんじゃないかな。せっかくクラスメイトとも仲良くなれたのに。ジギルさんやマーサさん、カイさん達にも、気味悪がられるに違いない。
それに竜崎さんたちが魔王を浄化した後はどうなるだろう。魔物と戦う必要が無くなった時、国から「戦争に出陣しろ」とか言われるかも知れない。確かに脅されても、「皆お肉にしちゃうぞ」と脅すことはできるかも知れないけれど、それではますます人から遠ざかるだけだ。そんなのは、嫌だ。
「この事は、知られたらダメ」
私は決心する。死体になったものしか解体できない、その設定を崩してはいけない。結界に触れただけでバラバラになるなんて論外。
「このお肉、どうしよう。このままにしておいたら勿体ないよね」
内臓とか骨とかいらないものは捨てていこう。
「そうだ。結界が張れる話はしても大丈夫だよね。勢いよくぶつかってきたら死んじゃった、という話にしよう。だって、ぶつかるまでは本当のことだもの」
お肉にハーブをまぶして毛皮に包み、荷物に加える。とても重いけれど、店で働いて体力はついているから、きっと大丈夫。食べ物を無駄にするなんてダメだ。
帰り道、お昼を用意するのが面倒になって、念の為に持ってきた携帯食を食べる。なかなか個性的な味でございました。ちょっとしょっぱい草の塊? ちょっと苦くない? なんと表現したらよいのか。こういうバーみたいなのって甘くないんかい、と突っ込みを入れたい。味のタイプは幾つかあって、栄養価は高いそうだけど、本当に美味しくない。いつかのカイさんの愚痴を思い出す。皆もこんなもの食べて頑張っているんだと思うと、切なくなってきた。
「そうだよ、私がご飯を作りに行けばいいんだ」
戦いには参加しないけれど、戦っている人達に美味しい料理を届けに行こう。




