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町中では、段々と良くない話が口の端に上るようになった。情勢は刻々と悪方向に向かっているように感じる。相変わらず野菜や穀物が値段は高止まり。
それでも、悪い噂ばかりでもなかった。スタンピードを押し留めて散開させた話も耳にしたし、クラスメイト達勇者の活躍も話題にのぼることもあった。勇者はみんなの希望なのだと感じる。
クラスメイトたちがお店に来るのは、稀になった。彼らはなんとも疲れ切ったような雰囲気を纏うようにもなってきている。私は、誰かが来るたびに、皆の分のお土産を持っていってもらうようにしている。私にできるのは、そのぐらいだと思うから。
数人の生産系のクラスメイトがハンバーガーを買いに来てくれた時に、それは起こった。
「お前はいいよな。よくわからねぇ称号で。俺達がこんなに大変なのに、能天気にハンバーガー売ってりゃいいんだから」
一人の男子がカウンターに怒鳴り込んできたのだ。びっくり。なんとなく機嫌が悪そうって思っていたんだけど。
「佐藤、やめろ。それは八つ当たりだろう」
別のクラスメイトが彼をカウンターから引き剥がす。ああ、ラーメンの佐藤君だとその時に気がついた。ちょっとやつれていて、すぐにはわからなかったのだ。別の男子が彼を引っ張って連れて行ってくれたんだけど。あれ、いつも一緒にいた佐々木君の姿がないことに気がついた。今日は一緒じゃなかったんだろうか。
後から聞いた話だ。
佐藤くんは錬金術師の称号をもっているので武具や戦うための魔道具、薬品などを作成しているのだそうだ。んで、彼といつもつるんでいた佐々木くんはやっぱり剣士だったのだという。
戦闘系の称号をもつ人達は、実戦経験を積むために魔物討伐に向かっているのだそうだ。佐々木君は、兵士たちと一緒に農村部に出没する魔物討伐に出立したのだそうだ。
どうも、功を焦ったのか兵士達の一部が召喚された者を一人でも連れていけば簡単に魔物討伐ができると思ったのだという。それで佐々木君をそそのかして連れて行ったのは良いが、思った以上に相手の魔物が強かったらしい。
そして、帰ってこなかったのだという。
生産系の能力をもつクラスメイトは、戦う仲間のために必要なものを作り出している。彼らも王城で生活をしていることから、戦闘組と違って生産組は安全な場所にいるという自覚もある。でも、戦闘組を自分たちは支えているという自負だってあるだろう。
それでも、初めて直面した誰かが戻ってこないという事態に、そう口にはしなかったけれど、《《死んでしまった》》という事に耐えられなかったのだろう。今までも怪我をした者はいた。だけど帰ってきたし、復帰もしている。
戦うのだから、死ぬことはあるのだということに皆が直面したのだ。
「今まで、どこかゲーム感覚的なものがあったのかもしれない。選ばれたんだっていうかなんていうか。でも、そんな簡単なものじゃないって……」
佐々木君と佐藤君の事を教えてくれた人から、そんな言葉が溢れた。
現実としてこの国の人間ではなく自分たちの仲間がいなくなった。それは確かに衝撃的な出来事だったのだろう。離れてしまったとはいえ、その話を聞いた私も絶句するしかなかった、怖かった。
その混乱した感情の発露として、不安な気持ちに惑っているのかもしれない。それで外に出たとみなされた私にぶつけてきたのかもしれない。一人だけ完全に「戦いの使命」からは抜けているものね。同じく召喚された人間だっていうのに。言葉は出てこない。
そんなことがあったせいだろうか、クラスメイトがあまり来なくなった。そう思っていたのだけれど、どうにも違ったらしい。力をつけたクラスメイト達は積極的に戦地に赴くようになったのだそうだ。その話を持ってきたのは、竜崎さんだった。
その日、久しぶりに竜崎さんが一人でやってきた。
「和里田さん、調子はどう? ハンバーガーセットを一つお願いね。テリヤキバーガーで、スムージーがいいわ」
明るい感じでカウンター内の私に声をかけてくれる。
「はーい、セット1つ承りました。お久しぶりです。こちらはぼちぼちやっていますよ」
そう言うと竜崎さんはちょっと微笑む。カウンター近くのベンチに腰掛けて彼女が皆について話を色々としてくれた。私は、お客さんも他にいなかったので、隣に座って話を聞いたんだ。休憩ですよ、お昼休憩。だから私も片手にハンバーガーを持ってパクつく。
訓練が終わってから、戦闘系の称号をもつクラスメイトたちは魔物討伐に明け暮れているのだそうだ。生産系のクラスメイトは戦闘に関わる様々な道具類などを作っているんだって。このところ、魔物の出没が増えたためなかなか忙しいらしい。
「皆、ハンバーガーを食べにくる余裕がないのよ。幾つかのグループに分けて、一部を他国に派遣したいっていう話もきているの。でも、私は皆がバラバラにならないほうがいいと思っている。離れてしまったら、不安で押しつぶされてしまうかもしれない」
竜崎さんはこちらを見ずに、そんな話を続けていく。
「それでね。私は勇者の華山君たちと別働隊として魔王の森に行くことになったの。だから、当分ここに来る事はできなくなっちゃった。能力を磨くという意味もあって、一直線に行くわけでもなくて、あっちこっち回っていくことになっているから時間がかかるんじゃないかな。しばらく顔を出せないけど、きっと帰ってくるから」
聖女と勇者、賢者の三人がこの別働隊に任命されたのだという。案内人として冒険者の人とも一緒に行くのだそうだ。魔王を倒すために、この魔物が溢れる原因になっている存在を打ち倒して浄化するために。
少数精鋭になのは、王国周辺に跋扈する魔物に対応するため、全員で行かせるわけにもいかないからだそうだ。生産系の子たちも王城から各戦地の後背地などへ移動させたいという希望もあるのだという。
「気を付けてね。またハンバーガーを買いに来てくれるのを待っているから。無事に帰ってきたら、うちのお店で食べ放題で歓待するからね」
私は皆へのお土産として山ほどハンバーガーセットを彼女に託した。
「うん。楽しみにしている」
そう言って、彼女は手を振って去っていった。




