11 冒険者さん達も大変そうです
カイさん達、冒険者の人はお弁当以外だとあんまり来ない。早めに戻ってきた時なんかだと小腹が空いていたりした時に買いに来るときはあるけれど。屋台の串焼きも人気者だから。もちろん、ちゃんと食事を食べるという人は食堂の方。ジギルさんの食堂は相変わらず人気だもの。
「あれ、ハンバーガーセットも値上がりしちゃったのか」
馴染の冒険者さんがちょっと眉をひそめて、そんなことを言われた。そうなのだ、このところ小麦や野菜全般が値上がりしていて、頑張っていたけれどちょっと値上げしないと赤字になってしまうのだ。
「どこの食堂もみんな値上げしているよな」
「すみません。野菜や小麦が値上がりしちゃっていて」
私はそう答えるしかなかったのだ。
「ああ、農業国家のアグリコルトアの魔物の出現率がひどいらしいな。牧畜が打撃を受けているとかいう話があったか。農作物も収穫が滞っているのかな」
「そういや、街道に魔物が出現するようになったんで、流通が滞っているという話を聞いたな。この国は魔王の出現した森から離れているから、まだましだっていう」
「でも、ほら北部の農村じゃ魔物の被害が出たとかで、討伐依頼がでていただろう」
冒険者は頭をガシガシ掻きながらそんな事を言う。
「魔王が出現したから、魔物が増えたって聞いていますけど」
そんな遣り取りをする冒険者さんに、そう言うと。
「ああ、魔王がいる場所がこの国から見て北方にある最果ての森じゃないかって話だ。そっちの方では、スタンピードが起きた場所もあるっていう噂も回ってきている」
浮かない顔で答えてくれた。
「魔王ってどんな怪物なの? やっぱり魔王城みたいな場所があるのかな」
私がそう呟くと、少し呆けたような、驚いた様な顔を向けられる。
「え、知らないのか」
あー、なんかやっちゃったかな。知らないといけない事だったのかな。私の顔がちょっと引き攣る。どうしようか、私が召喚された人間だっていう話は内緒にしておくことになっているのに。
「知らんヤツがいてもおかしくないだろう。俺達冒険者や上の人間には当たり前の話だけどな。こいつは無学な小娘だぜ」
会話に入ってきたのは、丁度やってきたカイさんだった。無学な小娘って何よとちょっと思ったけど、外れていないのでムッとしても言い返せなかった。
「魔王っていうのは怪物なんかじゃねえんだ。瘴気を発生させる原因、素をいうんだ。何かのはずみで瘴気溜まりを生じさせるような、きっかけになったものかな。きっかけはなんだかはわからんのだけどね」
カイさんは私の方を見て、下手くそなウィンクをする。ハロルドさんはあんなに上手なのに。
「その瘴気溜まりの影響を受けて、生き物が魔物になるって言われているんだよ。今回の瘴気溜まりが発生したのが、最果ての森じゃないかっていうのはそっちの方から魔物が流れてくるからっていうのが理由だな」
「迷惑な話なんだね。それで魔物が増えて小麦や野菜の値段が上がっているんだ」
私が眉を顰めてそう言うと、まったくだと返された。
「多少増えるぐらいならば、俺達の飯のタネなんだがな。増えすぎるのは考えもんだ。まあ、魔王が居座れば居座るほど瘴気溜まりが大きくなるっていうのがなあ」
ああ、そうか。私達が召喚されたのは、その瘴気溜まりをなんとかするためだったんだ。魔物も沢山発生しているから、その対処も必要だからみんな戦うための称号が付与されたんだろうか。私みたいなよくわからないのも混ざっちゃいるけど。
もしかしたら、私の能力は皆に美味しいご飯を作ってモチベーションを上げるためとか? そんなものがあるだろうか。でも、私のご飯には力を増大させるようなものはない。やっぱり、私はハズレなのかな。いや、ご飯は大事、大事だよ。うん、気にせず美味しいご飯をつくりましょう。
「瘴気だまりかぁ。どうやったら、なくなるんですか?」
なんとなく口にした。だって、気になるでしょう。やっぱり竜崎さんが聖女様っていうのは浄化する能力とかが必要だからなのかな、とそう思ったからだった。
「ああ。そうだな。いくつか手はある。一つは、強大な浄化魔法によって浄化することで、すべて無かったことにすることだ。もし、その要因が生き物ならば、輪廻の輪からも抹消されるっていう話だな」
え、浄化するっていうのは徹底的に無くなっちゃうの? と驚く。そういえば、前に見た時、スープを被った少年はスープの残骸も水も無くなっていたなと思い出して納得した。あれ、本当に消えちゃっていたんだ。それからこの世界にも輪廻の輪っていう考えがあるのかぁ、ってことにも。そうして思ったのは、どうして魔王なんかになったのかは分からないけれど、全部無くなっちゃうっていうのも気の毒な気がした。
「それから、それがまだ生きている存在ならば抹消すれば良いとも聞く。勇者みたいな奴が打ち倒すってやつだな。これなら俺達冒険者でもできそうだって思うけど、瘴気は人間も狂わすからな。瘴気溜まりの中心まで行くのは大変なんだよ。やっぱり道を通すには浄化が必要なんだ」
自分たちでもできそうだなんてカイさんは自信家なんだなとちょっと頭を過ったけど、カイさん達の実力がどれだけなのか、そういえば私は知らない。
「それと、もう一つ方法があるって聞いたことがある。昔話なんだがな。全てを無にするのではなくて、瘴気も含めて世界に還元するとかいう方法もあるって。でも、そちらの方は、どんな魔法なのかも何もわかっていないそうだ。ただ、かつて強大な魔王が現れた時にそれを理の中に戻したっていう話が伝わっているだけでな」
カイさんはそう言うと、視線を遠くに見やる。
そんな会話をしてから一ヵ月ぐらいが経った。
「最果ての森に面していたリストア王国が壊滅したそうだ」
「なんでも、王国にスタンピードが発生して王都に魔物たちが溢れたって話だ」
カイさんとハロルドさんは、北方に行く事になった。ギルドからの依頼で、国境を超えてその先に向かうのだそうだ。
「北が落ち着きゃ、また戻ってくるからさ」
カイさんがポンポンと私の頭を叩く。
「絶対ですよ。また新作のハンバーガーを考えておきますからね」
泣きたいのを我慢して、だからちょっと唇を尖らせて強がってそういってみせる。
「マッキーの作ったハンバーガーが一番旨いからな。新作、楽しみにしている」
「あ、それは僕も期待している。向こうで新しい調味料とか見つけたら持って帰るから、期待して待っていてね」
ハロルドさんもそんな軽い調子で笑う。
「お前、信用してないみたいだけどな。俺達は強いんだぜ」
ふざけたように言うから、全然信用できないよ。
二人には沢山お弁当を作ってもっていってもらう。
二人を見送った。
「あの二人は、特級クラスの冒険者だ。大丈夫だよ」
二人が去った後に、ジギルさんがそんなふうに言ってくれた。
「そうよ、カイさんはハンバーガーホリックだから仕事を完遂したらとっとと戻ってくるわよ」
マーサさんもそんな事を添えてくれる。
でも、ハンバーガーは今ではあちこちでつくられるようになっている。そうしたら、どこかで私のよりも美味しいハンガーガーを見つけて、そこにいついちゃうかもしれない。そんな事をつい思ってしまう。




