10 浄化はとっても有能なようです
ハンバーガーを買いに来たお客さん用に、お店の前の開いたスペースにベンチを置いていたんだけれど、小さな長テーブルも追加した。少人数でやってくるクラスメイトたちが、この場所で駄弁りながらハンバーガーをぱくつくために設置したのがきっかけだった。
ここで食べる人はそんなにはいない。だから、ベンチが二つとテーブル一つで十分。それでも、クラスメイトやカイさん達が利用しているのを見ていたからだろうか。ベンチが空いていれば、それ以外のお客さんもここで楽しんでくれる人もチラホラでてきた。
でも、基本はテイクアウト。
お店にはそんなに大勢のお客さんが一遍に来るわけじゃなく、ぽつりぽつりとやってくる。混むのはね、お弁当目当ての朝かな。朝早く開いて、仕事行く人向けのお弁当やっているから。宿屋の分はちゃんと中で渡しているよ。あとはお昼に抜けて買っていく人もいるけど、そういう人は大抵、他の場所で食べている。
竜崎さんも相変わらずよく顔を出してくれる。だいたい一緒なのは向田さんと如月さん。それにプラスアルファで一人、二人。
気に入ってくれているのは、テリヤキバーガーで、いつもそれを注文して食べてってくれる。かなり気に入ってくれているのかなあ。今日、彼女が注文したのはハンバーガーセット。好きなハンバーガーとポテトと飲み物かスープのセットをメニューにしたのだ。ハンバーガーは普通のとテリヤキバーガーの2種類で、飲み物は野菜のスムージーと果物のスムージー、コーンポタージュスープと野菜ゴロゴロスープ。本日の彼女は、テリヤキバーガーと果物スムージーをご所望ということで。ベンチで竜崎さん達が美味しそうに食べている。スムージーじゃなくて本当はシェイクが提供できたらいいな、なんて思うけどそれは仕方がない。ない知識は振るえない。
そこへ近所の子がハンバーガーを買いに来た。いつもやってくる工房の子だ。いつもお使いで皆の分も頼まれてくるのだ。
ハンバーガーセットを6セット、飲み物はスープを頼まれた。野菜ゴロゴロスープは大きな鍋を持ってきているので、それに注ぐ。
大きな袋に人数分のハンバーガーとポテトをいれる。それを鍋の蓋の上に載せて、鍋の両脇にある取手をつかんで戻ろうとした。毎度のことなんで気にしていなかったのだけど、どうも彼はベンチで美味しそうにテリヤキバーガーを食べている竜崎さんたちに目がいってしまったみたいで、足元が疎かになってしまったようだ。
その結果、転んで鍋の中のスープはその子と辺りにぶち撒けられてしまった。ハンバーガーが入った大きな袋はポンッと宙に舞ったせいで、無事だったんだけど。スープは熱かったはずなので慌てて水を汲み置きしていたバケツを持って少年のところまで行き、ザバンッと彼に水をかけた。
「大丈夫、熱くない。やけどしてない?」
そう声をかけたが、鍋から溢れたスープは素には戻らない。彼は泣きべそをかいている。とりあえず手を引いて店の中にいれて水をもう少しかけた方がよいだろうか、ちょっと赤くなっているみたい。
「大丈夫、私に任せて」
竜崎さんが駆け寄ってきた。スープの残骸と水でびしょ濡れになった少年は、恥ずかしかったのか別な意味で少し頬が赤くなった。まあね、竜崎さんは美人だもんね。君は彼女に見惚れてころんだんだね。
「まあ、汚れちゃってもいるわね。でも、大丈夫よ。安心して」
そう言うと、竜崎さんが何かを唱える。すると金色のほわほわした光が瞬き、少年はきれいになった。いや、ゴロゴロ野菜のゴロゴロ達やスープ、私がぶちまけたバケツの水、どこにいったの? 少年も私もびっくりだよ。濡れ鼠だったのに服が乾いている。
それから、スープはオマケしてやることにして、新しく鍋に注ぎいれたのを受け取って少年は嬉しそうにして帰っていった。
「ま、お得意さんだからね。今回だけ、特別だよ。ちゃんと気をつけて帰りなよ」
「ありがとう」
ってね。大事にならずによかった。
あの後、竜崎さんに聞いたら、あれが竜崎さんの持っている【浄化】という力だそうだ。汚れなんかをきれいにしてしまう能力だそう。それに【治癒】もできるそうで、少年には黙っていたが火傷については黙って治してしまっていたらしい。
「色々とありがとう、竜崎さん。お陰で助かったよ。あの子も火傷とか酷いことにならなくて良かった」
お礼を言うと、竜崎さんはちょっと照れたようにはにかむ。
「魔法のお師匠様に言われているの。機会があれば積極的に使いなさいって。使えば使うほど能力があがるそうなの。だから、気にしないで」
ほえ、そうなんだと思う。そうか、だからコントンも毎日ずっと使い続けているからレベルが上がっていくのかと納得もした。
「すごいねぇ。なんかキレイになっていたもんね」
そう、彼女は店先で溢れたスープもみなキレイに浄化で片付けてくれたのだ。スープの残骸は跡形もなくなっていて、元通りになっている。
その後、他の人達の能力の話も少し聞いた。向田さんは射手で他の人では届かないぐらい遠くまで矢を入れるそうだ。しかもこの頃は矢に火とか魔法もまとわせられるようになったんだって。如月さんは薬師で、いろいろな薬を作っているのだそうだ。
「ようやく魔力回復薬とかが作れるようになったの」
そうはにかんで教えてくれた。皆頑張っているんだ。なんだかちょっと嬉しくなって、またお土産を沢山持って帰ってもらった。私も頑張ろうと思う。
夢を見た。
助けて、助けて。そう願っても叶えてくれる人はいない。
そのうち、そう考えることも諦めた。
唯々諾々と与えられた仕事をこなしていく。
もう哀しいとか虚しいとかも思わない。そう思っていたんだ。その時までは。
「このままではいけない。私と一緒に逃げよう」
そう言ってくれた人。その人の手の温もり。
だが、叔父に捕まり、俺はその人を殺すことになった。俺の手は血で汚れた。
幾人も、幾人も手にかけることになっていく……
そうだ、俺に、救いなんてない。
この頃、夢見が悪いのだろうか。目が覚めるとなにか哀しい思いにとらわれるときがある。起きたら、涙が流れたあとがあった。でも、何も覚えていないんだよね。あちらの世界が恋しいのかなとも思ったけど、考えてみればそれほど執着して帰りたいと思っていないことに気がついた。
やっぱり、向こうでの人生は終わっているからなのかな。




