1 異世界召喚だそうです
一言で言えば、異世界召喚ってやつなのかな。
うちの高校、富士吉田に学校の施設がある。2年生はそこに宿泊して富士登山して、下山したら近くの遊園地に遊びに行くという恒例行事があるのだ。それで、貸し切りバスで学校施設に行くためのバスに乗ってた。富士山に行くときも五合目まではバスで行くから大丈夫だ、なんて言われても山に登るのなんてメンドイなあと思わなくもない。
しかもバスの座席は出席番号順に決められていて、仲の良い加奈子達と離れてしまって話し相手がいない。私の席は隣がいないので一人で座っている。ま、無理して話したりしなくてすむから、いいのかな。それでぼうっと窓の外を眺めていた。
(あーあ。早く着かないかなあ)
そんな事を考えながら。すると突然、背中の方から凄い衝撃に襲われて眼の前が真っ暗になった。
気がつくと石畳の上に立っている。見回せば、周囲にはクラスメイトが立っている。
「加奈子」
小声で呼んでみたけど、近くにはいなさそう。此処は何処だろう。一体何が起きたんだろう。クラスメイトの向こうに見知らぬ大人が見える。彼らは一体何者だ?
「あなた達は私達の召喚に応じてくださったのです」
ここは私達の世界ではないのだそうだ。大人は全部で五人、白い装束で中央の一人だけが金糸の刺繍が入っている上掛けを着ている。
「私達は、神殿の神官をしております。私はこの神殿の神官長をしている者です」
彼らは戸惑う私達が落ち着くまで待つと、丁寧に説明してくれた。
この世界では現在魔物が激増しているという。どこかに魔物を生み出す核となる魔王が出現したからだと説明される。そして、この神殿には古くから伝わる勇者召喚の儀があり、それを行ったのだという。
今いる場所を見回すと、窓がない部屋で四方の壁面に篝火が焚かれていてそれなりに明るい場所ではある。
「この召喚の儀は、別の世界で召喚の儀で召喚される方は、命を失う直前の人をこの世界で再生させるというものです。それによって召喚された人達に特殊な力を宿るのです。どうかその力で、私達の世界をお救いください」
ああ、そうなんだ。では、もうあの世界に戻ることはできないってことなんだと、そんな事を他人事のように思った。バスが《《丁度》》事故って死んじゃうところを召喚されたんだもの、戻っても死んでるって事だよねと。ここにいるのはバスに乗っていた全員じゃなかった。私達のクラスは37名なんだけど、ここにいるのは30名だけ。それに先生や運転手さんなんかもここには居ない。
「先頭に座っていた人達、いないね」
誰かがポツリと呟いた。
居ない人達がバスの先頭部分にいた人達だし、自分たちが後ろから衝撃を受けていた自覚がある。
(加奈子は相川だから一番前だった)
彼女は無事だっただろうか。ひどい怪我とかしてないといいけど、なんて他人事のようにも思うばかりで、自分達の事に現実味を感じない。それは私だけではなく、周りのクラスメイトもそんな感じなのかどこかぼうっとしている気がする。
「それでは、皆様。場所を移しましょう。拝殿の間にご案内します。国王陛下と謁見していただいてから、皆様に授けられたであろう力について、鑑定鏡にて拝見させていただきます」
金糸の装束の神官長が言う。このままここに居ても仕方が無いと、皆で案内されるままに金属の扉の先に進み、階段を上がって上階にでた。
階段を上がり廊下を歩いて行く。右手は壁だけど、左手は中庭になっていて日の光が差している。さっきの部屋って地下だったんだなあ、なんてことを思いながら神官長さん達の後ろを歩いて行く。
それで拝殿の間という場所までやってきて、この国の王様との謁見になった。王様と周囲には騎士のような人々がいる。王様から何かお言葉? というのをもらってたみたいだけど、私は殆ど聞いてなかった。皆もそんな感じだった。ただ皆の興味は、自分たちがもらった特殊な力というのを鑑定してくれるという話に気も漫ろって感じだった気がする。
私は、このメンバーの中だと仲の良い友人がいないので、なんとなく、居心地が悪かった。だから、最後方で歩いていたんだけど。
うちのクラスは別にいじめとかないんだけど、やっぱりグループってある。私も伊藤とか遠藤とかいう名字だったら良かったのに、とか思う。ここに加奈子がいないのが、心許ない。ま、元々友達、少ない上にクラス替えしたせいで、加奈子以外の仲の良かった友達と分かれちゃったから余計なんだけど。
鑑定鏡っていうのは拝殿の間に設置されている大きな鏡で、鏡の下に赤い玉が嵌まっている。この赤い玉に触れるとその人の能力が浮かび上がってくるのだそうだ。そう、説明を受けた。
「鑑定は出席番号順にしましょう」
クラス委員の竜崎美月さんが場を仕切る。同じくクラス委員の華山颯馬君も彼女に合わせてクラスメイトを並べていく。先生いないから、二人がクラスをまとめようとしてくれている。
さて、30名のうち、男子が16名。それで全員が戦闘系の称号持ちだった。戦闘の系統は魔法系と剣士系の二つみたい。剣士、戦士みたいなのと、魔道士、召喚士、精霊使いみたいなものがでてる。魔道士は得意な魔法の系統があるみたいだ。それで称号についてのレベルも出てくる。人によって違うのだけれど、レベルは1から10ぐらいでばらつきがあるみたい。
男子のうち3名については、剣聖と賢者、勇者だっていうのが出た。それでその場にいた神官長さん達や王様とその関係者も含めて、とっても盛り上がっている。ちなみに剣聖は華山君だ。剣聖っていうのは剣士系でトップの称号で、賢者っていうのは魔法系でトップみたい。華山君は剣道部だと聞いたことがあったから、それでかな。
女子は生産系が多い。武器防具を作るような鍛冶とか、錬金術、薬師とかが続く。それでも戦闘系の魔道士、剣士がそれぞれ2人ずつでた。彼女たちはたしかソフトボール部と不フェンシング部だった気がする。やっぱり、部活とかそういうのと関係があるのかなぁ、なんてちょっと思った。
そしてクラス委員の竜崎さんの順番となった。
「称号 聖女 レベル14 です」
周囲がどよめいた。魔物を討伐する戦闘系も重要だけど、魔物や魔王のもたらす瘴気を浄化するために、神殿側としては聖女もしくは聖人を望んでいたそうなのだ。で、その聖女様に如月さんが確定したのだ。しかも最初かられベルが14、今まででてきたレベルでも一番だ。
(さすがクラス委員? )
そんな馬鹿な事を考えて、彼女の後、最後に私の番となった。和里田だから、小学校の頃からずっと出席番号は最後。あんなに盛り上がっているけど、最後に私の番なんて、なんだかなあと思わなくもない。それでも仕方がない、鑑定鏡の赤い玉にふれる。
「称号 コントン レベル グチャグチャ? 」
読み上げられた私の称号に、辺りが静まり返る。鑑定鏡の側で称号について書かれている書物を確認していた神官さんが首をひねっている。本をいくら調べても称号のコントンっていうのも、グチャグチャというレベルについては、何一つ出ていないという結論がでた。
手を離してもう一度鑑定してみたけれども、結果は変わらない。何? このグチャグチャって。レベルって数値じゃないの?