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新入社員歓迎会編 -駿side脳内再生-

「今日の新入社員歓迎会は、駅前の居酒屋『ひまわり』です。業務終了した方から向かってくださいねー。あ、伊丹で予約してあるんで入口でそう言ってくださーい。」

毎年新入社員歓迎会の幹事を喜んで買って出てくれる伊丹がそう叫ぶと、研修中の新入社員達がざわざわと色めき立つ。

「おい、終わらないと歓迎会には出られないからな。きちんとココを理解して書類提出出来たら参加OKだ。」

発破をかけた途端にざわざわしていた新人達は書類に目を落とし真面目に取り組み始めた。


この前の残業依頼、羽田と話が出来ていない。

今日は羽田の隣の席を死守して、酒の力を借りてでも何とか関係修復したい。


羽田と伊丹が荷物を持って執務室を出ようとしている。

俺も羽田の隣の席が埋まる前に早めに行かなくては。


新入社員達の進捗の悪さにイライラしながら自分の仕事もこなす。

「主任。終わりました。確認お願いします。」

やっと最後の一人が終わって提出しに来た。

「よし。じゃあ行くか。」

営業第一課の新人達は4人いる。彼等全員を連れて駅前の居酒屋へと向かう。


入口を入ると、まだ業務の終わらない社員が多いのか、それほど面子が揃っていないようだ。


ええっと、羽田は…いた。

よし。隣の席が空いてる。


羽田は小さめのグラスに注いだビールを両手で持ってちびちびと飲んでいた。

「羽田、お疲れ。」

俺が隣に座ると気不味そうに

「お……お疲れ様です。」

と、赤い顔をしている。

赤い顔になるほどまだ飲んではいないだろうが…


「主任!私にも乾杯してくださぁい。」

俺の右隣の席を神戸が陣取り、しな垂れかかる様に上目遣いでグラスを差し出している。


こいつ、メンド臭いんだよな。すぐ分かり易い色目を使ってくるし。

俺の心の中には羽田しかいないんだよ。


そんなことを口に出して言えるはずもなく、グラスを合わせて乾杯する。

羽田を挟んで反対隣に久米島が座った。

「羽田先輩、お疲れ様です。乾杯してください。

羽田先輩の隣に座れて嬉しいっす。」


はぁ? 何言ってんだ、お前。


「え?なんで?」

羽田が驚いていると、

「久米島くんはぁ~羽田先輩のことね~…」

と神戸が暴露った。


は? 久米島が羽田を好きだと?

こいつ要注意人物だな。


向かいの席に伊丹が座りながら

「久米島くん。今日は羽田の隣で思いっきり甘えちゃいな。」

とけしかける。

それからなぜか俺の顔を見てニヤっとした。


伊丹!やめろっっ!!


不思議そうな顔を伊丹に向けている羽田をちらりと見て

「ほらぁ~。頑張んないと一人訳分からないって顔の人がいるよ。」


伊丹のヤツ、久米島が羽田のことを狙ってるって知ってるのか。


「いやっ…伊丹先輩…勘弁してください。」

真っ赤な顔をした久米島が羽田を熱い目で見ている。

羽田も久米島の方を向いていてこちらに顔を向けてくれない。

俺は焦りから眉間に皺でも寄っていたんだろう。

ふと羽田がこちらに振り返ったので、慌てて無表情を決め込みビールジョッキを傾ける。

「主にぃん。私お酒弱いんですぅ。面倒みてやってくださいねっ♡」

と神戸がやたらと密着しながら色目を使ってきたので厳しく断ろうと思ったら

「じゃあ、あんまり飲まなければいいでしょ。自重(じちょう)しなさい、自重。」

と伊丹がはっきりと忠告してくれた。


有難い。


伊丹に心の中で感謝していると

「やぁ~ん。主にぃん。伊丹先輩が怖いぃ。

なんかぁ、みんなの目が怖いですぅ。成田主にぃん助けてぇ…♡」

と神戸が俺の首元に両手を回して抱き付き胸を押し当ててきた。


あ、羽田がこっちを見て複雑な顔をしている。

もしかして嫉妬してくれているのか?

そんなはずはないか…


いつも俺のことを取り囲み褒めちぎってくれる女性達に神戸が連れて行かれて正直ホッとしていた。

この御時世ちょっと注意をして泣かれようものなら、やれパワハラだとかモラハラだとか騒がれかねない。

さっきの神戸の行為は明らかに部下から上司へのセクハラだけどな。


ホッとしたのも束の間、今度は久米島が羽田の気を引こうと必死になっている様を黙って聞いていた。

「羽田先輩。羽田先輩は何でそんなに可愛いんっすか? 俺、毎日羽田先輩に会えるのをモチベに仕事頑張れます。」


おいおい。露骨に口説き始めたぞ。


「は? どうしたの久米島くん? 大分酔っぱらっちゃったみたいだね。」

「酔ってないっすよ。俺…」

と、羽田の手を強い力で握っている。


こらっ。俺の羽田の手を握るな。

嫌がってるじゃないか。

お前みたいな脳筋の馬鹿力で羽田を襲うな!!


「それまでだ、久米島。それ以上はセクハラだぞ。」

久米島はハッとして手を放した。


素直なヤツでよかった。

羽田の事は俺が守らなくては…


「あ…ありがとう成田。なんかびっくりしちゃった。」

俺の方に向き直って羽田が可愛い笑顔で笑う。

「お前に隙があるからだ。」

俺は目の前で羽田を持って行かれそうなシチュエーションに焦っていたのか、やっとの思いで絞り出した声でそう言った。

「そんなこと言うなら成田だってさっき神戸さんに隙だらけだったじゃないのよ。」

「ああ…そういやぁそうだな。」

軽く笑ってはいたけど、心の中では羽田への想いが強い焦りに変わっていく。


飲み会の隣の席なんてシチュエーションをまたしても無駄にしてしまう駿だった。




次回は明日18時更新予定です。

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