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新入社員歓迎会編 -美優side脳内再生-

今年もフレッシュな社員が入社してくる時期になった。

この第一営業部にも新しい風が吹いてきた。


「初めまして。この度第一営業部に配属になりました、久米島(くめじま)(しん)です。宜しくお願いします。」

学生時代はきっと何かのスポーツに打ち込んでいたんであろう見るからにスポーツマンの爽やかな新人だ。

まだ挨拶しかしていないのに額に汗を浮かべて、肩幅に足を開き笑顔で姿勢よく立っている。

「同じく第一営業部に配属されました、神戸麻衣です。宜しくお願いします。」

巻き髪で人目を引くような華やかな女性だ。

「彼女、大学のミスコンで優勝してるんだって…」

後ろから若葉がこそこそと耳打ちしてきた。

「へぇ……綺麗だもんね。」

「っていうか、それを鼻にかけてるって嫌味な女じゃない?」


……ああ、波乱の予感しかしない……


他にも数名の新入社員の挨拶の後、主任の成田による研修が始まった。




4月の第3金曜日。新入社員の顔から随分学生っぽさが抜けてきた頃。

「今日の新入社員歓迎会は、駅前の居酒屋『ひまわり』です。業務終了した方から向かってくださいねー。」

今年もはりきって伊丹若葉が幹事をやってくれている。

「あ、伊丹で予約してあるんで入口でそう言ってくださーい。」


早めに業務を終わらせて、若葉と一緒に居酒屋へと向かう。


ああ、この前の残業から成田とまともに顔合わせてないんだよなぁ……

どうか、近くの席になりませんように……


私のこのフラグは、研修を終えて新入社員達をゾロゾロと連れてきた成田が私の右隣に座ったことでしっかりと回収されてしまった。


なんで隣に座るのよ!!

他にも空いてる席いっぱいあるじゃない。


「羽田、お疲れ。」

「お……お疲れ様です。」

「主任!私にも乾杯してくださぁい。」

成田の反対隣には、元ミスコン優勝の神戸が座り、成田にしな垂れかかる様に上目遣いでグラスを差し出している。

そして私の左隣の席にはスポーツマンの久米島くんが座っている。


「羽田先輩、お疲れ様です。乾杯してください。」

久米島くんが私の前に檸檬サワーの入ったグラスを差し出す。

私も、つられてビールグラスを差し出す。

この久米島くん、ラッキー入社の私をバカにすることなく懐いてくれる希少な後輩だ。

というか、まだ社会人になって間もないから気付いてないだけかもしれないけど…


「羽田先輩の隣に座れて嬉しいっす。」

「え?なんで?」

「久米島くんはぁ~羽田先輩のことね~…」

成田の向こう側からひょっこり顔を出した神戸がバシッと決まったまつエクの目を瞬かせてそう言った。

「あ、バカ…神戸…言うなよ。」

「はぁ~い。うふふ。」

丁度そこに一通りビールをお酌し終わって戻ってきた伊丹が

「久米島くん。今日は羽田の隣で思いっきり甘えちゃいな。」

揶揄(からか)ってきた。


ん? どゆこと?


私が訳も分からず若葉の顔を見てると、悪い顔で成田の事をチラリと見た後、私の方に視線を移した。

「ほらぁ~。頑張んないと一人訳分からないって顔の人がいるよ。」

「いやっ…伊丹先輩…勘弁してください。」

まだお酒も飲んでいない久米島くんの顔がどんどん赤く染まっていく。


ふと成田を見ると無表情でビールジョッキを傾けている。

「主にぃん。私お酒弱いんですぅ。面倒みてやってくださいねっ♡」

と成田のジョッキを持つ右腕を両腕でガッチリとホールドして太腿を成田にべったりとくっつけている。

「じゃあ、あんまり飲まなければいいでしょ。自重(じちょう)しなさい、自重。」

向かいに座った伊丹の一言に

「やぁ~ん。主にぃん。伊丹先輩が怖いぃ。」

と神戸が成田の首元に両手を回して抱き付いた。

その瞬間、なんだか凄くカッとなってしまった。


あれ? なんで今ムカついちゃったんだろう…

神戸さんが成田に抱き付いたって私には関係ないのに…

私が成田を好き…? いや、あんなイジワルなヤツありえないし…

こんなイケメンエリートとラッキー入社の私じゃ釣り合わないし…


他の女子社員が神戸の行動にザワザワし始めた。

モテる成田にそんな行動をとったら後が怖いのは分かってるだろうに…

「なんかぁ、みんなの目が怖いですぅ。成田主にぃん助けてぇ…♡」

ますます抱きつく神戸。

「ちょっと、神戸さん!」

我慢の限界を超えた成田の取り巻きの女性社員達が神戸を取り囲んだ。


これは…ヤバい。トラブルが勃発するかも…


神戸は数人の女性社員達に無理矢理他の席に連れて行かれそうになり、

「いやぁ! 成田しゅにぃん!!」

と助けを求めるが、成田は何も言わずただスンとしてジョッキを傾けるのみだ。

神戸は、成田の反応の悪さにムッとした表情を浮かべたが、すぐさま引きずられる様に拉致されていった。

「あ~あ。連れて行かれちゃった。ありゃ集団リンチにあってるな、今頃。」

伊丹が爆笑しながら達観していた。


「羽田先輩。次、何飲みます?」

久米島くんが隣から覗き込むように聞いてきた。

「あ、じゃあお茶を…冷たいウーロン茶で。」

「分かりました。ちょっと待っててくださいね。」

忠犬のように気を使ってくれる久米島くんにはなんだか耳と尻尾が生えている気がする。

「来ましたよ。はい、ウーロン茶。」

笑顔で手渡ししてくれるそのお尻の尻尾は、ブンブン振られているように見える。

「羽田先輩。羽田先輩は何でそんなに可愛いんっすか? 俺、毎日羽田先輩に会えるのをモチベに仕事頑張れます。」

「は? どうしたの久米島くん? 大分酔っぱらっちゃったみたいだね。」

「酔ってないっすよ。俺…」

と、私の手を強い力で握ってきた。

「それまでだ、久米島。それ以上はセクハラだぞ。」

成田に言われ、久米島はハッとして手を放した。

まるでご主人様に『待て』と言われたように…


「あ…ありがとう成田。なんかびっくりしちゃった。」

「お前に隙があるからだ。」

低い声でそう言う成田は少し怒っている…?

「そんなこと言うなら成田だってさっき神戸さんに隙だらけだったじゃないのよ。」

「ああ…そういやぁそうだな。」

と笑う成田につられて笑った。




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