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一人暮らしの彼が熱を出す編 -美優side脳内再生-

明日からゴールデンウィークという日、人々が浮足立ち始めている。

会社では、飛び石連休にならないように間の就業日に有給を取る人が目立つ。

「美優はどうするの?」

伊丹若葉が有給申請書を書きながらそう聞いてきた。

「どうしようかな? どうせ何の予定もないし…若葉はどうするの?」

「うふ。平日昼間に堂々とデートしたいから。」

「え? いつの間に彼ができたの?」

「最近よ。 千歳太一さんと付き合ってるの。」

「ええええぇぇーーーー!? この前初めて出会ったばかりだよね?」

「私も太一さんも美優や成田とは違うのよ。」

「え? どういう意味?」

「あんた達をこんな間近で見てきて何も分からないとでも思ってるの?

見ていてイライラするほど進捗状況が悪いじゃない。」

どうやら私の成田への想いがバレているらしい。

「だって…」

「まあ、とんでもない御曹司ってことが判明しちゃったしね。 美優が遠慮する気持ちも分からないでもないけど。」


成田が御曹司なんて知らなきゃよかった。

どこかの御令嬢の許嫁がいたりするんじゃないだろうか…


「ところで今日成田は出社してないの?」

「ああ、熱出して寝込んでるらしいよ。鬼の霍乱ってヤツね。太一さんに助けを求めてるらしいけど、彼もGW前で片付けなきゃいけない仕事が山積みらしくて。

…あ、そうだ。美優看病しに行ってあげたら?」

「なんで私が? 家政婦さんがいるのに…」

「なんでって…そりゃあ、ねぇ。 ……あ、電話…太一さんからだ。」


業務中だというのに堂々と彼からの電話に応答する若葉を見て、恋人が出来ると仕事優先だった彼女が変われば変わるものだと思っていた。


「ねえ美優。太一さんが美優に成田の所に行ってあげてくれないかって。家政婦の宇部さんがGWで旦那さんと海外で暮らしている娘さんの所に行っちゃってるらしいの。」

両掌を顎の下で組み、わざとらしく目をしばしばする若葉に

「分かったよ。 様子見に行くだけなら…」

と答えると若葉がニヤリと悪い笑顔になった。


終業後、ドラッグストアとスーパーに寄って成田の家を目指す。


えっと…風邪薬でしょ、水でしょ、あ、スポドリもあった方がいいか。

それからおでこに貼る冷却シートでしょ…

あと、おかゆとうどんとどっちがいいかな?

なにか消化に良い物作ってあげたいな。


一通りの買い物を終えて成田のマンションに向かうと、コンシェルジュが

「羽田美優様ですね。」

と話しかけてきた。

「千歳太一様より石見様のお部屋の鍵をお預かりしています。」

とカードキーを渡された。


石見…そっか。成田じゃなくて石見なんだ。

太一さんはいつの間にコンシェルジュに鍵を渡したんだろう?


何となく策略的な物を感じながら成田の部屋へと向かう。

カードキーを差し込み部屋に入ると相変わらずの部屋の広さや豪華さに『ホントに御曹司なんだな』と実感する。


成田の寝室にそぉっと入ると、きちんと布団を掛けて寝ている姿が目に入る。

ベッドの傍らに座り、おでこに手を当ててみると確かに熱い。結構な高熱が出ているようだ。

今、買ってきた冷却シートをおでこに一枚貼ると成田がピクリとした。

「んんっ……」

「あ、冷たかった? ごめん。」

と、立ちあがろうとしたその時、手首を引っ張られすっぽりと成田の腕の中にはまってしまった。

「…✕✕…好きだ…。」

熱に浮かされながら囁くように小さな声で誰かの名前を言っているが、意識が朦朧としているようだ。

「誰? 聞き取れないよ。 誰と間違えてるの?」

突然、不意を突かれた。

成田にキスをされた。


え……


慌てて唇を押さえて寝室から逃げ出してしまった。


何?なんでキスなんか…

誰と間違えてるのよ…

そんな相手がいるならその人に看病して貰えばいいじゃない…


大の大人がキス位で悩んでる場合か…と気を取り直しスーパーで買って来た物をキッチンで並べる。

「取り合えず、雑炊かな…?」

キャベツや茸を細かく切ってご飯と一緒に煮込み、調味料と、少しだけおろした生姜を入れて味を調える。

私が小さい頃から熱を出すと母が作ってくれた羽田家直伝の雑炊だ。

「これを食べれば熱は下がるはず。」

少しだけお玉ですくって小皿に移し、味見をしてみる。

「うん。いい味。」

成田のキッチンは宇部さんが普段使っているのでとても使い易い仕様になっていて、


蓋つきの丼はどこにあるのかな?

箸とレンゲも…


と探そうとするとすぐ見つけられる。

「よし、出来た。食べられるといいけど…」

出来上がった雑炊をトレイに乗せて成田のいる寝室へと向かう。

ドアを開けた途端にさっきのキスを思い出してしまって顔が赤くなるのが分かる。

「ふぅ~」

深呼吸をひとつして何もなかったように成田に声を掛ける。

「成田。ご飯食べられる?」

目を開けた成田が子供のような眼差しで私を見ている。

「成田、大丈夫? これ少しでも食べてお薬飲もうね。」

トレイを傍らに置いて、成田の背中に手を回し少しだけ身体を起こす。

途端にまた、成田に抱き締められ腕の中にすっぽりと納まってしまった。

「ちょっ…成田…成田…?」

ふっと抱き締められていた腕が緩んだ。

「え? 羽田? なんで?」

「太一さんに頼まれたの。宇部さんがいないからって。」

「ああ、そうなのか…悪かったな。」

「どうせ、予定もなかったからいいんだけどさ…」

と言って、誰かと勘違いするような人がいるならその人に頼めばいいのに…と言いそうになって言葉を飲み込んだ。


「雑炊、羽田家直伝の雑炊作ったから食べてみて。」

と言っても成田は手を付けようとはしない。

「食欲ない?」

「いや。食べる。」

と言って黙って口を開けている。


え? これ食べさせてくれってこと?


トレイを成田の膝の上に置き、ベッドの傍らにちょこんと座る。

「熱いから気を付けて。」

レンゲですくった雑炊を3回ほどフーフーして成田の口元へと運ぶ。

素直に口を開けて食べてくれる子供のような成田がなんだかとても可愛い。

「旨いな。」

思いの外、食欲はあるみたいでよかった。

結局、蓋つきの丼に盛り付けた分はすっかり平らげてくれた。

私はトレイを持ってキッチンへ行き、使った器と器具を洗って、ペットボトルの水と風邪薬を持って寝室へ戻る。

「じゃあ、お薬飲んで。」

シートから2錠のカプセル状の薬を出して成田の手に乗せる。

言われるがままに素直に薬を口に含み、ペットボトルの水でコクリと飲みこむ。


仕事中もこの位、素直に可愛くしてればいいのに…


いつも厳しく当たられるから、このギャップがキュンとする。


寝室の引き出しを開けるとパジャマの着替えがきちんと畳まれて仕舞ってあった。

タオルを取りに浴室に行くと、これもまたきちんと畳まれて仕舞われている。

会った事はないけど宇部さんがいかに優れた家政婦さんかと言うのが手に取るようにわかる。

「汗かいてるから着替えようか。それ脱いで。」

というと、ふらふらとベッドから立ち上がろうとしたので

「待って、待って。そのままでいいよ。私が脱がすから。」

パジャマの上のボタンを一つずつ外していくと綺麗な筋肉が露わになる。

あまり見ないように、意識しないように装い、背中やお腹の汗を拭きとりながら新しいパジャマを着せる。

「次は下ね。」

ゴロンと寝転がらせた状態でウエスト部分のゴムを持って下に引っ張って脱がせる。

内腿や外腿についた美しい筋肉やボクサーパンツの凹凸になっている部分に目がいってしまう。

急いで新しいパジャマの下も履かせようとする。けど、慣れないせいか男性特有の凸部分に引っかかって手間取ってしまった。

「ご…ごめん…」

「あ…ああ…」

なんだか成田の顔が見れない。


「さ、じゃあ、もうちょっと寝て。薬が効けば熱はすぐに下がるだろうから…」

「ああ、うん。」

そう言いながらベッドに深く潜りこんでいく成田。

脱がせたパジャマとタオルを洗濯機に頬り込みスイッチを押す。


さすが裕福な家の洗濯機は洗剤も柔軟剤も自動投入のお高いヤツだわ。


成田の寝室に戻ると、もう寝息を立てて寝入っていた。

私もベッドの横にあるソファに膝を抱えるようにして座っているといつの間にか寝てしまった。




次回は明日18時更新予定です。

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